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カイの話ではデリオン殿下は用事で、友達のカイがダンス練習の相手に選ばれた。初めての人と踊るのは緊張するけど、私はドレスを持って頭を下げた。
トラ丸は邪魔になるからと、私の頭の上から降りて、日の当たる場所に移動した。
〈ねぇ、トラ丸。ダンス練習が終わって屋敷に帰ったら、カルロにポテチ作ってもらおう〉
《ワシはポテチと、フライドポテトも食べたい》
〈フライドポテト! いいわね、頼みましょう〉
礼の後、私よりも身長の高いカイを見つめた。
「よろしくお願いします、カイ様」
「よろしく、マリ嬢」
彼が背中に手を回し、ホールドをしてカイとダンスを踊る。初めて踊る彼とのダンスは、自分勝手なデリオン殿下とは違い踊りやすく、ギルドで感じた彼の大きな手のひらには硬い剣ダコがあった。
(カイさん? 様、はギルドで強いと聞いていたけど、努力して強くなったんだ)
「マリ嬢はダンスが上手いね」
「ありがとうございます、カイ様」
なれない、くすぐったい呼び方と。それ以上はお互いの趣味、好きなものを知らず会話は続かないが。ダンスの途中――身長の高いカイを見上げると、優しく私を見つめる彼の瞳とかち合う。
――うわっ。デリオン殿下と踊るときはなにも感じなかったけど、彼の優しい瞳にドキドキしてしまった。
「いつもの冒険着とは違う、そのドレス姿は可愛いね。でも胸が開き過ぎじゃないかい」
「え、胸ですか?」
カイの瞳が私の胸を見ていた。そう私の胸は乙女ゲームの様に形が良く、大きく育った。しかし初めてのダンスでそれを言うとは、いくら紳士のようなカイでも胸が気になるようだ。
「舞踏会当日の衣装ですわ、他の令嬢も同じようなドレスを身のつけますわ」
「そうか……すまなかった」
視線を外し、眉をひそめた彼に私は微笑み。
「いいえ、気になさらないでください」
と告げる。
私たちの他に誰もいない、ダンスホールでのダンスの練習。休みを挟みながらカイと何度踊っただろう――彼はやはりダンスが上手く、踊っていて楽しかった。
時刻となり今日のダンスの練習は終わる。
「マリ嬢、練習お疲れさま。悪いのだけど、帰りの馬車に俺とトルを乗せてくれないかい」
「え? ――ええ、ルノンの街までお戻りに乗るのですか?」
「ああ、その近くに俺の別荘があるからね」
となると、ルノンの街の近くに建てられた、あの大きな別荘。なんでもお父様の古くからの知り合いの、息子さんが住むと言っていた。
「では、行きましょう」
〈トラ丸終わったよ、帰ろう〉
《おう! ポテチ、フライドポテト》
練習が終わり、いつものように頭に乗るトラ丸。そのトラ丸が見えているのか、カイの瞳が追った。やはりカイにも聖獣がいるからか、聖獣のトラ丸が見えているみたい。
(だけど、なにも言わないから。彼の聖獣について聞けないなぁ)
カイとトルの後についていく、彼らの聖獣の黒猫と鷹を見つめた。