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51 ヴラドのゲーデへの願い

少々残酷な過去の話ですので読むにあたりご了承ください。

幸せな家庭を築いていたゲーデの父親が死んだ。

四天王だった強い人物がどうして…



「ゲーデが死んだ時、息子である現在のゲーデはまだ10歳だったんだよ。逝くのが早すぎるよね」

「そんな…死因は…?」

「死因ははっきりとは分からない。突然倒れたと、息子の方のゲーデからは聞いている。あいつが第一発見者だ。まだ寝ていた早朝に物音がして外に出たら父親が倒れていたそうだ。外傷もなく、それまで病の兆候はなかったと証言している」

「遺体を調べたりはしなかったの?」

「それは無理だ。魔族は魔物と同じく、死んだら何も残らない」

「あ…」



そうか、魔物と同じで死んだその身は崩壊して消えてしまうのか。この城にいる使用人たちやアルマとゼルマにジョゼフィーヌ、四天王のヴラドとツヴァイとガエル、それに魔王も…?

突きつけられた残酷な現実に胸が苦しくなる。

魔王城で出会った魔族のみんなは人間味あふれる気のいい人たちだ。わたしを便利な道具のように扱った人間もいた中、よほど血の通った思いやりあふれる接し方をしてくれた。なのに終わり方は魔物と同じで何も残らない。そんなのって…

そしてゲーデは父親の体が崩壊して消えるのを見てしまったのか。

子どもだった彼はどんなに辛い思いをしただろう。



「続けるね。父親が急死してしまい息子のゲーデと母親は深い悲しみに暮れたそうだ。そして今度は心労からか母親が床に臥した。荒い呼吸に高熱に苦しむ母親を助けるために息子のゲーデは薬を手に入れようと人里に降りた。人里には父親のゲーデが時々転移して物資を購入していたようで、息子の方はそれに時々付き添い訪れた経験はあったそうだ」

「時々こちらから様子を見に行っていたんでしょう? 手を貸せなかったの?」

「本当にね、今でも悔やまれるよ。数ヶ月から一年に一度様子を見ていたのだけど、その時は注意を向けていなかった。大事な時に気づいてあげられなかったんだ。父親の方はともかくゲーデと母親の最悪の時に間に合っていればと思うよ」

「最悪の時…?」



魔王とヴラドが顔を曇らせた。



「人里に降りたゲーデは人間に薬を売って欲しいと頼んだ。父親ともども顔見知りではあったものの、険しく人の立ち入れない山奥から徒歩でやってきたゲーデを人々は訝しんだ。『もしや人ではない存在ではないか』と」



嫌な予感がする。

人は不安や恐れにより誤った判断をする。



「急いで病の母親の元に帰ろうとし注意力散漫になっていたゲーデは後をつけてくる村人たちに気付かず家を突き止められてしまった。そして村人たちに母親との会話を盗み聞かれ、『父親が魔王配下の魔族で四天王であり、人間の母親との混血児』だと知られてしまう。そしてそれを知った村人たちは、国に通報し騎士団が派遣され、ゲーデと母親の家に押し寄せた」



息を呑み口を手で覆い悲鳴を殺した。



「家に火を放たれ、ゲーデは慌ててふらつく母親に肩を貸して外に出た。そこに弓兵に一斉に矢を放たれ二人とも撃たれた。そして母親が胸を撃ち抜かれた。ゲーデはすぐさま矢を引き抜き回復薬を母親に飲ませたが出血が酷く、そのまま息を引き取った。

ゲーデは母親の亡骸を掻き抱き慟哭の声を上げた。

そして父親と同じく右目に魔眼が現れ、父親譲りの即死の能力でその場のすべての人間を皆殺しにした。その後、ゲーデの家の様子を見に行ったヴラドの眷属で配下の者が両親の墓の前に意識がなくうずくまったあいつを見つけ城に緊急に保護した。何日も何も口にせずにいたようでかなり衰弱しており、生死の境を彷徨った。魔眼に目覚めた途端に暴走させたのも負担が大きかったようだ。そして体が回復したのち、その力を買い新たな四天王ゲーデとして配下に迎え入れた」

「それが200年と少し前のことだよ。それからゲーデはずっと人間を憎んで嫌悪しているんだ」

「…当然だよ。憎むに決まってる」



父親が急死して、母親が病に倒れ、助けたくて人に関わったら裏切られて母親を殺された。

きっと今までの人生で一番辛い時に人間から残酷な仕打ちを受けたら人間を憎みもするし嫌悪するに決まってる。

そんなゲーデに人間のわたしはやっぱり不用意に近づいたらいけないと思う。

これは深い深い心の傷に違いない。

他人が土足で踏み入っちゃいけない。

人嫌いのリハビリなんてやめた方がーーー



「でもね、ゲーデだって頭ではわかっているはずなんだ。人間全てがあいつの母親を奪ったような連中じゃないって。だってあいつを愛した母親は人間なんだから。でも泥沼から、果てない憎しみの苦しさから抜け出せない。誰かを何かを長く強く憎み続けることは辛いものだ。僕はゲーデをそれらから解放させてあげたい。忘れる必要はないけれど乗り越えて過去のこととして欲しい。あの子自身の幸せや楽しみを見つけて欲しい。そこでリンカちゃんだ」

「わたしにできることなんて…」

「君はゲーデのことを気にしているでしょ? あいつの人となりを聞いていい子だと思っているみたいだね。仲良くしたいと思っている。うれしいよ、あんな感じ悪い態度をとってるのにそんな風に思ってくれて」



どうして知っているのだろう。そういった話はアルマたちと中庭の家庭菜園でしただけだからあの子たちから聞いたのか。



「だからこれは僕のわがまま。ゲーデに少しずつでも人間であるリンカちゃんに慣れてもらうために、リハビリとして一緒に行動して同じ時間を過ごして欲しいんだ。だから屁理屈捏ねて無理矢理二人をオーランド王国に連れていったんだよ!」

「それであんなにあの国にわたしたちを引き止めてたんだ」

「そういうこと!」

「じゃあ本来はヴラドの眷属?…部下?が調査するはずだったんだね」

「いや〜、そこは実際みんないまにも過労死しそうな程に働いてくれてるから、送り込む人手がないんだよね〜」

「お前、部下をこき使い過ぎなんじゃないか?」



ヴラドの眷属のみなさん、一回ボイコットして労働環境の改善を訴えた方が良いのでは…


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