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97 オーランド王との面会

病に伏せまだ面会できていなかった国王に呼ばれ、テオドール王子はわたしたち一行を連れて行った。病床にあちらからすれば身元も不確かなわたしたちを連れ込まれるのは不快なのでは、そう聞けば王子は「信頼を寄せる恩人一行だとようやく紹介できる」と胸を張って言った。父である国王にわたしたちのことは今朝説明してあったそうだ。しかしあちらの体調が良くなかったので面会は見合わせていたらしい。



「しかしシャルが行方知れずのこの緊急時に呼び出しとは、シャルが心配…だけで呼んだのではないだろうな。公爵の件か」



宰相のメトセラール公爵を連行となれば大事でそれを病をおして国王が動いたのだろうと王子は予想していた。

騎士が立つ国王の私室前に立ち室内に声を掛けた。



「テオドールです」

「うむ、入りなさい」



答えた声は思っていたより力強く、しっかり聞き取れた。騎士が両開きの扉を開け入室すると50歳くらいのダークブラウンの髪の男性が侍女に上着を羽織らされているところで、上着の下は夜着ではなく正装で品のある姿だ。しかし目の下にはくまが浮かび顔色は悪く病に伏せた長い年月を感じられる。国王その人だろうと察せられたけれど起きて大丈夫なのだろうか。そう思ったのはわたしだけではなかった。



「父上! 起きて良いのですか? 顔が土気色ですよ」

「…もう少し労る言葉を父にかけよテオドール。伏せているわけにいかぬ事態であるからな。シャルロッテの行方不明、メトセラールの嫌疑のことは報告を受けた」

「そうですか、無理はして欲しくはないですが一大事ですから心強いです。俺は公爵の尋問をしてすぐシャルの行方をーー」

「いや、メトセラールは犯人ではない。解放せよ」



国王が断言しテオドール王子が絶句した。驚いたけれどやっぱりとも思う。公爵が本当に首謀者ならあまりにも隠してなさすぎる。



「父上、なにをおっしゃいます? 公爵の使いがシャルを連れ去ったのですよ!?」

「落ち着くのだテオ、理由についてはこれより手短に説明する。して、その前に娘の恩人を紹介してくれぬか?」

「あっ そうでした」



テオドール王子は妹の件に気を取られてわたしたちのことが頭から抜けていたようだ。1人1人名前を呼ばれ紹介された。けれどひとり欠けている。ゲーデだ。テオドール王子とリュフト侯爵邸から戻ってすぐに魔王の命令でどこかに行ったきり戻っていない。何を命じたのか聞いたら「後で」とかわされてそのままだ。テオドール王子も知らされていないようで「もう一人は後で紹介する」と国王に伝えた。



「ありがとう。貴女のおかげで娘は命の危機から解放された」

「いえ、できることをしただけですから」

「どんなことをしてもお礼をしたいが、この一連の件を解決してからとなりますな。そしてまたお力をお貸しください」



国王もわたしが聖女であると察しているようだ。そして今回の件に瘴気が絡みわたしの力が必要なことも。



「シャルロッテを攫ったのはメトセラール公爵ではない。彼は邪神信仰者に協力をしているふりをして内部情報をわたしに伝えていたスパイであり、生涯の忠誠を誓った腹心の部下だ」



国王の話す真実はなかなかに衝撃があり、わたしも王子も目を丸くした。犯人側ではないのではと思ってはいたけれど忠臣とは想像以上だ。



「…しかし、俺を監視して行動を制限し、人を使う権限を与えず権力から遠ざけてきました。父上の忠臣ならばなぜ俺に敵視する対応を…」

「監視ではなく警護であり、手が届かないところに行かれると守れないから行動を制限し、人を使い調べ危険に近づき命の危機に陥らぬようにしたのだ。…あえて厳しい言動をしたのは自らに注意がいくよう仕向け、巨悪に気付かぬようしたのだろう」

「そんな…いえ、待ってください。巨悪…? 巨悪とはなんです?」



巨悪と称されたモノにわたしは思い浮かぶ者がいた。正体不明の響きだけ知る存在。



「公爵は邪神信仰者たちに崇められている存在がこのオーランド国内に入り込んでいると突き止めた。しかし連中にとって秘中の秘の存在であり公爵も姿を確認することがかなわず手をこまねいていた。だが10年前に妻が亡くなり状況が変わった。地下神殿の守りが弱くなりその者、"神子(みこ)"と、神の子と呼ばれる者が城に入った」



神子。そうか、"ミコ様"は"神子様"だったのか。ようやく探していた相手の正しい呼び名がわかった。



「"神子"とは城で何をするつもりです?」

「女神を喰らうことだ」

「喰らう?」

「女神を喰らいその力を己が物とし力を得る、そう公爵は聞いたそうだ」

「そのようなこと…本当にできるのですか?」

「わからぬ。しかし向こうはなんの疑いも無く不気味なほど信じていたそうだ。本当かはともかく少なくとも本気だ」



女神を喰らうなんて、なんて恐ろしい。そんなの人にできることとは思えない。正気だろうか。それとも、人ではない…?



「なるほどな」



魔王がぼそりと呟いたのが気になり声をかけようとしていたところ、部屋の外から扉を力強く叩かれた。



「なにか」

「報告します! 捕らえていたメトセラール公爵が姿をくらましました!」



わたしたちは顔を見合わせ国王が命じてそうさせたのかと目で訴えたけれど、国王は首を横に振った。

国王も想定外な事態が起きているようで顔を険しくさせた。



「公爵を捕らえた部屋に案内せよ」



国王を筆頭に室内の全員で部屋を飛び出した。


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