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90 女神と伯父と母

テオドール視点のお話です。

一連の流れを俺から説明されたリュフト侯爵こと伯父上は、俺や横に護衛としての体で立っている剣士に時々視線を向け静かに、それでいて鋭い光を宿した目をして聞いていた。

聞き終わると伯父上は自身の補佐官や使用人、俺が連れてきた側近や護衛を人払いし、自分と王子である俺だけを希望した。それについては了承したが、グリューフェルト伯爵の仲間の剣士はこの場に残すことを俺が押し通した。この剣士は護衛として付いてきてはいるが、直接耳にして伝える役目だろう。伯爵か、あるいは真の主人の命で来ているだろう彼を同席させなければ協力に不義理だし、そもそも実力的に追い出せるとも思っていない。



「これよりお話する内容は当家門の最重要機密であり直系の血族のみが知るのみ、私の妻も知らぬこと。王家にも知られていないはずです」

「…そのような秘中の秘を俺に話していいのですか? 俺は王子です」

「はい。殿下と王女殿下ならば妹の実子、当家門の血族です。そして殿下であれば、国と民とご家族を大切になさっているあなたならば、信頼できます」

「…感謝する」



伯父上はうなずくと、視線を落としゆっくりと一族の秘密を話し始めた。



「私の先祖であるリュフト一族は長くこの地で領地を治めてきました。それは初代勇者の出現より遥か前からで、その起源はこの地におわす女神アールストゥにより飢饉の際に一族に施しを行い救っていただいた恩からだそうです。以来女神を敬い、神殿を造り、祈りや供物を捧げると、女神がまた恵みを下さり、豊かな地になっていきました。それがよそから移住者を呼び、だんだん集団が大きくなっていき町となっていったのです」



長くこの地を治める一族だったことは知っていたが元は女神ありきの神職のような立ち位置だったのか。



「時は流れ1000年前の戦いが起こりました。…これについては一族に伝わる歴史と、世間が知る歴史が異なります。殿下はその辺りの歴史についてはご存じでしょうか?」

「…知っている歴史とは違う歴史を書いた書物を手に入れています。禁書としてかつて焼き捨てられるのをまぬがれたものだそうで、まぁ、表に出せない代物で表に出せない入手経路です」

「ははっ、さすが殿下。面白そうですから私も後でお貸し願えますかな? それと入手した場所にも連れて行っていただきたいです」

「いいですよ。完璧な変装を伝授しますよ」



他国の闇オークションにまた行くとなると身バレは絶対に避けなければならない。王子と侯爵が非合法な場所に行ったと知れたら国民に叱り飛ばされてしまう。

それから"もう一つの歴史"について全く動揺しなかった横の護衛剣士、彼の仲間もみな同じ反応をするのだろう。つまりはそのことをすでに知っている。紅一点の彼女、そして彼らの身の上の推察がまた進む。



「ではご存じのものとして省かせていただきます。おいそれと口にするのは(はばか)られますから。ーー戦いに参加したアールストゥ様は消滅はまぬがれましたが酷く消耗されました。女神の力はそうそう回復しません。祈りや供物を捧げられることで長い年月をかけて回復するのです。また地脈近くならば地脈の力も取り込み回復に回すけとも可能です。女神は長い休養をとるために地下深く潜ることにしました」

「しかし地下深くといってもどうやって行くのです?」



地上には町が出来ていたのだからまさか掘るわけにもいかない。そもそも地脈はどれほど掘れば辿り着けるのか見当もつかない。大地の裂け目やら地下洞窟でも通って行ったのだろうか?



「女神アールストゥは大地の女神。地を思うままに変化させられます。地上に私の先祖が造った神殿ごと、その神殿の真下の大地のみ液状化させ自ら沈んで行かれました。私の一族は変わらぬ忠誠をお約束し、族長が地下に向かう前の女神に血の契約を申し出ました。女神は地下深くそうそうお会いできなくなりましたが、血の契約を交わした族長の血を引くものたちはお声を聞き、時には女神のおわす神殿に招かれお目通りすることができる形になりました。代々そのお役目は受け継がれ、私と殿下の母である妹のステファナもそのお役目を行っておりました」



母の名を呼ぶ人に久しぶりに会った。父は母を思い出して辛いのかほぼ話題にしないし、俺も妹も名前呼びはしないから。

しかしそうか、それで母上は女神アールストゥと面識があり、神殿への行き方も知っていたのか。

と、それでは伯父上も女神の声が聞こえているはず。なぜ妹のシャルロッテに接触してきたのだろう。伯父上に伝えれば済む話のはずだ。



「伯父上、女神と伯父上はお話ができるのでしょう? なにか連絡はなかったのですか?」

「ああ、残念ながらそれはできなくなっているのです。ここ10年、私は女神のお声を聞いていません。私から話しかけても繋がらなく、神殿に行こうにも女神の方から入れていただけなくなっているのです」

「なぜです?」

「女神のお力が弱くなってしまっているからのようです。最後に女神のお声を聞いた時に"力を削がれている"とおっしゃっていました」

「…最後に女神の声を聞いたのはいつですか?」

「妹であり王妃のステファナが亡くなった日です」

「なんですって?」



母上が亡くなった10年前から女神に異変が起きていた? 



「母上が亡くなったことと女神の弱体化に関係があるのですか? 母上は血の契約をしてはいてもあくまで女神の部下のようなもののはずです。女神に影響が出るようには思えませんが」



母上が亡くなったのは俺たち家族や国民には大きな出来事だが女神に大きな影響があるのだろうか?



「城は神殿が沈んでいる真上に建っています。かつて薔薇園を造ると王家に言われ、それならば神殿の真上にあっても大丈夫だろうと当時の族長が了承したのですが、いつの間にやら離宮を建てられてしまった経緯がありましてね。さらに後に越してきた王家の王城にされて頭を抱えたそうです。女神の存在は外に漏らさず守れと家訓があり、王家に事情を話すわけにはいかず、追い出すわけにもいかずズルズルと先延ばしになってきたそうです。先祖のマヌケ具合にこちらが頭を抱えましたよ」

「はぁ、それで?」



感想には同意見で伯父上と考え方が近いなと親近感を覚えたものの、それと何の関係があるのか。



「ステファナは国王陛下と偶然出会い婚姻し城で生活することになりました。これをいい機会とし、城内にある神殿入り口を管理し、結界を張り悪意ある者が寄りつけなくなるようにしていました」

「なっ、城内に神殿入り口があるのか!? あ、いや、それでそこはどこですか?」



一番知りたかった情報に辿り着き興奮して言葉が崩れてしまった。親戚とはいえ礼儀としてはよろしくない。



「入り口には転移の魔法陣を使って行きます。その転移の魔法陣のある場所は、ステファナの城の自室です」


お読みいただきありがとうございます。

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