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32 地脈と神様の関係

鉱山跡の坑道内にはトカゲ系やコウモリ系、ネズミ系の魔物がたくさんいた。狭く閉鎖的な坑道内では剣は振り回せないし、火属性魔法は酸欠やガスが漏れでもしていたら引火して危険。風属性魔法で万が一坑道内の壁や天井に当ててしまったら崩れて生き埋めになりかねない。そのため、魔王は猛吹雪で凍らせる上級魔法ブリザードを使って次々と魔物たちを凍らせていった。


坑道内は気温が下がり、息が白い。

聖女のローブでは足元が寒く、生地も寒冷地仕様ではない造りなので体が冷えてきた。城のクローゼットからコートを魔導書に入れて持ってくれば良かったと後悔した。その私の肩にぬくもりのある物がふわりとかけられた。



「気づかずすまん。寒いだろう、俺のマントを着ていろ」



魔王が自分が着ていたマントをかけてくれた。しっかりした作りでビロードのようないい手触りの艶やかな黒いマントだ。彼の身長に合わせてあるそれはわたしでは床を引きずってしまう。汚してしまうし、このゴツゴツとした床で布がぼろぼろになってしまいそうだ。

それに彼は寒くないのだろうか。



「でもあなただって寒いでしょう?」

「これは仮初の体だと言っただろう? 暑さ寒さの影響はないからいらん心配だ。それよりお前が風邪でも引いたら大事だ。おとなしく着ておけ」



確かに寝込みでもしたらアルマやジョゼフィーヌがめちゃくちゃ心配して付きっきりで看病するとでもいい出しそうだ。四天王の3人もなんだかんだ気にかけてお見舞いに来てくれそう。魔王は…どうするだろう。



「ありがとう…」

「かまわん」



幾つもの横穴がある坑道内を、下へ下へと下り坂を最深部まで進み行き止まりになった。そこは天井が崩落した様で、もっと奥にも空間があるようだったけれど岩や木材で塞がっている。

瘴気は坑道内を奥に進むにつれて濃くなって行ってたけれど、この奥の空間が一番濃そうだ。それに動く魔物の気配が無数にある。でもその速度はかなり遅く愚鈍そう。



「リンカ、地脈だけ確認したら地上に上がる。始めてくれ」

「うん…」



地脈を確認すると今まで通り黒く瘴気にやられていて、地下の大地も一緒だ。でも今まで回ったポイントは神殿や街の跡が多かった。ここは鉱山でそれらとはまた違う系統だけれどなんでだろうと口にする。



「いや、違いはない」

「でも街と鉱山じゃ全然環境が違うよ?」

「神殿は元より街中には神を祀っている社が大抵ある。そこにはかつて神がいたわけだ。神は力のある場所に存在する。そこが地脈の上だったのだろう」

「地脈の力によって神様は存在していたということ?」

「そうだ。人の信仰によって力は増したのだろうがはじまりは地脈の力だったのかもしれん。そしてここは地下資源があり力のある場所、地脈も通っている。もしかしたら神もいたのかもな。条件としては同じだ」

「なるほど」

「ではさっさと地上に上がるぞ」



神様はみんな創造神ゲオルギウスが生み出したのかと思っていたけど、自然発生もあるのか。

考えを巡らせていると「ゔー」という唸り声が崩落した奥から聞こえてきた。魔王が舌打ちする。



「あれって…」

「…グールだな。崩落の犠牲になった連中かもしれん」



事故にあった人たちの…

そうか、魔王はわたしが知ったらショックを受けるんじゃないかと思って気遣って早く地上に上がらせようとしていたのか。



「…優しいね。でも大丈夫」

「おい、リンカ」



わたしは崩落した場所に近づいて奥の彼らに話しかけた。



「いま、助けますから。…ホーリーレイン」



崩落で塞がれた向こうに浄化の魔法をかけた。

魔物の気配が遠ざかっていく。数が減っていき最後に「ありがとう」という声が聞こえた気がした。

どうか安らかに。



「地上に連れてって」

「…ああ」



魔王がわたしの肩に触れて地上に転移した。



「辛くはなかったか?」



借りていたマントを返すと魔王に問いかけられた。その顔にはなんの感情も浮かんでいなくてちょっといつもと様子が違う。



「…地下の人たちのこと?」

「そうだ」

「辛いよ。あの人たちの無念さとか、恐怖とかを考えると、ね」

「人がグールになっていることは?」

「それは、前もって聞いてたし平気ってわけじゃないけど心構えはできてたから。実際に遭遇したらどう思うかはわからなかったけど」

「どう思ったんだ?」

「うん、ただ助けたいって。あの唸り声は助けを求めている声に聞こえたんだ」

「まるで人に相対しているように言うのだな」

「人だよ。さっき最後にね、『ありがとう』って言われた」

「ありがとう…」

「グールになっても心が残ってるんだよ。心があるなら人だよ。わたしと変わらない人間なんだなって思う」



魔王は空を見上げて「そうか」と呟いた。



「そう言ってもらえて、連中も浮かばれるだろう」

「ならいいんだけどね」

「……お前には俺も人に見えているのだろうか」

「え?」

「なんでもない。次へ行くぞ」



よく聞き取れなかった呟きを聞き返すも、誤魔化すように次の場所へと転移した。


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