17 襲撃
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魔王は1000年生きてて不死身?
勇者にも聖女にも倒せないなんて、なんて絶望的なラスボスだろう。
「…体が消滅しても復活できるの?」
「そうだ。200年程度で復活しそれをまた勇者一行で倒す、それの一連のことを1000年繰り返している」
「そんな…」
終わりがない戦いじゃない…
あの死にものぐるいで戦い抜いた勇者パーティでの旅、あれは無駄だったのか。
あんなにがんばったのに。わたしも。ウィルも。
「しかし無駄ではない。魔王討伐に意味はある。それが世界を守ることになっている。そしてそれができるのは勇者と、聖女のお前だけだリンカ」
「世界を守る…?」
「そうだ。そしてお前とならば守るよりもさらに上、この世界を救うことさえできる。俺はそう確信している」
「救う? どういうこと?」
「…この世界は滅びへと向かっている。このままでは100年保たないだろう」
…世界が滅びるなんて現実感が湧かない。
あと100年足らずで? 本当に?
「1000年前、世界を未曾有の危機が襲った。それは世界を滅ぼそうとした邪神が人類の大虐殺を行い、大地を瘴気まみれにし始めたからだ。しかし、初代勇者がその邪神を封印し危機は去った」
初代勇者。
たしかウィルの祖先で、エルグラン王国を作った初代国王だったはず。
「だが近々、1000年前に俺に封印した邪神が完全復活する。その邪神が世界を滅ぼすだろう」
…どうしてそんなものがあなたに封印されてるの。
魔王は勇者の敵なんでしょう?
なのにその立ち位置はーー協力者みたいだ。
「…あなたは何者なの? リュシオン」
「それはーーー話の続きは迷惑極まりない客を叩っ斬ってからだ」
急にリュシオンがわたしの腕を引いて立たせた。
自分を盾にするようにわたしを背中側に誘導すると抜剣した。
窓ガラスを突き破り無数の矢が飛んできたがリュシオンは剣で全て切り落とした。
「敵襲だ!!」
リュシオンが大声で襲撃を知らせれば廊下に通じる両開きの扉が蹴破られウィルとフェルが飛び込んできた。
駆けつけるのが早すぎる。
まさか扉のすぐ外にいて聞き耳でも立てていたのだろうか。
すると窓から今度は氷の矢が飛んできた。
「アイスウォール!」
フェルが魔法を使いわたしたちを氷の矢から守るように氷の壁を出現させた。
向こうが透けて見え氷の矢が氷の壁に突き刺さりひびを入れていく様がはっきり捉えられた。
そして窓から室内に侵入してきた顔を布で隠した複数の襲撃者の姿も。
氷の壁が砕け落ちて行くなか、ソファーセットにあったローテーブルをリュシオンは敵に向かって宙に蹴り飛ばし当たった二人を足止めした。
「あの重いの蹴りやがったっ」
テーブルを蹴っ飛ばす光景に引きながらも襲撃者の手に握られたナイフをフェルは自らの剣でなんとか応戦している。
だけど相手は戦いのプロ、しかも様子から見て暗殺者。実力差があるだろう、荷が重そうだ。
そこへウィルがカバーに入り一人切り伏せた。
その間にリュシオンはテーブルで動きを鈍らせた二人を剣で仕留めていた。
わたしはなにもできずずっとリュシオンに背後に守られていた。
さらに侵入してきた二人を一人をウィルが、もう一人をリュシオンが素早く切り捨てた。
ウィルとリュシオンは視線を無言で交わしていたけれど今度は廊下が騒がしい。
開け放したままの扉からロンバルディ王国の騎士や聖騎士が駆け込んできた。
廊下には神職の人たちも集まってきた。
「ご無事ですか!?」
「大丈夫、全員無事だよ」
「襲撃したヤツらは明らかに殺意があった。狙いはおそらく…」
「聖女、だろうな」
みんなの視線がわたしに集まった。
わたしもそう思う。
わたしに与えられた部屋をピンポイントで襲ってきた。
ワイバーンを使ったのと同じ連中かもしれない。
きっと狙いはわたしの命…
肩に手が置かれた。
振り返り仰ぎ見ればアメジストの瞳が向けられていた。
「お前は必ず俺が守る。俺を信じろ」
湧きあがった不安な気持ちが霧が晴れるようにさあっとなくなった。
リュシオンはそんな自分とリンカをウィルがなんとも言えない顔で見つめていたのに気付いていないふりをした。
そして一つの気配が部屋から足速に遠ざかり、新たに一つ気配が近づくのを察した。
「失礼、皆さまご無事とのことで何よりでございます。しかしながらこちらの落ち度により危険な目に合わせてしまい心より謝罪いたします」
教皇は深く頭を垂れ謝罪を述べた。
聖騎士隊からも第一騎士隊長のミハイルさんを筆頭に謝罪された。
「襲撃者は全員倒しましたが、顔に見覚えはありませんか?」
フェルが指示してロンバルディ王国の騎士に襲撃者の亡骸の顔を覆っていた布を取らせたが教皇も聖騎士たちも知らないようだ。
