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52 いざ再びオーランド王国へ

「ーーーなるほどな。ヴラド、お前の言い分も分からないでもない。俺もゲーデには過去を乗り越えてもらいたいと思っていた。母親と同性のリンカなら慣れるにはおあつらえむきかもな。あいつはそもそも絶対的に関わった人間の数が少ない。その中での悪体験だ。人を嫌うのも自然というもの。もっと関わりを持てば価値観が変わるか」



ヴラドのゲーデに対する真摯な主張が響いたようで魔王が怒りの矛を収めた。

それにわたしで人間に慣れるリハビリをする案ものむようだ。わたしも協力したいからそのまま許可をして欲しい。



「でしょう〜? 分かってもらえます?」

「いいだろう。リンカとゲーデを同行してオーランド王国での王子との接触と瘴気対策についての情報を引き出せ。二つ目に邪神信仰者どもの動きを探れ。境界の国で動いているならばまた瘴気を生み出しより大地の汚染の拡大を目論んでいる可能性が高い。阻止しろ」

「御意に」



許可が降りたのでこれで正式にオーランド王国での調査ができる。

ヴラドはいいとしてゲーデとわたしというまだ意志疎通、信頼関係が築けていない者同士。苦労するに違いないけれどやれるだけやろう。

説明のためにいつしか立ち上がっていたヴラドが魔王の御前から下がろうとしていた。

しかし魔王の命令はまだ終わっていなかった。



「だが無断でリンカを連れ出した件は話が別だ。罰として朝までこの場で正座して待て」

「えっ」

「聞こえなかったか?」

「御意に…」

「リンカ、ちょっと来い」



執務室を出て行く魔王に呼ばれて正座したままのヴラドを置いて扉をくぐった。部屋の中を振り返るとヴラドのしゅんとした背中を最後に扉が閉められた。右腕で抑えて扉を閉めた魔王を見上げると、偶然にも壁ドンのような体勢だった。不意打ちの至近距離に頬が熱くなる。魔王はその美しい顔立ちの眉間に皺を寄せてわたしの頭から爪先まで視線を動かした。

そういえばさっきオーランドの港町でもこんな反応をしていた。



「あの、なにか…?」

「お前、その服はヴラドが用意したのか?」

「う、うん、そう」

「体の線が出すぎじゃないか? 露出も多い」



どうやらわたしの服装が気に入らないらしい。

ショートパンツとその下に着る黒いレギンス、袖の短いトップスで体にフィットして線は確かに出ている。まあ首元が見えたり袖も二の腕が出てるしいつもの服より肌は出てるかな。でもそんなに問題ある格好じゃないと思うけど…ってそうか。こっちの常識ではセクシーなのか。

この世界の大多数の女性はスカートを着ていて、なるべく肌を見せないように首まで隠れる長袖でロングスカートが一般的。肌や体の輪郭が分かる服装は恥じらいが足りないと眉をひそめられると教えられていた。

またパンツスタイルは騎士や冒険者などの戦いに身を置く人用という感覚なので、一応聖女のわたしには似合わないと思っているのかもしれない。



「元の世界ではこのくらいは普通だよ。デニムとかパンツスタイルばっかりしてたし」

「…城に来る前も後も聖女のローブばかり着ていたためスカートを好んでいるものだと思っていた。用意した服は着ていなかったがスカートばかりだったからか?」

「うーん、そうじゃなくていつでも聖女の力を振るえるように仕事着というか戦闘服というか。あの聖女のローブって刺繍に防御力上昇の力がこもってるらしいから、想定外の戦いが起きたとしても鎧をきているみたいなもので安全安心かなって思って」

「ほう…」



なんだその「ほう」って。

まぁ、スカートは着慣れないから特に興味はなかったのもあってタンスもといクローゼットの肥やしにしているけれど。



「明日もオーランド王国にその服で行くつもりか?」

「うん、そうだけど?」

「………」



今度は黙ってしまったけどなにやら不満そうな顔をしている。なんだかわからないけれど格好が問題ということのようだから、明日は何か全身が隠れるような上着なりマントなり羽織れるものを着ていこう。




翌朝、昨日ヴラドからもらった服をまた着た。ちなみにジョゼフィーヌに洗濯してもらってある。「夜遅いのにごめんね」と言ったら照れながら「女の子は綺麗な服を着なくちゃ。気にしないで」と返された。可愛かったので抱きしめようとしたらガクブルしだしたのでめちゃくちゃ謝った。

昨日の服を来た上に部屋のクローゼットから出したカーキ色のフード付きマントを羽織った。これなら膝下まで体をすっぽり覆うから体の線も肌も出ないから魔王も眉をしかめないはず。

朝食の席、今日はゲーデも来てくれた。今日も避けられるかと思って無心になりダメージをやり過ごそうとしていたので思いがけずうれしかった。なおそのわたしの心情を察していたこの場の心の機微がわかる男たち(つまりツヴァイ以外)は、低く見積もったゲーデの対応からのギャップで感動しているわたしを見て切なくなっていたらしい。


食後、わたしたちは執務室に集められた。

室内には魔王と配下の四天王全員とわたし。

ゲーデは嫌がってボイコットする可能性を考えていたけれど、魔王の命令だからと従うと了承したそうだ。

ヴラドは一晩正座の上、いつもはこれから寝る時間なのでものすごく眠そうで体だるそうにしていたけれど誰も突っ込まなかった。

いよいよ出発となり見送りを魔王とツヴァイとガエルがしてくれるのかと思った予想は裏切られた。



「では後を頼んだ」

「お早いお帰りをお待ちしております」

「オーランド王国か。俺様は行ったことがないな。面白そうでうらやましいぞ王よ」



うん? この会話からしてまさか…



「俺もオーランド王国に同行する。向こうではリュシオンと呼べ」



あの聖教会本部での姿と同じ黒い服に黒い長剣を身につけたアメジスト色の瞳の魔王こと、リュシオンがオーランド王国への四人目の同行者になった。


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