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82 メトセラール公爵との邂逅

いつもお読みいただきありがとうございます。

メトセラール公爵は眼光鋭い眼をわたしたち一人一人に向けた。じっくりと値踏みするような嫌な視線だ。



「また新しい"異国からのお客人"ですかな?」

「ああ、そうだ。北の森で会って意気投合してぜひ城にと招待したんだ」

「また北の森に行かれたのですか… 何度もご注意申し上げておりますが、危険ですから魔王支配領域に近寄るのはおやめください。跡取りの王子の自覚がたりませんな。殿下一人にどうこうできる問題ではないのですから」



人を不快にさせる言い方が上手い人だ。

言葉一つ一つはテオドール王子の身を案じているような内容だけれど、その裏では"どうせ何もできないのだから大人しくしていろ"と言っているようにも聞こえる。



「それに荒事が得意そうな者たちとお近づきになるのも、城に入れるのもよろしくありませんな。殿下の品性が疑われますぞ」



今度は冒険者風に装っているわたしたちを品のない荒くれ者とバカにしている。いやな感じだ。

すると血の気の多い魔王一派、ガエルとゲーデの目つきが不穏になった。これは怒りが爆発したらまずいとハラハラしているとヴラドが笑顔で口を開いた。



「お初にお目にかかり光栄です。僕はヴラド・グリューフェルト。爵位は伯爵です。彼らは僕の護衛の冒険者でして、高貴なる公爵様には荒事が仕事の彼らはお目汚しでしたか。失礼致しました」



ヴラドは場を納めるために腰を低くして相手を立てる物言いをしたのだろう。

すると公爵はヴラドの下手に出る反応に、ただの荒くれ者ではないと判断したのか先程よりは雰囲気を和らげた。



「ほう…伯爵か。異国からはるばるよくお越しになられた。このオーランドはそう見るべき名所もなく面白みのない国だが、何用で?」

「僕はテオドール王子に興味がありまして。ただのファンですよ。王子の旅先でのお話をたくさん聞かせていただきたいのです」

「ファンとはまた… 殿下の諸国漫遊が他国にまで知れているということですか。嘆かわしい」

「おいおい、俺は遊びに諸国に行っているのではないぞ公爵」

「瘴気対策を知るために、ですか? 進展が何もないようですが遊んでいるのでは?」



公爵はオーランド王国に低い評価をくだしているようだ。テオドール王子に対しても瘴気対策に成果が出てないと見ていて、遊び周っているようなものだと考えているらしい。



「ではそろそろ失礼します。この後も政務がありますので。殿下もお忙しいようですからな」



公爵はさらに嫌味を言いながら立ち去った。威圧感と緊張感でなんだか疲れた。

するとテオドール王子が振り向き頭を下げた。



「すまないな、我が国の者が無礼を働いた」

「お前様は悪くないだろう。まったく腹の立つ男だったな! なんだあのねちっこい嫌味は! 男らしく正面切って喧嘩を売ってこい! 受けて立つ!」

「まったく、これだから人間は…」

「はは、まるで自分たちが人間ではないかのような発言だな。幽霊伯爵のお仲間はみんな幽霊なのかな? こんなに暖かいのに」



ゲーデの発言にヒヤリとしていると、静かに近寄ってきたテオドール王子に手のひらを握られた。



「えっ、あの…」

「少なくとも実体はあるようだし体温もあるから生きた人間だな。安心した」



にこやかに手を握らるながらそう言われてどうしようとオロオロしていると、黒手袋をはめた腕が王子の手首を掴み引き剥がした。



「そのくらいにしておけ。女の困り顔を見て楽しいか?」

「色男に凄まれると怖いもんなんだな。初めて知った。お嬢さん、悪かったな」



テオドール王子はわたしの手を離し降参のポーズをとり謝罪した。

そして場を仕切り直して再び案内を再開した。



「しかし公爵は昨夜の件は何も知らないようだったな。グリューフェルト伯爵の催眠術は凄いもんだ。かけられた者たちは何があったか覚えていないから何も報告をしていない、と」

「"忘れてくれとお願い"したのをきちんと実行してくれたようです。良い子たちです」

「せっかくゲーデが捕まえたものの大した情報は持っていなかったがな! 知っていたのは公爵の毎日のルーティンと取り巻きの構成くらいだ。つまらん。もっと重要な悪どい情報が欲しかった!」

「いや、重要な情報さ。公爵は自身のことも取り巻きのことも家族のことも秘密主義で俺たちも把握できていないことばかりだった。助かるよ」

「髪を編み込んでいるのが薬師のカサンドラ、ローブを着たのが神官のクイール。さっきの中にいましたね」

「ああ、9年前から公爵がどこからか連れてきて重用し出したという出自不明の二人がきな臭い。…その前年に母上が亡くなり、寂しさを忘れるためか政務に没頭した父上が体調を崩し始めたのがその頃だ」



昨日公爵の配下の人たちを捕まえ、催眠術で聞き出した公爵の取り巻きの構成員の情報。ほとんどの者は公爵が若い頃から20年程支えている古参の者たちだったけれど、その二人だけ9年前から仲間入りしている。それは国王が体調を崩し始めた時期であり、関連性があるように思える。

聞き出した特徴に当てはまる二人がさっき公爵の近くにいたのは確認できた。ここからさきはその二人を探っていくことになる。



「すまないがしばらくこの話題はお預けだ。それと大きな声を出したりしないように頼む。体調が万全とはいえない子なんでね」



と、そこでテオドール王子が会話をやめさせた。

彼はある扉の前で礼をとる騎士二人に手を振って応えるとノックをした。



「シャルロッテ、テオドールだ。お客人を連れてきたよ」



テオドール王子の妹、シャルロッテ王女との面会だ。


お読みいただきありがとうございます。

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