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学園に入学祝いの舞踏会の2日前――ジャガイモ畑から帰ると、屋敷に舞踏会へのドレスが届いたと、育児休暇中のカカナお母様に伝えられた。
「マリーナ、舞踏会のドレスが届きました。着替えてから私の執務室へ来なさい」
「はい、わかりました」
部屋に戻り汚れた服を洗濯物カゴにしまい、着替えてお母様の執務室へトラ丸と向かった。コンコンコンと扉を叩き執務室にトラ丸と入ると、子供ベッドに眠るロールとその側で眠るジロウがいた。
「マリーナ、届いたドレスはコレよ」
舞踏会にはデリオン殿下色のドレスだと思っていた。
しかし、お母様が見せてくれたドレス――それ見て私は驚きを隠せなかった。だってそのドレスの色が……白銀、水色を使ったヴォルフ様の色のドレスだった。
「カカナお母様、私がこのドレスを着てもいいのですか?」
「ええ、着ていいわ。後であなたの部屋へ運ぶわね」
ヴォルフ様の色を着るのは叶わないと思っていた――嬉しくて涙がでる。その様子を見たお母様は「よかったわね」と目を覚ましたロールと、ジロウを連れて部屋を出ていった。
ポロポロ涙が止まらない。
「ヴォルフ様の色、嬉しい――ウッ、ウウ」
私はドレスを撫でながら静かに泣いた。それを静かに見ていた、トラ丸は私の頭から飛び降りると。
《少し散歩に行ってくる》
〈気にしなくていいよ〉
と言ったが、何処かへと走っていってしまった。
トラ丸が走って向かったのは、カイとトルが住む別荘だった。トラ丸は走りながら……大事なマリをガチに泣かせた、アイツにどんな理由があっても許せん。
いまも思い出す、中学1の頃のマリとのかなしい思い出。マリは自分と会うとき、笑顔だが、いつも一人ぼっちだった。
〈コイツは、美味いメシをくれるいい人間〉
そのマリが自分を見つけ餌をくれながら、ニコニコと話し出した。明日はマリの誕生日だと――いつもいない両親が誕生日にプレゼントを持って来てくれると、また仲の良い両親が見れるかもとウキウキしていた。
自分が頭を擦り寄せると。
「ええ、トラ丸も祝ってくれるの! ありがとう、大好き」
と自分を抱っこするマリ。自分もこんなに喜ぶマリに見て嬉しくなった。次の日――マリの誕生日は雨が降った。自分はどこかの屋根の下で、雨宿りをしていた。
(いまの時間、マリは家族と一緒か)
そう思ったが――違った。次の日、マリは普通にしていたが、すると思った昨日の誕生日の話はしなかった。どこか、あきらめた感じもした。
(マリに、昨日の話はしないほうがいいな)
自分はエサを貰おうと、マリの側に座った。
マリはいつものように笑っていると思ったが――ポロポロと声を出さずに泣いていた。
「トラ丸はずっと私の側にいてね……トラ丸が私の家族、お兄ちゃんになって……」
「ニャ――(なる)ニャ――(なってやる!)」
「なってくれるの? 嬉しい」
この日ワシはマリの兄になったんだ、マリを泣かすやつは誰でも許さん。ワシは走り、目的地に着くと「出てこい」と声を上げた。