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23 時を止めた城

日にちを勘違いしていて昨日は投稿できませんでした。

楽しみにしていてくれた方、お待たせしてごめんなさい。

書庫は壁側に天井まで届く高い棚が並び、室内にも棚がたくさん並び、その全てが本で埋め尽くされていた。

本が日の光で痛まないようにするためか、窓は明かり取りとしてだろう小さな天窓があるだけだ。



「ホーリーエリア」



食堂より一回り広い一室を丸ごと浄化すると、棚に収まっていた黒ずんだ本が色とりどりの背表紙に変わった。

ツヴァイが本棚に駆け寄り、次々に本を抜き取り手に取っている。



「ああっ、これはかのグローダーの書! はっ これは魔導学の始祖とされるニールセンの幻の魔導書! 現存していたとは!」



熱意に当てられ引き気味に見ていると、本を山の様に抱えて書庫の一角にあるテーブルに陣取り、一心不乱に読み始めた。

見ていた棚は魔導書の棚だったから、きっかけとなった卵(仮)の文献とは到底思えない。趣味に走っただけなんじゃ…



「あいつはほっとけ。そのうち書庫内の本をすべて読み漁るだろう。その中にその妙な物の情報があれば儲け物だ」

 


魔王ははじめから書庫で調べ物が見つかるとは思っていなかったようだ。いわく、「あんな人外らしき奴が渡してくるようなものが、人間の書物に記載されているとは思えない」からだそう。

確かに、と納得した。



「ツヴァイは何を研究しているの?」

「魔導に関する全てのことだな。人の身でどれだけのことができるのか限界を知りたいらしい」



本人とっくに人間やめているけどそれはいいのだろうか。



「自身もまた人から魔族になった興味深い研究対象らしい。魔族になっていく過程も日記や血液検査などして詳細に自らのデータをとっていたらしく、できれば自分を解剖してみたいらしい」



マッドサイエンティストだった。

どうかそのうち同僚の四天王や上司を解剖しないことを祈る。

その同僚のガエルはツヴァイにテーブルに引っ張って行かれて新たな本の山を押し付けられしょぼくれた顔をしている。



「とっとと退散するとしよう」

 


魔王に腕を掴まれ回れ右して入ってきた扉へと向かう。廊下に続く扉をくぐる際に「俺様は本を読むと気絶する体質なので見逃してくれ」という生贄の声を聞いたが振り切った。

ガエル、強く生きろ。わたしと魔王は連れ立って静かにその場を離れた。



「ツヴァイ、夢中になってたね」

「1000年前の蔵書だからな。今では手に入らない物もあり貴重なのだろうよ」



そうか、1000年前に邪神とともにこの城は封印されて時を止めていたわけか。日本でいうところの平安時代。それは貴重だろう。

1000年か……長いな。それだけの年月が経てばだいぶいろいろ変わっただろう。


隣を歩く魔王を見る。

1000年、ほとんどの時間を封印されて眠って過ごしてきて、時代が移り変わって、人だった頃の昔の知り合いも死んでしまっている。彼はさみしかったりしないのだろうか。

わたしはほんの半年、元の世界から離れただけでさみしかったり懐かしかったりしている。

平和な向こうの生活に戻りたいとも思っている。

…まぁ、わたしを待っていてくれる人も、居なくなって悲しんでくれる人もいないのだけど。

するとこちらを見ていた魔王が口を開いた。



「リンカ、どうした? 具合が悪いのか。顔色が良くない」



優しい言葉に沈んだ気持ちが浮上する。

ああ、いけない、心配をかけてしまった。

なるべく自然に見える笑顔を心がけて作った。



「ううん、なんでもない」



魔王が訝しげな顔をしているので話題を変えたくて疑問をぶつけた。



「この城、1000年前の物がそのまま残されているんだね。ここってそもそも持ち主は誰なの?」

「…この地は1000年前、強大な軍事力を持った帝国だったのだが、この山城はその帝国の軍事拠点の一つだった。その時の暴君がここから隣国に攻め入って領土をむしりとっていたいわくつきの城だ。邪神に国ごと暴君もろとも攻め滅ぼされたが」



話題転換をはかった先がなかなかドロドロしていた。ふるべきではない話題を振ってしまったようだ。



「で、でも再利用したんだね。使い勝手はどう?」

「まぁ悪くはない。頑丈な造りで修復も必要なく使えている。勇者や聖女との戦いにもびくともしないしな」



住み心地を聞いたつもりだったんだけど、戦いありきの見方のようだ。価値観の違いか。


しかし魔王は1000年前に勇者側で邪神と戦ったんだよね…

神様との戦いなんて想像もできない。

勝ち目がなさそうな相手によく挑んだものだ。

伝説によるとアーサーというウィルのご先祖様が立ち上がったのだったっけ。そして彼と魔王は親友。どんな人だったのだろう?



「ねえ、初代勇者のアーサーってどんな人だったの?」

「アーサー? 唐突だな。そんな大昔に死んだ奴のことを聞いてどうする?」

「ただ興味があって。ウィルみたいな真面目なタイプ? 性格はいい?」

「真面目、ねえ。あんな品行方正な優等生ではなく、真面目ではあったがもっと飄々としていた。性格は、イイ性格だったな。アイツと初めて会ったとき、なんて声をかけてきたと思う?」



飄々としてる? イイ性格?

なんだかわたしの中の伝説の勇者のイメージと違うな。



「…仲間にならないか、とか?」



魔王がニヤリと笑って楽しげに言った。



「『騎士団に犯罪者として捕まるか、僕の部下になるか、選べ』だと」



何をやったの魔王。そして意外にも初代勇者も悪どそう。



「俺は冒険者をやっていて、喧嘩を売ってきた盗賊団の根城を襲撃していた。そこに盗賊団を捕縛しに来た騎士団の団長がアーサーだった。自分達の獲物を掻っ攫われた形で面白くなかったものの、俺の実力に目をつけて味方に引き込むことにしたらしい」



情報量多いな。どっから突っ込んだらいいやら。

ええと、魔王は当時、冒険者。

アーサーは当時、騎士団長。

喧嘩してたらスカウトされた?

「お前やるじゃないか。気に入った」

ってことか。

なんだその不良漫画みたいな馴れ初めは。


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