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4 はじめましての国、ロンバルディ

 翌日、朝食を済ませて朝から移動した。


 目指すは町や村などのコミュニティ。そこで情報を集めたい。

 草原を歩き、細いながらも道を見つけて進んだ。

 車輪の跡が剥き出しの地面についているので荷車が通るのだろう。


 後ろから荷車が近づいてきて陽気そうなぽっちゃりおじさんが馬の手綱を持っている。情報源が手に入った。

 会話はウィルが不自然じゃないようにしてくれるというのでおまかせだ。


「こんにちは、どちらに向かうのですか?」


「やぁこんにちは。この先のコレッタの町だよ」


「僕たちもコレッタに向かうのですが、よかったら荷台に乗せて行って貰えませんか?お礼はします」


「おお、礼なんかいらんから乗んな乗んな!歩いて行くには日が暮れちまう」


「ではお言葉に甘えてお世話になります」


 すんなり乗せてもらいウィルがその後もしばらくおじさんと世間話をした。

 とても自然な会話でウィルのコニュニケーション能力の高さに感心してしまった。

 おじさんは移動は一人ぼっちで暇だったそうでどんどん情報を落としてくれる。

 ウィルとわたしは旅の冒険者で魔物討伐依頼をこなしながら町から町に移動していたことになった。

 ウィルが剣士、わたしは魔導士という設定だ。


 この国は『ロンバルディ王国』。

今向かっている『コレッタの町』は国の西部に位置する地方都市のようだ。

 国名がわかってもわたしはこの世界の一般常識にうとい。

 世界のどこら辺にあるどんな国なのか分からない。

 ということで生まれも育ちもこの世界の相棒に聞く。


「ねえ、この国ってどんな国?」


「大陸中央部にある国だよ。魔王軍の支配地からは離れているため落ち着いた情勢の所だね」


 ウィルの故郷エルグラン王国が大陸南端で魔王城が北端。

 ちょうど中間あたりだ。

 

 魔王討伐の旅ではこの国は通らなかったので初めてだ。

 というのもこの大陸は真ん中に大きな山脈が走っているので、前回は山脈を避けてその西側を通った。

 このロンバルディ王国は山脈の東側にある。


 これならわたしが知らなくて当然だ。

 決して勉強不足なのではない。

 聖女スパルタ教育は神聖魔法だけ叩き込まれたし、旅の間は目の前のことに対応するだけでいっぱいいっぱいだった。


「…これは良いのか悪いのか」


「なにかまずいの?」


「良いことは、この国の王族とは縁がある。僕の祖母がこの国の出身なんだ」


「親戚なんだ。ならウィルは保護してもらえるんじゃない。よかったじゃない」


「保護…まるで迷子の子どものような… まぁ、つまり亡命させてもらえるかもしれない。けれど、悪いこともある」


「というと?」


「エルグランの叔父上にとっては父親の母の故郷。あちらにとっても親戚なんだよ」


 町につき、荷車のおじさんとはお別れをして、教えてもらったおすすめの宿に向かう。

 町は中央の広場になにかの女神様の像が立ち、そこを町の中心として四方八方に道が伸びている。

 その伸びた道の一つに入って歩いてすぐにその宿屋はあった。


 一階は飲み屋兼お食事処、二階が宿になっているようだ。

 標準的な清潔感と金額の宿を紹介してほしい、ウィルが荷車のおじさんにそう頼んだらここをおすすめされた。

 一階は食事が美味いからぜひ食べてくれとのことで楽しみにしている。

 牛スネ肉のシチューが絶品だそうなので完全にその舌になっている。

 

「まずは宿をとって、一階で食事にしようか」


「賛成」


 受付のお姉さんはウィルの顔を見てちょっと頬を赤くしながら2部屋の鍵を渡してきた。

 ウィル美形だもんね。わかる。

 部屋はもちろん別々で。

 ちなみにお金は肌身離さず身につけているので贅沢しなければ4ヶ月は保つだけある。

 エルグラン王国を発つ時に旅費として纏まった金額は支給されていた。

 半年ほどで魔王城に辿り着いたのでまだ余裕があった。

 …それにしても半年で魔王討伐ってペース早すぎないか。

RPGゲームだとあんまり時間感覚なかったけど、現実的に考えてもっとじっくり鍛えて挑むべきだったんじゃないだろうか、とふと思った。


「ご注文はなににしますか?」


「ビーフシチューとバケットで」


「僕にも同じものを」


「かしこまりました!」


 荷物はないので鍵を受け取ってそのまま食事にした。

ビーフシチューはよく煮込まれていてお肉は柔らかく噛めばほろほろと崩れ、じゃがいもやにんじんによく味がしみて絶品だ。


「この国の第二王子と接触しようと思う。この国が勇者一行なり僕の味方をしてくれるのか。はたまた叔父上に味方するつもりなのかの判断材料を彼から引き出したい」


「その王子とウィルは仲は良いの?」


「現国王の第二王子とは昔馴染みだ。彼がうちの国の王立学園に留学して同級生だった。彼は味方になってくれるかも知れない。国王陛下は外交でエルグランにいらした際にお会いしただけだからお人柄や思想がわからない」


