65 託された箱を探して
リアル多忙につき更新が間が開きました。おまたせしてごめんなさい。
地下鉱山の底は、澱のように溜まっていた瘴気が全て浄化され、雨上がりの空気のように澄んでいた。
魔物の気配も瘴気もなく、魔物化された人々を使って生み出された悲哀のカースドラゴンは無事浄化できたようだ。
安堵したとたん膝の力が抜け地面に膝を着きそうだったわたしを、腰を抱いていた腕が力を込めて防いだ。
「力を使い果たしたか。あの大魔法では無理もない」
「うん、もう魔力が空っぽだよ」
「その甲斐はあったな。見事だった、リンカ」
「ふふ、ありがとう。今やれる最上級の魔法を使ったんだ。…使えたのはみんなのおかげだよ。ありがとう」
「俺たちのおかげとはどういうことだ?」
「まぁ大したことじゃないから気にしないで」
「?」
魔王は不思議そうにわたしを見たけれどわたしが話す気がないと分かり軽く息をついただけで、追求はしてこなかった。
ゲーデとヴラドが時間を稼いで魔王がわたしを守ってくれたからわたしはあの大魔法を詠唱できた。
これはわたしにとって大きな出来事だ。
パーティが詠唱に協力してくれた。
それはパーティなら当たり前のことのはずだけれど、かつてのわたしにはその当たり前のことをしてくれる仲間がいなかった。ウィルは仲間だけれど他二人がね… こんな隙の大きな大魔法、仲間と信頼しあえなければとても使えなかった。
だからうれしかった。
「きゃあっ!」
ひとり感慨深くなっていたのだけれど、不意に膝裏に腕を回され抱き上げられた。
「暴れるな。大人しく抱かれていろ」
「え… いやあの」
有無をいわせずわたしを横抱きにした魔王は転移の術を使い地上に移動した。前方には来た時に通った時と変わらない静かな森が広がっている。
「ねぇ」
「あの男からの預かり物を探すのだろう?」
「うん、位置はあの人からイメージが流れ込んできたからわかるしすぐ終わるよ」
「ではさっさと回収するとしよう」
あの男ことバートに託された箱を回収するために全員で静かな森の中を進む。
「それにしても静かだね。動物も魔物もいないみたいだし」
「近くにあれほど強烈な瘴気があれば気配に敏感な動物は寄り付かない。魔物はいたとしてもオーガにやられただろう」
「そうか」
「オーガといえば過去の幻視、また視たようだが体に異変は?」
「…視ているときは夢の中みたいな感覚かな。体は動かせないし自分の意思とは関係なく誰かの記憶が流れ込んでくる感じ。今はなんともないよ」
「そうか。…急に視るようになったのは『精霊の谷』に行った後からか」
「そう…だね」
魔王がわたしの息抜きになればと連れて行ってくれた精霊の谷。あそこに行った後に神殿跡で初めて過去の幻視を体験した。タイミングで考えれば精霊の谷に行ったことがきっかけだろうけれど、原因として考えられるとすれば聖女の力を使って視ようとして倒れたことだろう。
「だけどそれでなんで視るようになったんだろう?」
「……」
「なにか心当たりがあるの?」
「いや。ただ便利ではあるがお前には負担だろうから嫌ではないか?」
「まぁ辛いところはあるかな。急に視ると心構えができてないから残酷なのを視るとくるものはあるよ」
「手放したいか?」
「…ううん、それでも情報が手に入るし、無念を抱えながら亡くなった人の記憶と想いを拾い上げられたら少しは救いになるんじゃないかなって。だからこのままでいいよ」
「そうか。なら視た内容はすべて俺に話せ」
「もちろん情報共有するけど…」
「重要な情報ではなさそうなこともすべてだ。俺はお前に代わって視ることはできないが、お前が視て受けた悲しみや苦しみを聞いてやることはできる。だから抱え込むなよ」
「…うん、わかった。…ありがとう」
「ああ」
わたしが過去の幻視で潰れてしまわないように支えてくれるつもりのようだ。
確かにわたしは打たれ弱いからあまりに辛いものを視ればメンタルがやられてしまうかも…
どうして魔王はわたしのそういう性格がわかったのかな…
その二人のやりとりを後ろから見ていたゲーデはポツリとつぶやいた。
「…二人は心の距離がずいぶん近いのだな」
「そうだね。それに僕には二人が対等な関係に見える」
「対等…」
魔王陛下と聖女がか。
立場も違えば片や1000年世界を守ってきた真の英雄とまだ十数年しか生きていない異世界からきて聖女になり日の浅い二人がか。
「上も下もなく、どちらかが先頭に立ってもう片方が着いていくでもなく、対等に横並びに立っている。とはいえ陛下は守るつもりなのだろうけれど、彼女は守られてばかりは良しとしなそうな芯の強さがある」
「…芯の強さはわかる」
「ふふ、女の子の褒め言葉としてはどうかと思うけれど根性ありそうだよね」
「そうだな…」
過去の幻視で顔を青白くしながらも耐えて魔物化した者たちの解放を成し遂げた姿は聖女というよりは女戦士という言葉が合っていそうなくらいには勇ましかった。いままでにいたかは知らないが女勇者という表現の方がしっくりくるくらいに。
伝え聞いていた今までの聖女とは毛色が違うようだ。そして自分が見てきた人間とも。
ゲーデは聖女の少女を見る自身の目が変わりつつあることを悟りながら自然と彼女を目で追っていくようになっていた。
そしてその聖女を抱えた自らの主君である魔王の歩みが止まった。
「ここだよ」
大きな岩の前で立ち止まり、その場に聖女を下ろすと王が魔法で地面を掘り返し目当てのものを見つけたようだ。
王がこれまた魔法で頑丈そうな金属製の箱を宙に浮かせ取り出した。
大きさは昔ながらの革の学生鞄くらいだ。
「これは魔封箱だな」
「魔封箱ってたしか魔力をもつ物を外に魔力が漏れないように保管する特別な箱だっけ? 聖女教育で習ったよ」
「そうだ。箱を開ける。何が出てくるか分からんから離れていろ」
「はいはーい、リンカちゃんは僕らの後ろにいようね」
「え、鑑定魔法でまず調べたりとかは…」
「この箱は魔法を弾くから無効だ」
ヴラドに背中を押されて距離を取らされると魔王が解除の魔法を唱え蓋が自動で開いた。
幸い危険なことはなかったのでわたしたちは宙に浮かせたままの箱の中を覗き込むと、そこには真っ黒な瘴気石が3つあった。
「どうやらここは瘴気石の製造もやっていたようだな」
「あれだけの瘴気溜まりならいくらでも作れたでしょうね。っとおや、なにか箱の底にあるようだ
ね?」
「…魔法陣?」
「これは転移の魔法陣だ。この魔法陣で瘴気石を何処かに送っていたのだろう」
「どこか。あるいは誰かかな?」
誰か。
そこで鉱山で聞いた声がふと頭をよぎった。
『この実験が成功し、最凶の魔物が生み出せたとなれば、ミコ様もお慶びになられるだろう。強く濃い瘴気を生み出せるようになればーーー』
「ミコ」
「何?」
「『ミコ様』に送っていたのかもしれない」
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