12
「君、早く願うんだ!」
ええ? 急にそんなことをいっても。
あっ、と。私の心に前世のお友達が浮かんだ。
フワフワで、モコモコ、ポッチャリのお友達。
(私だけが友達だと思っていたかもしれないけど、君は私の大切な存在だった!)
トラ丸!
「キュ――!!」
頭の上のモコモコ、モフモフが光り、私が思い描いた形を変えて行く。
「うそ、トラ丸だ!」
姿形が同じ……
《気安くワレに触るなぁ、小娘ぇ!》
抱きつこうとした私にトラ丸は、軽やかにネコキックを頬に入れた。おお、これこれ! トラ丸を抱っこしようものなら繰り出された、ネコらしからぬ重いキック――この感覚は懐かしい!
「あなた、トラ丸に似てる!」
《アホ! ワシはホンモノだが? ん? マリ、お前……あの日の事を覚えていないのか?》
「覚えていない?」
マリは前世の私の名前だ。
この子は私の友達のトラ丸。
「また、トラ丸に会えて嬉しいけど……」
《ほんとうに、覚えていないのだな》
訳がわからず見合う私と、トラ丸に。
《2人とも待て、そのブタの姿が丸見えだ》
「ブタ⁉︎」
《ワシはブタでは無い!》
《そうなのか? しかし場所が悪い、悪目立ちしているぞ。今は、そこまでにするといい》
ジロウに言われてハッと周りを見渡す――あちゃ、私とトラ丸は注目を浴びていた。デリオン殿下に至っては眉をひそめ、何か言いたげだ。
「マリーナ嬢! その精霊の卵は……ボクの誕生日祝いに貰った物だ! 返せ!」
これがデリオン殿下の誕生日祝い? だとすると……魔法大国クエルノから贈られたもの。だけど、あの男の子の「形を思い浮かべて」のせいでこうなった。
「誰か、マリーナ嬢を捕まえろ」
「ええ――!」
騎士が殿下の命令を受けて近寄ってくる。あわわ……このままだと殿下の誕生日プレゼントを奪ったとして、不敬罪になる? でも、トラ丸に似た子を渡したくない。
――どうしたらいいの?
「それを、返しやがれ!」
「お待ちくださいデリオン王子! この子はあなたと縁がなかった。後日、新しい"精霊の卵"をあなたにお贈りいたしましょう。今日はボクに免じて許してください」
男の子が礼儀正しく頭を下げると、デリオン殿下は一瞬、歯を食いしばり。
「――クソッ、わかった!」
「ありがとう、デリオン王子」
よかった――この場は丸く収まったようだ。よし、この隙をみて庭園を離れよう。ジロウもその気だったらしく姿を現し体を大きくさせて、私のドレスを引っ張り背中に乗せ飛び上がる。
わっ!
その途端、会場から湧き上がる声と遠くにお母様がいた。ジロウはどうやら騒ぎを聞きつけた、お母様に呼ばれたようだ。
庭園を去る前にあの男の子を見ると、ジッと私を見ていてニッコリ笑った。その男の子の傍に、ジロウと同じくらいの大きさのヒョウがいた。
(あの子も、聖獣を持っているのね)
私は名前も知らない、男の子が気になった。