104 神子とメトセラール公爵
先週はお休みしてしまいごめんなさい。
仕事が残業続きで疲れて書けませんでした。
にこにこと笑顔を浮かべた"神子"と名乗った可愛らしい少年は歳の頃は自分と大差ないように見える。雰囲気は柔らかく、禍々しさは感じられない。普通の人間の少年に見える。少年は輝く金髪を揺らし小首をかしげた。
「お目当ての女神はほどよく弱っているね。うん、上々な仕事ぶりだよ」
「有り難きお言葉!」
神官クイールをはじめメトセラール公爵も邪神信仰者たちも一斉にひざまずき深く頭を下げた。わたしを担いでいた騎士もそれにならうために邪魔だったのだろうわたしは床に横たえられた。
少年はひざまずく信仰者たちの間をゆっくりと歩みまっすぐ女神様へと近づいていく。女神様に、手をかける気かと起き上がろうとするも騎士に頭を押さえつけられ動けない。女神様に駆け寄ってお守りしたいのに…!
「離してください!」
「…おとなしくしていろ」
床に伏した女神様の手前で足を止めた少年はクスクスと笑いはじめた。
「なんだ、弱すぎでしょ。地脈を守護する12柱だっていうのに人間にやられちゃうなんてがっかりだよ」
「…ずいぶん瘴気を送り込んでくれましたからね。永らく休息して回復した力を削がれてしまいました。あなたが、"神子"ですか」
力無い声で女神アールストゥ様が答えた。意識は保てているようだけれどその気配はあまりに弱々しくなってしまっている。
「そうだよ。はじめまして。すぐさよならだけど」
「わたしを取り込みますか。力を手に入れてどうするつもりです?」
「力を得たら、望みを叶えるよ」
「望みとはなんです?」
「それを聞いてどうするの。あなたはここまでなんだから意味ないよ。もういいでしよ? じゃあね」
少年が右手を女神に向けた瞬間、飛び出した人影がその背に氷の刃を繰り出した。しかしそれは神官クイールが間に入り防いでしまい不発に終わった。でも全く意味がなかったわけではない。少年が振り向き女神様への手を止めていた。
「なんのつもりかな。というか誰だったかな?」
「貴様、メトセラール、何をしたかわかっているのか!?」
「わかっている。神子を名乗る仇を抹殺しようとしただけのこと」
「仇? 僕が?」
魔法で作ったであろう氷の刃を右手に携えたメトセラール公爵は、危機感のカケラもなさそうな少年を睨みつけ憎悪を滲ませ言った。
「そうだ。貴様のせいで28年前に死んだ妻と娘のな」
メトセラール公爵は氷の刃を無数に生み出すと少年に向けて放った。
*
わたし、ブラーム・メトセラールはダミアン・メトセラールの長男として生を受けた。兄弟はいない。母は厳格で支配的な父の従順な下僕のような夫婦。父には外に愛人が何人もいたようだったがそれは貴族家では珍しくもない。父にたいして興味がなかったためどうでもよかった。
珍しいことといえば家の信仰だ。アウレリア教が世界的な主教なのに反し、創造神ゲオルギオスを信仰するゲオルギオス教。外では邪神信仰とも言われ禁忌の信仰。一族、領内で密かに信仰し、外では瘴気を広める活動をしていた。ただそれもそういう信仰として教えられ育ち疑問には思わなかった。
厳格で支配的な父から勉学に武道、魔導にも完璧を求められその通りに従い、後継者として厳しく教育された。遊びや友人を作るのは禁じられたが特に反発心はわかなかった。元々学ぶことは好んでいたし他者と関わるより孤独が落ち着いた。
中央には成人し王宮に行ったのが初めてで活気のある様子に自領との違いを感じた。我が領は閉鎖的で雰囲気が暗いのだとこの時に気づいた。デビュタントのパーティーにも出席したが皆が明るく社交的でなんとも場違いに感じ早々に庭に避難してやり過ごした。
成人したことで父が用意した女性と婚姻した。相手は領内の貴族家の娘、ようは父の部下の中から見繕った。信仰上、他領から娶ると秘密が漏れるとの考えから昔からメトセラール家は自領の中から妻を迎えている。昔からの慣習通りというわけだ。
彼女はリニという名でわたしより一つ下の年齢。彼女も自身の厳格な父からの命令で嫁いできた。お互いに絵姿さえ見せられず顔合わせもなく婚姻式当日に初めて顔を見た。整った顔立ちに礼儀正しい作法、品のある女性だった。
父の命令に粛々と従い、感情の起伏に乏しく、会話も苦手、友人もいない。"人形のようだ"と王に目通りした時に言われた。どういう意味だと思ったものだがなるほど、彼女を見ているとなんとなくわかった。自分も彼女も自己が薄いのだろう。ないわけではないのだがな。
どうやらわたしたち夫婦は似たもの同士らしい。そう思うと親近感が湧いた。初めてといっていいくらい誰かに感情を持った。そしてどうやら、リニも。
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