なにか身元や所属している先やら情報が手に入らないかと身につけていた武器を手に取ったり服をめくっている。
わたしは服の下からあらわになった傷を直視できなくて顔を背けてしまった。
魔物との戦いで傷を受けた様子は治療する時に見てきたけど、遺体のより深い致命傷の傷はこんな近くでは見たことがなかった。
「…どうした?」
肩に手を置いていたリュシオンがわたしの体の震えに気づいて声をかけてきたけれど麻痺してしまったようにうまく言葉が出てこない。
「リンカ、ソファーで休もう」
そのやりとりにウィルが割って入りわたしの背中を支えてソファーに連れて行ってくれた。
リュシオンは宙に浮いた手を見、リンカを見て気分が悪くなったことに気づかなかったことに不快を覚えた。
そしてその己の感情の動きに小さな驚きを感じていた。
「なんだこれは?」
襲撃者の体を確認していたフェルと騎士たちは胸のところにタトゥーを見つけ首を傾げた。
丸の周りをひし形で囲っている図形がある。
見たことのない図形だが襲撃者全員の胸にあることからこの者たちの所属する組織のものかもしれない。
教皇と聖騎士たちを近くに呼びタトゥーの確認をしてもらう。
それを見た教皇が息を呑んだ。
「なにかご存じなのですね」
フェルが追求すると教皇は硬い表情でうなずき人払いを求めた。
「さあ、人払いは済みました。知っていることを話してください」
部屋には教皇とミハイルさん率いる聖騎士隊第一の精鋭、ウィルとフェルにロンバルディ王国の今回の旅に同行していた騎士隊から隊長さん含み数人、わたしに護衛のリュシオンだけがいる。
とくにリュシオンの立ち会いは教皇が望んだ。
直接襲撃者と戦った関係者ではあるものの相当重要そうな話題に混ぜていいものなのかとミハイルさんが教皇に確認したけれど教皇が強く希望した。
みんなリュシオンのただならぬ扱いに疑問の目を向けていた。
「あの図形はある存在を祀る信徒が身につける紋章です。ある存在とは1000年前に初代勇者が戦いの末に封印した、邪神です。勇者であるウィリアム様ならばご存じかと思いますが」
さっきリュシオンから説明されたあの邪神のことだ。
それの信者がいるのか。
ちらと彼の顔色をうかがうが視線を返しただけで黙っている。
「僕は初耳です。エルグランで所蔵している文献にもそのような記載はありませんでした」
ウィルが驚きの声を上げ戸惑った表情をしている。
「そうでしたか。エルグラン王国では1000年前の邪神との戦いを代々国王が次の王へと初代勇者の書き記した手記とともに口伝で伝えられていたようです。どこかで途切れてしまったのでしょう」
「…残念です」
「我々聖教会でも邪神について知っている者は少ないでしょう。歴代教皇や枢機卿が前任者から引き継ぎで厳重に口止めをして教えられ知ったくらいのものです。…邪神について語ること、調べることは禁忌とされています」
ウィルは悔しそうに顔をしかめ、禁忌という言葉にミハイルさんの左眉が跳ね上がった。
心当たりがありそうだ。
「禁忌? なぜです?」
フェルが訝しげに問うと教皇は身を翻し、部屋の壁側に飾られた高さ2メートルはあるだろう大きい油絵のの前に立った。
宗教画だろうか。
白いローブに身を包んだ亜麻色の髪の女性が金髪の男性と共に、翼を持つ女性や男性、少年少女に祝福されているようだ。
その油絵は金色の額縁に入れられていてその一角は部屋の中で清廉な雰囲気を生み出している。
そして教皇はその油絵に向かって歩き出す。
「ぶつかる!」と思ったがそうはならず油絵の中に教皇の体がすうっと音もなく消えた。
「は!?」
「教皇様?」
油絵から再び教皇が姿を現しこちらに体ごと向いた。
「この額縁の中の油絵は幻影です。実際には存在しません。この額縁の中は緊急時の脱出用に作られた隠し通路の入り口なのです。この道を通り皆様にはこの聖教会本部を脱出していただきたい」
わたしたちをここから外に出すつもり?
「なぜ、僕たちを脱出させようとするのですか?」
「ここはもはや勇者様、聖女様にとって危険でしかありません。ですから一刻も早く逃げていただきたい」
「禁忌とやらを話したくないから追い出したいのでは? それともやましいことでも?」
「フェルディナンド殿下、さすがにその物言いは失礼では…」
「あちらさんの方がよっぽど失礼だろう。急に呼び寄せたと思ったらワイバーンと暗殺者がリンカちゃんを襲ってきて今度は出てけだ。リンカちゃんとウィルをコケにしてるととれるぜ」
ロンバルディ王国の隊長に咎められるがフェルは珍しく怒りを滲ませた目で教皇を睨んでいる。
睨まれた教皇はしっかりとフェルの言葉を受け止めわたしたちに向かって宣言した。
「禁忌について、それ以外も問われたことを洗いざらい全て、この通路を移動しながらお話します」
わたしたちは顔を見合わせるとうなずき、提案を受け入れた。




