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何故、あの日のあの子が私のテーブルにいるの? そして、テーブルの上ではトラ丸と、小さくなったヒョウが戯れていた。
あのヒョウって、あの子の足元にいた子だ。
《君、聖獣のくせに食べ過ぎ》
《うるさい! ワシに指図するなぁ!》
《あ? 君、新入りのくせに生意気だね》
《ほっとけ! あ、マリ!》
「コラコラ、2人ともテーブルの上で喧嘩しない! ケーキが潰れちゃうわ!」
ヒョイッと、トラ丸とヒョウを片手ずつに抱っこしたが、2人に睨まれ。
《ニンゲン、ボクに触るな!》
《マリ、ワシに触るな!》
ダブル猫パンチをくらう!
少し痛いけど、モフモフ!
ああ、なんたる幸せ。
「フフ、2人ともいいパンチを持っているわね! ごちそうさま」
「なんだよ、その感想は? ハハハッ!」
「(あ、笑ってる)……ところで、あなたはどちら様でしょうか?」
優雅にテーブルに座り、楽しげに私達を見つめる男の子に質問した。彼は笑顔を変えず椅子から立ち上がると、胸に手を当て挨拶した。
「挨拶が遅れた、僕はヴォルフ・クエルノだ」
え⁉︎ クエルノ?
魔法大国の――王子!
「――し、失礼致しました、クエルノ殿下。私はカッツェ公爵の娘マリーナ・カッツェです」
抱えていた、トラ丸とヒョウを芝生の上に下ろして、スカートを持って挨拶した。
「畏まらなくていいよ。ところで、マリーナ嬢は僕の聖獣に触れて、会話もできているね」
「はい。触れますし、話もできます」
「面白い! 普通は他の聖獣に触れることも、増してや、全部の聖獣とは会話することができない。君は特別な力を持っているのかな?」
楽しげに微笑むクエルノ殿下。彼が今言ったことが事実なら――転生のときに得た、チートというものになる。
前世の説明もしなくちゃ、いけなくなりそうだから、今はシラを切ろう。
「わかりません――お母様の聖獣が見えて話せたのは、つい最近のことですので……」
「最近? そうか、まだ聖獣の研究は終わっていないから――話せるようになるかもしれないかな? 僕はマリーナ嬢の様にクロと話がしてみたい」
ご自身のヒョウの頭を撫でる、クロと呼ばれたヒョウも、嬉しげに目をつむり撫でられていた。
《ボクも大好きな、ご主人様と話したい》
クエルノ殿下とクロ君はお互いを思い、お互いの声は聞こえているけど話せない、それがどうしてかはわからない。私に聖獣が見えて話せると知ったのは……そう、自分が転生者で悪役令嬢だと知った日以降だ。
(乙女ゲームのヒロインは彼の聖獣に触れたけど、会話はしていなかった……)
足元のトラ丸がツンツンと、足を突っつき。
《あのな……マリ。ワシがマリと話したいと、「お礼を言いたい」と神様に頼んだからだと思うぞ》
トラ丸は2人に聞こえないよう、念話に変えて私に話した。