81 王城内への導き
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
間が空いてしまいましてお待たせしました。
北の森で予定通り合流したテオドール王子とわたしたちは、王城に正門から馬車で堂々と入った。
森で合流したのち王都アルダムまで王子が馬に乗り、わたしたちは徒歩移動だったのだけれど、「まさか森まで徒歩で来るとは思わなかった」と驚かれた。
そして「北門に馬車を呼んだからそれに乗ってくれ」と北門からはわたしたち全員馬車に乗り、馬を従者に託した王子も一緒に乗っている。普段、転移や高速走りや空飛んでる人外な能力をもつ魔王一派には馬や馬車に乗るという発想がなかったようで、全員「あぁ、馬車…」と顔が物語っていた。わたしも気づかなかったあたりだいぶ染まってきてしまっているようだ。
王城の門をくぐると庭が広がっていて、色とりどりの花々に迎えられた。チューリップにそっくりなピンクや黄色の花が目にとまる。異世界で地球と同じものを見つけるとうれしいのと懐かしさ、少しの寂しさが湧き上がる。庭の向こうに赤味がかった石造りのとんがり屋根の城が見える。高さはあまりなく一階部分だけのようだ。
「ここはそもそもな夏の離宮として使われていた宮殿だったんだが、ご存じの通り瘴気によって南にジリジリと追いやられて首都をこの地に移した時から王家の居城としたんだ。敷地内が庭やら森やらあって広いのは元が王族が遊ぶために作った離宮だったからさ」
馬車から降り、城のエントランスホールに足を踏み入れれば煌びやかなシャンデリアと柱の装飾、真っ赤な絨毯に迎えられた。ロンバルディ王国の王宮も煌びやかだったけれど、こちらの方がより色づかいが華やかに思う。
城内をエントランスホールから長い廊下を王子に先導され奥へ奥へと歩き、公的な空間から王族の私的な空間へと進んだ。この時点でわたしは気になる点があったので王子の後ろ姿に目をやった。わたしの前を歩く魔王がそれに気づいてうなずき「あとでな」と小声で制した。どこか落ち着いた場所で伝えようと考えていると、王子がある扉の前で立ち止まった。
「俺の私室だ。まぁ入ってくれ」
なんと王子の部屋に案内され、進められるままソファーに腰掛けた。従者の男性が紅茶を淹れて扉前に控えると王子が口を開いた。
「まずはくつろいでくれ」
王子は足を組み背もたれに体を預けて紅茶を口にした。
「この部屋は魔法で結界を張っているから盗聴や盗視、侵入や魔法による呪いや攻撃は効かない安全地帯だ。さっきお嬢さんが察知したのはその結界の範囲に入ったことによる魔力だろうよ」
まさにさっき感じたことを言い当てられ驚き息を呑んだ。よく周りを見ている。
「ちなみにお嬢さんの名前は? まだ教えてもらってなかった」
にこやかな笑みを浮かべ、その青みがかったグレーの瞳でわたしに視線を合わせた。その視線は強くはないのに、視線をそらせない引き寄せられる何かがあった。
その視線を遮るように黒い背中がテーブルに身を乗り出し右肘をつき顎を乗せた。
「そういえば全員名乗っていなかったな。筋肉のがガエル、少年剣士がゲーデ。俺がリュシオン、こいつがリンカ。そして我らがグリューフェルト伯爵だ」
「お嬢さんに聞いたんだがまぁいいか。ご丁寧にありがとう。こちらはこの部屋にいる者たちは俺が全幅の信頼を寄せている。なんでも言付けてくれ」
わたしが困っているのを助けに入ってくれたようで助かった。
テオドール王子は気にした風もなく従者を呼び、何事かを指示した。
「予定通りあんたらには当分城に寝泊まりしてもらうつもりだ。部屋を用意してあるから後で案内するが、まずは城内をぐるっと見て回ろう。当分の住まいで仕事場だ、早く把握しておきたいだろう?」
「そうですね、助かります」
「よし、では行こうか。それに案内がてら、会わせたい相手がいる」
「どなたですか?」
「俺の妹さ」
持ち前のフットワークの軽さを発揮し、王女様にもさらっと合わせてくれるつもりのようだ。しかし臥せっているとのことだったけれど…
「あの、妹さんの体調は…」
「ああ、今朝は起き上がっていられたから、客人を連れて行くと伝えてある。気にかけてくれてありがとうな、リンカ嬢」
「じょ、嬢…?」
妙な呼び方が気になるものの、王女様の体調がいいなら良かった。
みんなでぞろぞろと廊下を各部屋の並びや飾られた絵画や陶器の煌びやかさに目を止めながら歩いていると、前方から歩いてくる一団がいる。
先頭を歩くのは上背があり、肩幅もあるがっしりした体型の壮年の男性。黒髪を後ろに撫で付け口髭を生やした眉間に深い皺のあるその男性は、低音の声を響かせた。
「殿下、また外国に遊びに行かれるとは感心しませんな」
「ご挨拶だな。外遊ではなく視察だよ、メトセラール公爵」
どうやら、くだんの悪役の登場らしい。
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