16 ファーストコンタクト
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すっかり魔力を使い果たしたわたしは魔王に抱えられ自室のベッドへと運ばれそっと下ろされた。
「ソファーでいいのに…」
「ソファーより体が楽だろう」
「あ、靴やら装備品なんかは自分で取るからっ」
力が入らなくてうまく動けないわたしに代わって靴や腰に巻いたベルトに手をかけようとした魔王を制し、自分で外した。
靴脱がすとか腰回りに手とか体に触れる行いは動悸がして心臓に悪い。それにベッドという場所のせいでなんかこう淫靡な感じがしてよろしくない。
当の相手は顔色を変えずに優しく布団をかけてくれた。そして水なり汗を拭くタオルなりもわたしに必要か聞きもせずにベッド脇のテーブルに持ってきてくれる。前にも思ったけれど見た目と違ってかいがいしい。
元・魔物図鑑の魔導書から取り出し、謁見の間に置き去りにした清浄の杖も転移で取り寄せてくれた。
「魔導書は有効活用しているのだな」
「う、うん、便利だよこれ」
テーブルに置いたベルトに通した皮のバッグの魔導書に目をやる。
この皮のバッグ、なめしてあるようで柔らかくて腰に当たっても全然痛くない。そしてこれをどこから調達したかというと、わたしは何もしていない。
朝身支度する時にベルトとバッグがテーブルに置かれていたのだ。『急いで用意したので不都合があるかもしれませんが、魔導書入れにどうぞご利用ください』のコメント付きで。
バッグは背面に輪っかが二つつけられてベルトに通せるようになっていた。ベルトに通して腰に巻いてみたらびっくり、当たって痛いとか重いとかもなく魔導書がすっぽり入るちょうどいいサイズのバッグだった。
ーー毎度のことながら、どういうことなの。
昨日わたしがぽろっとこぼした「アイテムボックスにする」とか「腰に下げたりしたい」とかどっかで聞いていて、用意してくれたの?
すごいな魔王城の使用人!
サービスの良さとか、壁に耳あり障子に目ありなところとか、一点モノだろうバッグを一夜にして作るその手腕とか、使用人のプロ意識とスペックに恐れおののく。
「あ、杖しまっとこう」
バッグに手を伸ばすも届かない。
引き寄せる棒が欲しいと思ったら魔王が手を伸ばしベルトがついたバッグごととってくれてお礼を言う。
バッグのロックは金具に短い皮のベルトの先の金具をカチッとはめるタイプ。それを外して開けると口枠が入っているため大きく中が見渡せる。がま口とかいうやつだ。
今のところ魔導書しか入ってないけれど使い勝手の良さげな作りだ。
「清浄の杖」
魔導書の1ページ目を開き、今度は杖をとってもらい触って名称を呼ぶと右ページの魔法陣が光り、杖は吸い込まれていった。左ページには『清浄の杖』と表記された。
今日の朝、せっかくバッグを用意してもらったのだから魔導書を活用しようと思い何を入れるかあたりを見回した。そして目に止まったのが杖だった。
「戦場ならともかくここでは普段から手に持ってる必要ないよね…」
杖は魔法の増幅装置であるのと同時に敵に襲い掛かられた際の防御もできる。けれどこの魔王城はもう敵はいないのだから常に持ち歩かなくていいだろう。
そうして封印の仕方に試行錯誤して杖は封印第一号アイテムになった。
「他にはなにか入れてるのか?」
「うん、二つ目はこれ」
ページをめくり2ページ目を開く。
「昌石」
「昌石?」
「昨日浄化したやつのいくつかをもらったの」
手の中には魔法陣から出てきた昌石が1つ。
昨日レターセットを執務室に持ってきたツヴァイに、「浄化した昌石はどうするの?」と聞いたところ、「また転がしておくだけです」とか人の働きを無に帰すかのような発言をした。なので「よこせ」と全没収して部屋に運ばせておいた。まったく、ヤツには情操教育が必要なようだ。
それを今朝、杖の次に魔導書に入れておいた。
「持っていてどうする?」
「これをこうする」
わたしは昌石をベッド脇のテーブルに置いた。
「部屋に出てきた瘴気を吸わせるの」
魔王城の壁や床から漏れ出てきた瘴気はこいつに吸ってもらおうと思う。漂っていた大量の瘴気はなくなったので、以前は真っ黒になっていたけどこれだけでも間に合うだろう。
「城の至る所に置いて吸わせて、あとで回収してちまちま浄化していけばそんなにキツくないと思うの」
「もう対応策を立てたのか。仕事熱心だな。ならこれは俺が城内に置いておこう」
「いいの? ありがとう、手間が省けるよ。それから瘴気石をあるだけもらっていい? 浄化して再利用したいんだけど」
「ああ、用意しよう。しかし、今日は浄化はもう禁止だ。休め」
「はい…」
この流れもう何回もやってるなぁ。
毎回お気遣いありがとうございます魔王様。
わたしは仮眠をとることにして魔王をベッドから見送り目を閉じた。
ふと目が覚めた。あまり寝た感じがしないけどそろそろお昼あたりだろうか。
そして気づいた。隣の居間から微かに物音がする。枕から頭をずらして様子をうかがうと、人影がちょっと見えた。黒のドレスにその上につけているのは白いエプロン、もしかして……あれはメイドさんのお仕着せではなかろうか? 頭はーーーすっぽりと頭から腰ほどまでを覆う大きな白い布を被っていた。なぜに?
そしてさらにその横に、金髪の女の子がいた。
お仕着せではなく可愛らしい淡いピンク色のワンピースを着ている。こちらは布をかぶっていないけど顔はわたしに背中を向けているためわからない。
しかしだ、ついに魔王城における魔王と四天王以外の存在との、ファーストコンタクトだ。
ついに姿をとらえた。
突然の遭遇にどう話しかけようとあれこれ考えを巡らせているとメイド(仮)と女の子が扉に向かう。出ていってしまう。慌てて靴を履きわたしは扉の向こうに消えた二人を追いかけた。
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