77 追いかけっこの終焉
遅くなりました。
最近話更新しました!
テオドール王子があの鉱山の事件に疑問を持って調べているふしがある。
それなら邪神信仰者たちの存在、あるいはそこまでいかなくても何者かの暗躍についても気がついているのではないだろうか。
だとしたらオーランド王城内に潜り込んでいる連中を捉えたいこちらの事情を話して、協力をとりつけやすくなる。これは交渉するにあたって大事な情報を手に入れたようだ。
他にも得られる情報はないかとテーブルの上を見ていると横合いの魔王から声をかけられた。
「リンカ、あの本の山を見てみろ」
「本の山?」
二つの本の山はしっかりした装丁の難しそうな専門書ばかり積んである。上から
"ヒディンク王国の崩壊とオーランド王国の成立"
"外洋への航海と貿易のための帆船の発達"
"革命王とその治世"
"ワルプルギスの惨劇についての事実と考察"
"ルールフィンクの宝石図鑑"
"時の概念と時計の発明"
"騎士団の規律と秩序"
とある。
もう一つの山には
"クラーセン王朝ー王国初の女王ヘルダの生涯1ー"
"ローデヴェイクの疫病とその治療法"
"クラーセン王朝ー王国初の女王ヘルダの生涯2ー''
"水害と堤防の重要性"
"ノルデンの森の瘴気侵食の加速度的進行への疑問''
"災厄に抗うための魔法の開発と成果"
"街道行方不明事件の検証と浮かび上がる謎"
"バーレント陛下と亡き妃殿下の逸話"
"ニールセンの魔王侵略戦争とその終焉"
"鉄の武具大全"
"魔王と魔物との死闘と対応策"
"ツェルニー公爵家断絶とメトセラール伯爵家の陞爵"
とある。
歴史書を調べていたのかと思いきや色々なジャンルの物が混ざっていてまとまりがない。王子は結局ここで何を調べたのだろう?
「ここでの用件は終わった。行くぞ」
「え、片付けるんじゃなかったの!?」
スタスタと出口に向かって歩き出す魔王に慌ててついて行き隣に並んだ。
「ここの司書が王子直々に片付けを依頼されているのだから仕事を奪うべきではないだろう?」
「屁理屈こねて。自分の発言に責任もちなよ?」
「昼をまだとっていないから空腹だろう? 一階にあるカフェで食事にしよう。この辺りの名物料理はクロケットやポテトや魚のフライがあるぞ」
「え、フッシュアンドチップスみたいなの?」
「知らんがそんなようなものだろう」
カフェはオープンテラスもある解放的な店舗で小洒落た造りだった。
ちなみにクロケットは俵形のコロッケでカニクリームコロッケだった。まさか異世界でカニクリームコロッケが食べられるとは思っていなかったので懐かしさに泣けてきながら美味しくいただいた。
魔王が少しの驚きを顔に浮かべていた。泣くほど喜ぶとは思っていなくて面食らったようだ。カニクリームコロッケ好きだからしょうがないんだよ。
ポテトや魚のフライもサクサクでマヨネーズみたいな酸味の効いたソースにつけて食べてとっても美味しかった。
と、まんまと結局はぐらかされてゆったり遅めの昼食をとり、図書館を出て病院に向かう…かと思いきや魔王は朝市の通りにまた戻った。
どういうことだろう?
「どこに行くの?」
「宿に帰る」
「え?」
もうとっくに撤収して落ち着いた朝市をやっていた通り沿いの、とってあった宿にわたしたちは本当に帰ってきた。
「いまのうちに眠っておけ。あるいは風呂に入ってさっぱりしてきてもいい」
「え? え? どうして? ガエルとヴラドと合流しないの?」
「そのうち嫌になってここに戻るだろう」
「??」
「大丈夫だ。今追わずとも心配はいらない。あとでわかる」
「うん…あなたがそう言うなら大丈夫なんだろうけど。…寝られるかな?」
「添い寝でもしてやろうか?」
「ちょっ いりません!」
「ははっ では後でな」
と、いうことで個室のカーテンをしっかり閉めてベッドに横になってみた。明るいうちから寝られるかな?と思ったけれど、お腹いっぱいだったせいですんなり眠ってしまっていた。
その後、数時間後に「だああああぁっ!! 全く捕まらん!! 逃げ足早すぎだ!!」という大きな声で目が覚めた。そして「うるさい」という低い声とゴンっという鈍い音がした。身支度をさっと整え、ベッドから出て扉を開けると廊下でガエルがしゃがんで頭を抑えており、その正面には右手を握りしめた魔王。ヴラドは壁に寄りかかっていた。
三人ともすぐにわたしに気づき、起こしたことを謝罪された。それはかまわないのだけれど、さっきの雄叫びからしてテオドール王子を捕まえられなかったようだ。
「いやはや参ったよー。あのあと病院、国立薬草園、冒険者ギルド、魔物研究所、とずっと追ってるのに全然接触できなくてねー。こうまでくると避けられてるのかと思っちゃうよ。傷ついちゃうなぁー」
「王子は今はどこに?」
「お城にお帰りになりましたとさ」
「ぬあああぁっ 獲物が目の前にいるのに捕まえられんとは〜、むしゃくしゃするー!!」
それはわかるかも。もう夜も遅いようだ。体の疲れのとれ具合からして6時間は寝ただろう。こんな遅くまで振り回されたらストレスも溜まるだろう。
隣にいるフェンリルのロウもイラついて床を前足で掘り掘りしている。絨毯が擦り切れちゃうからやめて。
「ヴラド、『クロクスの酒場』に転移しろ」
「はい? 確かに昨日飲み歩きでそこにも行きましたけど、なぜ?」
「いいから、全員転移させろ」
「ふむ、なにかお考えがあるようですね。では行きますか。転移」
なんだかわからないままわたしたちは転移をした。そして、薄暗い店内に客は居なかった。
いたのは数人の人物。
「よう、よく来たな。歓迎するよ、グリューフェルト伯爵御一行」
一人の青年が歓迎の言葉を発した。
それにグリューフェルト伯爵を名乗っているヴラドが応えた。
「ありがとう。しかし、ふむ、貴方はどなたかな?」
「さみしいな。昼間は熱烈に求めてくれたのに気づいてはくれないのかい?」
そう言うと薄暗い店内がその人物が手のひらに出したライトの魔法で明るくなった。
その青年はダークブラウンの髪に、青みがかったグレーの瞳をしていた。
「俺はテオドール。お探しのテオドール王子とは俺のことさ」
お読みいただきありがとうございます。
おもしろかったと思っていただけたらぜひブックマークや評価をお願いします。
執筆のモチベーションが上がります。




