78 答え合わせと招待
気がついたら100話到達していました。
継続は力なり。
さんざん追いかけてはすれ違うのを一日繰り返した目的の人物であるテオドール王子。
ダークブラウンの髪に、青みがかったグレーの瞳、話に聞く容貌とも一致する。彫りの深い端正な顔立ちに日に焼けた肌、口元には余裕のありげな微笑みが浮かんでいる。そして言葉の端々に自信や品の良さがあり、どこか高貴な雰囲気がある。それは平民が着るような服装をしていてもなお薄れていない。まごうことなき本人だろう。
一日追いかけても会えなかったのになぜ転移した先で会えたのだろう?
さらに魔王はなぜここを転移先に指定し、王子もわたしたちが来るのがわかっていたような口ぶりなのだろう?
「しかしせっかちな客人だな。約束の時間より一時間以上早いじゃないか」
「一方的に時間を指定してきた者の要望をすべて聞いてやる気はない。来てやっただけありがたいと思うんだな」
王子の文句に魔王がいつも通りの態度で返しひやひやする。というか時間を指定してきたとはいつ、どこで?
"ちょっと陛下? どういうことです!? 僕は何にも聞いてないですよ?"
"俺様もなんにもしらんぞ! 説明を求める!"
念話でわたしたち四人だけに二人の声が届いている。テオドール王子側を見ても何の反応もないから聞こえていないようだ。念話ってコソコソ話にもってこいで便利だ。
しかし二人の意見にわたしも全面的に同意する。それにわたしは一緒にいたのにわからなかったのだけどなにがどうなっているの?
"わかったわかった。説明してやるから静かにしていろ"
二人がうるさかったのか魔王が軽く眉をしかめていると、それを王子の言い分に気分を害したと判断したのかテオドール王子が弁明してきた。
「それは俺が悪かったよ。すまないな。こちらにも事情があってな、正面から会うわけにいかなくてこういう形で会いにきてもらうことにしたのさ。図書館でのメッセージに気づいてくれて良かった。ヒントもなくとっさに考えたので気づいてもらうのは難しいかと思ったんだが… よく分かったな、黒衣の旦那」
「ヒディンク王国の故事に同じ方法で秘密のメッセージのやりとりがあった。やり方はこうだ。本を積み山を作り、本の背表紙の題名の頭の音を上から下に読む。そうして他人に知れることなく秘密のメッセージを相手に伝えるというものだった。確かあの故事は、敵国に嫁いだ姫が祖国の使者との会談の場で本を積んでおく事で攻めいられることを伝えた手段だったか」
「そう! それを思い出して真似たのだ。博学だな」
"だからあの図書館での本の山を上から読むとこうなる。
ヒディンク王国の崩壊とオーランド王国の成立
外洋への航海と貿易のための帆船の発達
革命王とその治世
ワルプルギスの惨劇についての事実と考察
ルールフィンクの宝石図鑑
時の概念と時計の発明
騎士団の規律と秩序
『ヒガカワルトキ』
クラーセン王朝ー王国初の女王ヘルダの生涯1ー
ローデヴェイクの疫病とその治療法
クラーセン王朝ー王国初の女王ヘルダの生涯2ー
水害と堤防の重要性
ノルデンの森の瘴気侵食の加速度的進行への疑問'
災厄に抗うための魔法の開発と成果
街道行方不明事件の検証と浮かび上がる謎
バーレント陛下と亡き妃殿下の逸話
ニールセンの魔王侵略戦争とその終焉
鉄の武具大全
魔王と魔物との死闘と対応策
ツェルニー公爵家断絶とメトセラール伯爵家の陞爵
『クロクスノサカバニテマツ』
ーー日が変わる時、クロクスの酒場にて待つーー
そういうことだったのか。
理由がわかったものの、例えその故事を知っていたとしてもわたしでは気づかなかっただろう。
魔王は頭もいいようだ。
しかし剣も魔法も凄くて頭もいいとはどうなっているのか。
"なるほど!"
"はー、だからあの時陛下は本が山になっているのを見て、秘密のメッセージが残されているのではないかと思いその場に残ったのですね"
"そういうことだ。短時間での調べ物にしては本の量が不自然だったからな"
"む? ではあの時点でそのことに気づいていたのならば俺様たちが王子を追いかけ夜まで街を駆け回る必要はなかったではないか!?"
"そうですね? 陛下、止めてくださいよ! 僕たち馬鹿みたいじゃないですか! あと情報共有してください。僕、一応この一行の雇い主、一番上の立場という設定なんですから話が把握できてなかったら困ります。演技で顔作れないでしょう?"
確かに。彼らの正論に同意する。
"それは追いかけっこを続ける役目が必要だったから、お前たちをそのまま追わせたんだ。あちらは追いかけっこをして、何者かを欺きたい事情があるようだからな"
それは何者かに監視されているということ?
それは、誰?
ガエルとヴラドもわたしと同じ考えを抱いたようで視線が交わった。
ヴラドは切り替えると貴族的な優雅な笑みを浮かべ、礼をとった。
「申し遅れました、僕はヴラド・グリューフェルト。伯爵を名乗っております。どうぞお見知りおきを、と言ってももうご存知の様子ですが。殿下の方から接触してくださるとは感激です」
「グリューフェルト伯爵、ね。聞き及んでいるよ。ずっと話をしたいと思っていた。ーーこれからは深い話になる、奥の部屋に場を用意しているんだ。そちらでじっくり腰を据えて長い夜を語り明かそう」
わたしたちはテオドール王子側の人物が開けた酒場の従業員通路への扉を、誘う王子に先頭されてくぐった。
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