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6 魔物の森の聖女

読んでいただきありがとうございます。

 なんで魔王の魔力が…まさか近くにいたのだろうか。

 なんでこんなところにいるの。

 …なんでわたしを助けてくれたんだろう。


「リンカ、大丈夫かい? ポーションもう一本飲むかい?」


 呆然としていたわたしを心配そうにウィルがのぞきこんでいた。

 

 周りになんの気配もなく安全だと判断したウィルはすぐさまわたしを治療すべく、怪我の治療薬のポーションを取り出した。

 そしてわたしの口元に瓶の飲み口を当て少しずつ飲ませてくれた。

 飲み干してすぐ回復したので起き上がろうとしたわたしに「もっと安静にしていて」「木に寄りかかって休むかい? 抱えて運ぼう」とかやたらと世話を焼こうとするのを丁重にお断りした。


 とりあえずわからないことは考えてもしょうがない。


 切り替えてまずは目の前の問題から片付けよう。


「ウィル、大丈夫だから落ち着いて」


「しかし、君は頭を打ったし心配だよ。本当になんともないのかい?」


「うん、本当に大丈夫。それよりあの魔物、オルトロスだよね。

なんであんな強力な魔物が魔王の支配地域じゃないところにいるんだろう」


「そうだね、おかしなことだ。この辺りは瘴気は少ないから強力な魔物は存在しないはず。どうなっているのか少し調べたい」


 世話焼きから注意をうつし、彼はオルトロスの遺体があった場所に近づいていった。

 その姿をぼんやりと追っていると彼は足を止め、しゃがんでなにかをじっと見ている。


「どうしたの?」


「これは…精霊昌の残骸。そうか、オルトロスはこれが原因か」


「え?」


 確認するとよく占い師がもっている球状の水晶玉…の一部欠けたものがあった。

 三分のニくらいしかない。


「精霊昌って何? 水晶球じゃないの?」


「精霊昌は精霊から発せられる精霊力が長い年月をかけて結晶化したものだよ。精霊がたくさん住む土地に産み出される」


「へえ」


 精霊もこの世界いたのか。聖女講座では説明なかったな。

 浅く狭い内容しか叩き込まれず送り出されたからか。


「精霊昌は瘴気を寄せ付けないため清廉な環境を維持できるから神聖な神々を祀る祭壇や神殿を守るため精霊昌はよく置かれる」


「じゃあこの精霊昌は祭壇にあったものなんだ」


「おそらくは。古い神々の祭壇は人々に忘れ去られて森の中に放置されていることは珍しくないからそういう代物かもね」


 現在この世界の神様一番人気は『創造神アウレリア』様。

 そういえば他の神様は信仰が廃れて力を失くしてしまった、と講義を受けた気がする。

 ここで祀られてた神様もそうした一柱なんだろう。

 この世界、信心深いものだと思ってたのに意外だなと思って覚えていた。


「ただし、精霊昌の内包するその精霊力は時間経過や、内包した力を使い切ればなくなってしまう。そうするとただの透明な石、昌石になる。そして昌石はビビ割れたり欠けたりして壊れると機能が変わる」


「変わる? どうなるの?」


「こんどは周囲にある精霊力や魔力などの力を吸収して溜め込んでしまう。これは瘴気を取り込んだんだろう。この辺りは瘴気は薄いけれど長い年月をかけて溜め込んだ。そして瘴気を宿しているものを飲み込むと生き物はそれから瘴気を取り込んでしまう。弱い動物、たとえネズミだろうと強力な魔物に変化する。あくまでも僕の推測だけれどそんなところだろう」


 危険物だ。

 凶悪な誤飲事故だ。

 そんなものほったらかしにしてないで回収しろ。


「はぁ…その祀られてた神様も悲しむよ。忘れられて放置されて祭具?は呪物みたいになるし森は魔物うじゃうじゃで空気悪いし…」


 なんだかその神様が気の毒になってきた。

 …祭壇が見つかったら拝んでおこう。

 

 と、思っていたら見つかった。


 わたしたちは回復したので森をまた移動したのだけど、わたしの検知に瘴気が周りよりちょっと薄くなっている場所が引っかかった。

 近づいてみればそれは祭壇だった。

 古い神様を祀った小さな祭壇。

 その周囲には石造りの建物跡がある。

 天井や壁は崩れ、柱が円形に広がっている。

 あれだ、ストーンヘンジ的にパンテノン神殿の柱みたいなのが並んでいる。


「ここは間違いなく祭壇だよ。古い神の1柱、豊穣の女神ウララを祀っていたようだ。紋章が祭壇に刻まれている」


 エアコンのような名前の女神様だ。

 その時間の流れを窺わせる苔むした祭壇の上部中央部には、植物をモチーフにしただろう装飾をされた台座があった。

 ここにさっきの精霊昌がもともとあったのだろう。


「この欠けた部分、直せないの?」


 精霊昌だったものを持ちながらウィルに聞く。

 できれば元通りにしてあげたい。


「人の身では難しい。直すのは難しいけれど、代わりになる新たな祭具を用意するのはどうだろう?」


「新たな祭具?」


「うん、僕はさまざまな精霊昌を使った装飾品を身につけている。それの一つ、この『破魔の指輪』を核にして、君の神聖魔法で新たに結界を張る。そうすれば元の精霊昌と同等の浄化作用をもたらす祭具にできるよ」