「…第二王子自身は味方してくれるの?」


「彼は… 僕が頼っても嫌がるかも知れない。彼は責任あることや面倒ごとを避けていたから。彼が言ってたことがある。『第二王子でさして権力はないし、期待もされちゃいない。適当に楽しく過ごすさ』と」


 その王子乙女ゲームの攻略対象にいそう。


「情報を集めて彼に接触しようと思う。そして状況によっては亡命を打診する」


「わかった。その王子は王城にいるの?」


「いや、彼は国内を視察と称して回っていると耳に挟んだことがあるから、城にはいないだろう」


「…視察と称して? ねぇそれ本当に視察? 遊び歩いてるのをオブラートに包んでる? その幼なじみ頼って大丈夫?」


「悪い人間ではないんだよ…」


不安だ。


「リンカ、君も一緒に亡命したほうがいい。今後の行動を考えるにしても、国家の後ろ盾というしっかりした足場を確保すればエルグランの叔父上も強硬な手段はおいそれととれない」


「確かに見つかったら力づくで無理矢理連れ戻してまたこき使いそうだよね。それにはとりあえず保護してもらったほうがいいか…」


 この国がもし味方してくれるなら少しの間だけでも匿ってもらえたら助かる。


「うん、じゃあわたしも保護してもらえるようかけあってもらえる?」


「もちろんだよ。少しでも君が安心できるように手を尽くすと誓うよ。今までの仕打ちに比べればまだまだ足りないのだけれど」


「ウィル…」


 ウィルは悔やんでるんだ。

 真面目な人みたいだから、わたしが「あなたは悪くない」と言ってもさらに「気を遣わせた」なんて考えそうだ。

 なら善意を素直に受けよう。


「そうと決まれば、その幼なじみの情報を掴まないとね。その人なんて名前? 見た目とか性格は?」


「フェルディナンド。フェルディナンド・ロンバルディ。年齢は19歳。赤毛に緑の瞳で垂れ目。お喋りで社交的、…あと女性の交友関係が広い」


「女たらしじゃん。ねぇそのひと大丈夫?」


「…彼は華やかな場所が好きだから、観光地や大きい街にいる可能性が高いと思う」


 フォローしない辺りウィルもちょっとどうかとは思ってるな。

 なんで親しくしてたのか不思議だ。




                *



 朝日が眩しい。まだ朝6時くらいかな。


 昨日はすぐ宿の部屋でぐっすり眠った。

 ベッドで寝たのは久しぶりだ。

 魔王の支配地域には当然宿屋はなかったから1ヶ月ぶりくらいかな。シャワーもお湯が出て涙が出るほど嬉しい。

 シャワーもベッドと同じ理由で1ヶ月ぶり。

 なるべく清潔にしたかったけど、精々川で水浴びとか体を濡らしたタオルで拭くくらいしかできなかった。


 しばらくぶりのベッドを堪能してゴロゴロした。

 寝る前に洗濯して干しておいた白いローブを着て、朝食のできた頃だろうと部屋を出て食堂に向かった。

 

 食堂はパンの焼ける香ばしい香りがしていて気分が上がる。 

 朝食は2種類のセットを選ぶようだ。

 ひとつはバケット、ウインナー、じゃがいものポタージュスープ、サラダ。

 もうひとつはトースト、目玉焼き、ポタージュスープ、サラダ。

 朝はトーストが食べたいのでトーストセットにした。

 飲み物はミルクティー。

 わたしはミルクティーが好きなのでこの世界にもあってよかった。

 ちなみにコーヒーはこっちでは見たことないからないのかもしれない。

 コーヒー党には辛かっただろう。


 まだ人はまばらで空席が目立つ。

 どこに座ろうかと見回すとウィルが奥まった端の席にすでに座っていたけど、どうした?

 額に手をあて、もう片手で新聞を持っている。

 新聞に目を落としているが、目が虚ろ。

 そんな目してるのはじめてだ。

 なにがあったらそんなことになるんだ。


「ウィル、おはよう。どうしたの?」


「ああ、おはようリンカ。一緒に食事にしよう… 。いやなに、フェルディナンドのことを探そうと決めただろう? 何か情報が載っていないかと新聞を見ていたんだけれど…」


 宿屋は宿泊客には無料で新聞を貸してくれる。

 たいてい食堂にあるのでその場で読んで返却。

 そしてみんなで回し読みをする。


 この世界の識字率は貴族や商人やらの富裕層ならほぼ読めるけど平民や貧しい層はほとんどできない。

 義務教育は存在せず、教育を受けたければお金を払って学校に行くか、家庭教師を雇うことになる。

 なので新聞を置いているこの宿の客層は富裕層以上が多いのだろう。

 明らかなボロい宿だと新聞は置いていないらしい。

 客が新聞読めないなら置く必要がないから。


 促されるまま新聞の一面を覗き込むと、『フェルディナンド殿下 ダライアスの歓楽街にて恋人の美女に頬を叩かれ破局 理由は浮気か』

と、デカデカと載っていた。

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