84 シャルロッテ王女と瘴気
お待たせしました。
先週は風邪をひいて熱を出して寝込んでしまい更新が遅れました。
シャルロッテ王女を医師に診てもらい、完治のお墨付きをもらった。医師は今朝も具合悪くしていた王女が回復した理由が分からず、王子に聞くも「わからない」と告げられ首を傾げていた。
医師が退室すると、テオドール王子は泣いて疲れ眠気が来たらしい妹姫をベッドに寝かせて続き部屋のテーブルへわたしたちを誘った。そして自分の従者、シャルロッテ王女の侍女を部屋の外に出るように命じた。彼らはごねたけれど、テオドール王子に懇願され納得いかない顔をしながら扉の向こうに出て行った。
部屋にいるのは隣室に眠るシャルロッテ王女、テオドール王子とわたしたち魔王一行だけとなった。
そして王子はわたしに目を合わせると頭をテーブルにつくほどに下げた。
「リンカ嬢、ありがとう。妹を救ってくれて。礼はなんでもするから何なりと言ってくれ」
「…頭を上げてください」
あまりに素直な感謝の言葉は慣れなくて、なおかつお礼がなんでもというのが荷が重い。
「妹の体調不良は何が原因だったんだ?」
聞かれると思っていた。正直に言うつもりだ。
けれどその返答は自分の正体を伝えるのにひとしい。横に座る魔王をちらりと見れば、うなずき返して「大丈夫」と伝えてくれているようだった。わたしは深呼吸をして気持ちを落ち着かせると答えを返した。
「…瘴気です。体内に異常に溜まっていました」
「そうか、瘴気… どうりで薬が効かず、神官や魔導士が診ても治らなかったわけだ。しかしどこから瘴気なんて入ったんだ?」
「口から摂取が最も簡単ですね」
「口からとなると食事ということか、伯爵。しかし、料理人も侍女も長年真面目に勤めてくれている者たちだ。疑いたくはないが…、どうした? 不思議そうな顔をして」
「…正体を聞かないのですか?」
すぐにわたしの正体に気がついただろう。
瘴気を完全に浄化できるのは勇者か聖女のみというのは誰もが知っている。てっきり正体をきちんと問いただしたり、聖女に対する礼をとってくると思っていたけれど、ヴラドと話し合いを続ける姿に戸惑った。
テオドール王子はふわりと笑うとわたしに向き合った。
「恩人をあれこれ詮索するような恩知らずじゃないんでね」
彼は義理堅いらしく、疑問は飲み、追及しないつもりのようだ。
「さて、それで食事が怪しいということだが、それは視ればわかるのかな?」
「はい、わかると思います」
「ちなみに侍女と料理人はどういった身の上の方々ですか?」
「侍女のヘルダは元々俺たちの母上の侍女だった者だ。もとは孤児だったのを下働きとして雇い、働きぶりを認められて母上の侍女として召し抱えられたそうだ。料理人は名をカミーユと言う。父上がその腕に惚れ込み、隣国の高級料理店から招致し料理長の職についている。俺たち王族の食事は全て料理長自らに作らせるほどには絶対の信頼を置いている」
「殿下にとっては身内なわけですね」
「そうだ。疑いたくはない」
「ならばさっさと調べて嫌疑を晴らすのがよいでしょう」
「そうだな! ではまずは普段妹が口にしている紅茶や薬草茶を見てくれるか?」
「はい」
彼はワゴンに載せられていた紅茶の缶や、シャルロッテ王女用らしいどろりとした緑色の液体を隣室から持ってきた。先ほどの話にあった薬草茶なのだろう。漢方薬のような独特な匂いがあり、とても食欲が湧かない代物だ。よく王女はこれを飲んでいたものだ。
「くさい…」
「ゲーデ」
「うっ」
「ガエル」
うちの人間に容赦ないのと鼻が動物並みの者たちは素直な反応をしてしまった。申し訳ない。気持ちはわからないでもないけど…
「匂いはヤバいが由緒正しいオーランド王家秘伝の薬草茶だ。万病に効くとされる、が、瘴気には効かなかったようだ。ちなみに美容にもいいらしい。一杯いかがか?」
「い、いえ、遠慮…その、お気遣いなく…」
一通り並べられたお茶を視たけれど瘴気はない。お茶は原因ではないようだ。
「王女殿下の食事はどうしておられますか?」
「消化の良いものを作らせ部屋まで運んでいる。昼はそろそろ運ばれてくるはずだ」
王子が言うようにちょうど扉の外から王女の昼食が運ばれてきた。ワゴンに載せられたそれをさっそく室内に入れた。クローシュという金属のカバーをとるとミルク粥があった。オートミールをベーコンを砂糖入りのミルクでコトコト煮込んだこの国定番の病人食らしい。昔某アニメでみたあれのことを思い出した。このミルク粥も視たけれどこれにも瘴気はなかった。
「食事ではないか。侍女や料理人の嫌疑が晴れて良かった」
心なしほっとしているように見えるテオドール王子、彼の信頼している人たちの嫌疑が晴れてよかった。
「次はお部屋をよく確認しましょうか。なにか瘴気が集まるように細工されているのかも知れません」
「まずは全体を視られるか、リンカ」
「うん、やってみる」
わたしたちのいる部屋を床や壁、戸棚やシャンデリアも視るけれどなんともない。次に王子の許可をとってシャルロッテ王女の眠る寝室へわたし一人が通された。部屋を見て回るも何も細工がされていなかった。なにも手がかりがなくわたしは少し困って辺りをキョロキョロと見回した。するとシャルロッテ王女が淡く光を帯びているように見え、不思議に思いベッドを覗きこんだ。
"まぁ、あなた聖女ね"
どこからか柔らかな口調の女性の声が聞こえた。
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