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94 テオドールの家族

「おいおい、ウチの城になんつーもんを持ち込んでくれてんだ。連中はとっ捕まえてキビッシイ罰をあたえてやらんとなぁ?」

「では尋問が終わったら引き取っていただけるのですね」

「ああ、一切合切(いっさいがっさい)引き受ける」



頭をガシガシとかいたテオドール王子は口元を歪めて吐き捨てた。こめかみには青筋が浮かびかなり怒りを覚えているようだ。ヴラドは邪神信仰者の引き取り先が決まり「面倒が減って助かるわー」といわんばかりに晴れやかな顔になっている。引き取り先がなかったらあの連中はどうしたのかは聞くに聞けない。



「はあ〜、持ち込んだ目的は、女神に瘴気を送り込むためか」

「だが入り口は閉ざされているのだからできぬはずだろう?」

「いや、やりようはある。地下神殿に瘴気を送り込む方法がな。続きは王妃の部屋の魔法陣を見ながらだ」



王子の予想に魔王が呼応し、一行は王妃の部屋へと移動することにした。大人数で静かに廊下を進みながらわたしの前にいた王子がポツリとこぼした。



「母上の部屋はあまりに思い出にあふれる特別な場所だったから、普段は足を運んでいなかったがもっと頻繁に出入りしておくべきだったな」



王子の言葉に、亡き母親の部屋を何者かに利用された悔しさと後悔を感じ取った。なんだかいつも前向きな彼が気落ちしているのが心配で気が紛れればと思い声をかけた。



「お母様の部屋には昔はよく行っていたのですか?」



すると誰かに返事を返されると思っていなかったのかテオドール王子は面食らった顔をしたけれど、ちょっと恥ずかし気にしながら口を開いた。



「ああ、毎日行っていた。四つ下の妹が生まれて間もない頃から。赤子の妹は母の部屋に一緒にいたから、講師の授業の合間にしょっちゅう顔をだしてやれ笑っただ、ハイハイするようになっただ毎日新鮮で。母には「来すぎでうっとうしい、授業に集中しろ!」と怒られた。妹思いな息子に酷くないか?」



どうやら兄馬鹿だったようで今の兄妹仲は王女が赤ちゃんの頃からのようだ。



「ふふっ、お母様ともずいぶん気安い物言いをする間柄だったんですね。なかなか息子さんにうっとうしいは言わないでしょう」

「あー、そうかもな。母はちまたで言う肝っ玉母さんで気が強く感情豊かな人だった。息子の俺も叱り飛ばすし、時には頭にゲンコツももらった」

「お、王妃様がゲンコツ」

「ははっ、侍女も目ん玉飛び出していたな! 口調も堅苦しくなく砕けたものだったし…ん? 俺のこの砕けた言葉遣いは俺がガサツなわけではなく母から受け継いだものか? 血は争えないとはいうが、なんだ俺は悪くなかったんじゃないか? 注意してきた講師たちに''親譲りだから仕方ない"と言い返しておけば良かった」



お母さんとの共通点が見つかりうれしいようで顔がにやにやしている。どうやらお母さん子でもあるらしい。しかし父親の話があまり出ないけれど仲はどうなのだろう。



「あの、お父様、いえ国王陛下はそれを聞いてなんと?」

「固まっていたな。しばらくして"テオドール、母の前ではいい子にしておれ"と忠告を」



国王陛下、奥さんに弱くないか。



「父は母の尻に敷かれていたな。父は寡黙で落ち着いた人だから正反対の性格が母と相性が良かったようだ。夫婦仲が良く子どもながらにうらやましいくらい理想的な夫婦だった」

「…自慢のご両親なんですね」

「そうだとも!」



うらやましい。憧れる両親像だな。

ああ、でも王妃様が亡くなって体調を悪くされているんだっけ。病状はどうなのかだろう。あるいはもしかしてシャルロッテ王女と同じく瘴気に侵されているとか。



「あの、ところで国王陛下のお体は大丈夫なんですか? お見舞いとかは…」

「ああ、毎日行っている。今朝も行った。…大きな声では言えないが心が弱っている病なのだ。静かな土地で療養したほうが良いと提案しているのだが本人が嫌がってな。"妻の思い出が残るし子どもたちと離れたくない"とね。母の死を完全に乗り越えられていないのだろうが、父の想いを大切にして側で支えたい思いも俺自身あるから長い目で見るつもりだ」

「そうですか… お父様も大切に思っているのですね」

「もちろんだ。民を守り、民なくして王族はなしと、愛国心のある素晴らしい君主だ。そして愛が強く、家族を愛しすぎて自身を壊してしまう優しく脆い人。愛にあふれる尊敬する父だ」



父親自慢をする王子を微笑ましく見ていると、王子に微笑みを向けられた。



「君は優しいな。俺を気遣って話を聞いてくれて」

「え…」



気を遣って話しかけたことは察していたようだ。お礼を言われどきマギしている間に王子が肩を翻して目の前の扉に向いた。



「そら、母上の思い出あふれる部屋に到着だ」



テオドール王子が離れて音もなく魔王がわたしの横に移動し王子の背を見つめていた。どことなく険を感じる視線だ。首を傾げながらわたしも扉に向き合った。



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