「えっいいの? 指輪使っちゃって。なんならわたしも色々装飾品あるからその中に使えるのあるかもしれないからちょっと待って」


 腕や首、耳にもつけているし少ないが荷物にもある。

 確認しようとするが止まられた。


「僕が使いたい、使って欲しいんだ。君は古い神々のために怒ってくれた。君はこの世界は好きではないだろうに。ありがとう。嬉しかったんだ」


 ウィルは優しい笑顔を浮かべていた。


「本当は僕たちこの世界の人間が大事にするべきなんだ。反省した。そして女神ウララに今更ながら謝罪と感謝を伝えたい。どうか僕に力を貸して欲しい」


 真剣な顔で握手を求められた。

 やれやれ真面目だなぁ。

 わたしは苦笑いしながら握手し返した。


 祭壇に『破邪の指輪』を置き、神聖魔法の結界をその指輪を基軸にして発動した。

 結界術は基軸となる点を中心に発動する。

 基軸は術者の任意で決めることができ、今回は『破邪の指輪』を基軸にする。


 『破邪の指輪』はその名前の通り邪悪を打ち破る機能がある。

 瘴気を追い払ったり、弱体化させる破邪の術が込められている。


 この世界の最大勢力の教団は『アウレリア教』だ。

 創造神アウレリア神を祀っていて世界中にたくさんの信徒を抱える。

 わたしたち勇者一行にいたあの神官もこの教団の一員だ。

 ほかにも弱小教団が様々あるらしいが力は微々たるものらしい。

 神々を祀る神殿に仕える者たち、神官やその一つ上の階級の大神官、さらに上にいる枢機卿や教皇などの神職が使う奇跡、それを破邪の術という。

 もっとも戦うのは神官がほとんどで、それ以上は管理職や名誉職のようだ。

 なお神官にも階級があるらしいが興味がなくて覚えていない。


 ちなみに神の力を借りて魔法を行使するのが、神官。 

 己の体内魔力を使用して魔法を行使するのを、魔導士と呼ぶ。


 魔導士の魔法は人類の研鑽の歴史によって生み出された。

 医学や薬学にも通じる人体と魔力の研究と実践で何千年もかけて編み出された人類発の魔法だ。

 そのためか学者や研究者肌な人物が多く頭の良さを鼻にかけた自信家がほぼ占める。

 自分より学のない相手と見ると見下したり馬鹿にしたりすることが往々にしてあるらしい。

 つまりは性格悪い率高い人種。

 勇者一行にいた魔導士もそんなんだった。


 銀が混ぜられた合金製の指輪にはなんの飾りもなく、ぐるりと一周文字が掘られ、その溝に術が込められているようだ。

 

 発動して数秒待つが思ったような変化が起きない。


「あれ…? 結界を張ったのに瘴気が追い払われも弱くもならない」


「…いや、払われてはいるようだよ。瘴気が流れている。払われたそばからまた湧いている…?」


 よく見れば煙が風で流れるように、瘴気も流れがあるのが見える。

 そして湧き水のようにこんこんと地面から湧いているようだ。

 

「土地に瘴気が溜まりに溜まってて表面だけ払ってもまた出てくるのかな…」


 これ、キリがないな。

 瘴気が延々出てきている。

 湧きが止まらない。

 このままだといつまで経っても結界の効果が出ない気がする。

 …原因は土地にあるわけだよね。

 大元の原因の土地を綺麗さっぱり瘴気を取り除く、つまり浄化しないとこの場所は元の姿には戻らないのだろう。

 土地、地面に浄化をかけたことはない。

 魔力量は足りるだろうか、そもそも土地を浄化ってできるのだろうか。

 聖女講座ではそういう方法は習わなかったけどあれは基礎編で、もっと高度な応用編とかであるのだろうか。

 うーん、わからないけど、まあ乗りかかった船だ、やってみよう。

 街道で魔物に襲われて亡くなった人も出てるし、見て見ぬふりしてこのまま手をこまねくのも後味が悪い。


 わたしは術を唱えた。

 対象は土地の中の瘴気、魔物と同じ。

 だからきっと神聖魔法が効くだろう。

 広範囲でわたしを、この結界の中心にして発動する上級神聖魔法。


「ホーリーレイン」


 魔力により白い霧が森の上を覆い、一気に視界全てに光の雫が降り注ぐ。

 雫は地面に吸い込まれた。

 あたり一面の地面が光輝く。

 輝きは一瞬。

 しかし光がおさまった後、状況は一変していた。

 

「瘴気が感じられない。森中に漂っていた瘴気が跡形もない。これはすごい…」


 地面はおろか全身にまとわりつくような瘴気の気配がなくなっていた。

 祭壇の所から湧き出ていた瘴気もまったくない。

 それどころか森のあちこちにあった瘴気もない。

 魔物の気配もない。

 あるのは自然豊かな普通の森。


 わたしは立ちくらみがして座り込んだ。

 魔力を使い果たしたし、怪我から回復したばかりだからだろう。

 それはそうと、「聖女なんかやってられるか」って啖呵きったのに聖女っぽいことをしてしまった。

 こんなつもりじゃなかったんだけどな…。


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