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長靴を履いた梅雨の私

作者: 島田愛里寿

もう最悪…何で晴れの日に長靴を履く羽目になっちゃったんだろう。

梅雨の晴れ間のとある日の通学途中の電車の中、昨日の事を後悔している私がいた。通学用の革靴を汚してしまったのだ。昨日は午後から雨予報。お母様は長靴を履いて行きなさいと言っていたが、思春期に差し掛かる年頃の私にとって長靴で学校に行くのは正直少し恥ずかしい。だってもう5年生だもん。それに学校指定の長靴は紺色無地でなんか味気ない。同じ濃紺でもストラップシューズの方が可愛くて履きやすい。そんな訳で昨日の私は普段の通学用の靴で学校に行ったのだ。やっぱり私の通う学園の制服には上品な靴じゃないと似合わないよ。そう思って過ごしていたのだが、案の定午後から天気は崩れてしまった。梅雨らしくジメジメした空気、下校する頃には雨は本降りとなり足元には地面から跳ね返った雨水がかかり続ける。傘こそ学校の置き傘で賄ったが、無防備な足元はどうしようもない。更に運の悪いことに、歩道のすぐ脇の車線を走る車の泥はねが私の足元にかかり、制服のスカートの裾と、白い靴下と黒い通学靴がびっしょり濡れてしまったのだ。あーあ、どうしよう。お母様に何て言い訳しようかなぁ。と考えたり、汚れが目立つ夏服があまり汚れなくて良かったな、黒いランドセルも中まで水が染み込んでこないくらいで良かったな。と考えたりしながら自宅へと帰ったのだ。

案の定お母様からは「だから長靴で行きなさいって言ったじゃない」と叱られましたが、もう後の祭り。

結局、今朝になってもいつもの通学靴は乾かず、朝から晴れた今日に長靴で通学する羽目になった。

まだ乾いていないんだから長靴履いていってね。今朝お母様に言われた言葉が脳裏をよぎる。

ちなみに今日着ているのは夏服の白いセーラー服、黒いランドセル、白い靴下、そして濃紺の長靴。

今時珍しいセーラー服で少し目立つような制服だからか、より視線を感じてしまう。特に都内では晴れた日に長靴を履く人はかなり限られる。小学生とはいえ10代の少女で長靴を履いている子なんて雨の日でも少数派なのに…。そう思ったりしながら俯き続けて何とか学校まで辿り着いた。

下足入れの所で長靴を脱いだ時、晴れて気温も高かったこともあり、足が蒸れていた。我ながら臭い。下足入れを俯瞰して見ると私1人だけ長靴。実に滑稽な光景だ。


 げっ!今日体育あるじゃん。しかも外で。

教室の席に着き時間割を確認して気づいた。いつもなら校庭用の運動靴がロッカーに置いてあるのだが、先週濡らしてからまだ持ってきていない。連日の雨でまだ乾いていないのだ。うっかりが重なるとここまでキツいとは。

そして迎えた体育の時間。よりによって苦手なサッカー。私だけ長靴で確実に走りにくい。なるべく邪魔しないようにボールが来ないトコに退避し続ける。しかしそうは問屋が卸さなかった。「マリーちゃんそっち行ったよー」やっぱり来てしまった。嫌な予感は当たるものだ。

ちなみに私は万里子(まりこ)という名だ。色白な見た目で発想がぶっ飛んでいる部分がある事もあり、マリーアントワネットと重ねて、学友からはマリーちゃんと呼ばれている。

そんな皆んなのお姫様な状態の私がサッカーなんてできるはずもなく、案の定蹴り上げた足は大きく空振り。はずみで長靴が飛んでいってしまい靴下が汚れてしまうというオチまで呼び込んでしまった。あーあもう最悪。晴れてる日に長靴履いたのに結局靴下は汚れた。つくづくツイていない。学友の皆からは優しくしてもらっているが靴下が乾く訳でもなく根本的な問題は解決しない。

そして帰る時には長靴を素足履きする事となり、余計に足の裏と長靴の中が臭くなった。もう何で長靴って晴れるとこんなに無力なの。そう思いながら電車を降り自宅へ向かっていたその時、近道に通り抜けている近所の公園で小さい子が数人遊んでいた。小学1年生くらいだろうか。その公園には大きめの噴水があった。そしてどうやらその子たちのボールが噴水の中で立ち往生している様子だった。

まぁ、私には関係ないかなぁ。余計なお世話だよねえ。と、やらない理由を付けてそそくさと通り過ぎようとしたその時、「優しそうなおねーちゃん。ボールとってくれませんか」と呼ばれてしまったのだ。

私が優しい!?優しそうに見えるのは学園の制服による色彩心理の効果によるものではないのか。そう思っていたが、半ば強制的にその小さな子たちに手を引かれ噴水近くまで連行される事となったのだ。

幸い噴水はさほど出力は強くなく受け皿部分も浅かったので、大人サイズ一歩手前の私の長靴なら楽々とボールのところまで行けた。靴下は脱いでるから長靴の中まで濡れても良いって?いえいえ、噴水は中水道だからあまり触れたくないのが本音だ。触れても特に害はないが飲用可の上水道よりは確実に汚い。皆の姫様らしくにわか潔癖もあるのだ。

とりあえず無事にボールは救出できた。その小さな子たちから「長靴のおねーちゃんありがとう」と言われたのが少し引っかかる。なんか不名誉な呼ばれ方だなぁと思いながらも、少し気に入ってもいた。セーラー服に長靴って少女戦士系作品に割とあるな。まぁ向こうはブーツなんだろうけど。と考えたりもした。

そしてこの時から長靴って何か良いな、少し強くなれる気がする。いつも何もできない私がたまには役に立てるんだ、と思い始めたのである。


 そして翌日、昼から雨の予報が出ていた。

お母様からは「革靴乾いているけどどうする?長靴イヤなんでしょ?」と聞かれたが「ううん、長靴で行きたい。ちょっと恥ずかしいのは事実だけど、それ以上に長靴の良さがわかった気がするから」そう言って私はお気に入りの紺色の長靴を履いて学校へと向かうのであった。


今日も私の長靴が誰かの役に立つ事がないかなぁ 毎日密かにそう思いながら梅雨の時期を過ごすのであった。

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