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5 まずは普通なものから

ツヴァイがいなくなり、改めて魔王はわたしに体調はなんともないのか聞いてきた。



「さっきも言ったけど本当に大丈夫だよ」

「そうか。だがこれ程長時間聖女がこの城に滞在したことはない。故に未知な部分が多い。変調が出る可能性もある。もし体に違和感があれば遠慮なく言え」



それでさっきから過保護発言をしているのか。

わたしに何かあったらせっかくの邪神に起死回生のチャンスがふいになってしまうからね。

腑に落ちたとうなずくと「…本当にわかっているのか」と顔を顰められた。いやわかってますって。


他にも食べられないものはあるかとか、風呂の使い心地はとかアンケートをとられた。

存外に細かいと思いながら「セロリとミントとか香草系は駄目(肉や魚の匂い消しなら可)」とか「ドライヤーが欲しい」とか要望は伝えておいた。ドライヤーの説明には間を空けて「考えておく」といっていたけど難しいだろうから期待はしていない。


トレーに数個のアイテムを乗せてツヴァイは数分で執務室に戻って来た。



「いくつか見繕ってきましたので試してみましょう」



彼はトレーから一つ目のアイテムをローテーブルに置いた。

それは鞘や柄にびっしりと装飾が施された黒剣だった。鞘も柄も真っ黒でシルエットで凹凸があるのが判別できる。



「城の宝物庫にあった宝剣です。前の城主の愛用品だったようですが貴重な素材を使用して作られているようです」

「ああ、見た覚えがあるな。壁際のショーケースに御大層に飾られているやつだろ」



魔王は剣を手に取ると鞘から抜いてみせた。

現れた刀身も黒く刃物らしい光の反射はない。

聖女センサーが働くので瘴気で黒いとわかるけど、一見すると錆びているかのようだ。



「1000年瘴気の影響にあった代物です。濃い瘴気を蓄えているようですので力試しに浄化していただきたく」

「はい、やってみます」

「このくらいは問題なくこなせるだろう」



魔王が刀身を鞘にしまいローテーブルに置いた。

わたしは剣に手をかざし神聖魔法の中でも最初に覚えた初級の魔法を唱えた。



「ホーリードロップ」



手から雫のように落ちた光は剣に当たると全体を包み込んだ。光が収まるとそこには黄金に輝く鞘と、大ぶりな宝石が幾つも設えられた黄金に輝く柄が現れた。

目に痛いくらいギラギラでゴテゴテしている。



「悪趣味」

「同感だ」

「右に同じです」



今度はツヴァイが剣を鞘から抜くと先ほどとは打って変わって光を反射した銀色の刀身が現れた。



「きれいになったね」

「そうだな、瘴気はきれいさっぱり浄化されている。成功だ。お前にはこれくらい簡単だったな」

「いやいや」



お世辞だろうけど褒められてちょっとうれしい。



「ふむ、これは金や銀やルビーなど貴重な材質を使ってはいますが攻撃力は低く観賞用ですね。売りますか」

「売るの!?」

「置いていても仕方ないので財源にまわします。それともお部屋に飾りますか?」

「俺はそんな成金趣味のものはいらん」

「わたしも」

「では問題ありませんね。次はこのソファーです」



ツヴァイはわたしたちが座っているソファーをポンと手で叩いた。



「先ほどより大きいものを浄化してみましょう。まずは立って「ホーリードロップ」



座ったままさっきと同じ魔法を使うとソファーを光が包み、収まると茶色の革張りのソファーが現れた。



「茶色だったんだ」

「立ち上がってから浄化してください! 我々まで浄化されていたかもしれません」

「大丈夫だよ、対象はわたしが決めた相手だけだから」

「そういうことはあらかじめ伝えておいてください。久方ぶりに肝が冷えました」

「ごめんなさい…」

「そう責めるな。そんな柔な俺たちではないだろうに」

「それもそうですが、まあよいでしょう。ではこんどは魔導書です。元々かかっていた魔法は瘴気で変質してしまいましたがそれも浄化できるのか試します」



魔導書とは魔法がかけられている本のことだ。

魔導士が魔法陣や魔法のかかったアイテムを使って作ったもので、用途としては本に攻撃魔法を仕込んでいざというときに敵に放つ護身用にしたり、日記を開けられないように封印したり、文字や挿絵が浮かび上がったりと色々あるそうだ。

実物は初めてお目にかかった。

なにが書かれているのだろう、わくわくする。

これは開けられるようでツヴァイがパラパラとページをめくっている。



「これまた紙まで黒いね。うわ、字も黒いのかページ丸ごと真っ黒で何が書いてあるのかわからない」

「これはどこにあった?」

「図書の間の『魔導書』とある棚から持ってきました。なにが書かれているのかはわかりません」

「おい、危険なものじゃないだろうな」

「それもわかりません」

「なにが起こるか知れんからこれは却下だ」

「…そっか、魔導書初めてだから見てみたかったな」



残念だけど危険なら仕方ないか。

あきらめようと肩をおとしていると会話が止んでいるのに気づいた。



「…外で俺の陰に隠れてならいいだろう」



どういうわけかお許しがでたので城の中庭で魔導書の浄化をすることになった。

なにが起こるのか楽しみだ。


お読みいただきありがとうございます!

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