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17 ゼルマとアルマ、ジョゼフィーヌ

扉を少し開けて、そっと廊下を進む二人の後ろ姿を眺める。何か会話をしているようだけれど聞き取れない。食堂の扉を開けると二人は中へと入っていった。これは接触するチャンスだ。

わたしは音を立てないよう忍び足で食堂の扉の前にたどり着くと、深呼吸をしてドアノブを掴み静かに開けた。

少しだけ開けて中の様子を探る。


二人はこちらに背を向けて花瓶の花を取り替えていた。そういえば部屋には花瓶に入った花が飾られている。こうして定期的に変えてくれているのか。

この薄暗くて全体的に黒い魔王城に、色とりどりの花々が数少ない彩りを与えてくれている。

花に興味の薄いわたしでも花を見てほっこりした気持ちになった。

感謝を伝えたいのと、初めての使用人との遭遇と女の子の存在に興味が抑えられず、わたしは扉から室内に入り声をかけた。



「あの、すいません」

「「!!」」



二人は背後からいきなり声をかけられて肩が跳ねさせて驚いている。一斉にばっとわたしに振り向く。

使用人らしき方は布に覆われまったく顔がわからない。女の子のほうは、目を見張る美少女だった。

金髪は艶やかで毛先にクセがあり、白い肌の顔の中心には透き通った水色の瞳がある。

思わずその女の子の顔を凝視していると、二人が震えていることに気づいた。



「あのっ 怪しいものではなくて! ここにお世話になっている者でしてーー」

「申し訳ありませんっ お目汚しをしてしまいましたっ」



布を被った方が布を抑えながら勢いよく土下座をして床に這いつくばった。声からして女性であっているようだ。

女の子がそれを見て慌てて真似をして土下座した。

なんでわたし土下座されてるの!?



「あのっ 頭を上げてください!」

「いえ、メイド如きのあさましい身でお嬢様の視界に入ってしまうあるまじき失態ですっ どうぞ処分を」

「処分!?」



何をいっているのかわからないよ!

姿を見られたから処分てどういうことなの?



「アルマ? どうした!?」



後ろから子どもの声がして、その声の主はわたしの横をすり抜けて女の子に駆け寄った。

女の子の背に手を当てて宥めるようにさするとその子どもは振り返った。

わたしを見上げるその顔は、女の子と同じ金髪を短髪にしていて同じ水色の瞳の半ズボンの少年。



「すいません聖女様、この子とメイドがなにか粗相をしてしまったようですね」



毅然とした態度で目を逸らすことなく謝罪をしてきた少年はずいぶんとしっかり者のようだ。



「いいえ、二人はなにも粗相をしていないの。わたしが急に声をかけたから怖がらせてしまったようでごめんなさい」

「ではお許しいただけるのですね?」

「許すも何も悪いことはしていないんだよ」

「そうですか。じゃあ二人とも立っても?」

「もちろん」

「ありがとうございます」



少年は冷静に状況を把握してお咎めなしと判断すると二人を促して立たせた。しかしまだ震えていて怯えている。なんだかわたしが虐めているようだ。



「ねえ、あなたたち名前は?」

「僕はゼルマで、こっちは妹のアルマです。メイドはジョゼフィーヌです。申し訳ありません、使用人でありながら姿を晒してしまいました」



今度は少年が謝ってくるけど、この謝罪は魔王がいっていた「主人たちの前に姿を現してはいけないという使用人の規律を厳守している」という理由かららしい。



「気にしないでお話して? わたし直接会って話したかったんだ。ジョゼフィーヌさんがわたしのお風呂の用意やベッドを整えてくれているの? いつもありがとう」



そう言うと布ごしのジョゼフィーヌはハッとしたように息を飲むと深々と頭を上げた。



「よかったね、ジョゼフィーヌ」

「うんっ、よかったねジョゼっ」



ゼルマとアルマはジョゼフィーヌが感謝されて喜んでいる。アルマの方は特ににこにこしている。仲のいい間柄のようだ。



「ゼルマとアルマもこの城で使用人をしているの?」

「僕らは見習いみたいなものです」

「わ、わたしはジョゼにお仕事を教えてもらっているの… ゼルマはお外でお仕事をしているの」

「簡単なお使い程度のことを少し」



外でというと魔王の言っていた仕事のどれかをやっているのだろう。こんな10歳いったかどうかくらいの小さな子も働いているのか。



「二人とも偉いね。お仕事はどう? 楽しい?」

「やりがいがあります」

「わ、わたしもそう、です。お仕事うまくできると褒めてもらえるから」



ゼルマは胸を張るように、アルマはモジモジと恥ずかしそうにしながら。どちらも仕事にやりがいをもっているようだ。そして妹がかわいいわー。



「お近づきの印にこちらを贈らせてください」



ゼルマは花瓶に挿す前の赤い薔薇を一輪手に取ると、跪いてわたしに差し出してきた。

キザな言動に面食らいつつ薔薇を手に取ると違和感がある。これは生花じゃない。紙でできた造花?



「実はこの城にある花瓶の花は全部造花なんです。魔王支配下の土地では植物が育たないのですが、城内があまりに殺風景なので使用人たちで作って飾っているんです」

「全然気づかなかった… みんな器用だね〜」



でも城内は瘴気があらかたなくなったから植物も育てられるようになるかもしれない。

あ、そういうことなら中庭の土を浄化すれば、中庭で植物が育つかも?


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