魔王の出張
ーー人間の国
「なんじゃ!また勇者がやられたのか!しかも一人は魔王軍についているだとぉ?!」
「何か策はございますか?」
「そうじゃなぁ…一年後に魔界を攻める!その一年のうちに勇者を召喚し、国の冒険者を鍛え上げろ!そして、そいつらと共に魔王を討ち取る!」
「了解しました。では、魔界に一年間休戦すると伝えておきましょうか?」
「あぁ、そのようにしてくれ」
王様の命令を受けた騎士長は、その作戦を実行するために動いた。
ーー魔界
「ん?なんだこれは?」
健太郎が、ヘルズゲートの掃除中に見覚えのない紙を拾った。その紙には、【魔王宛】と書かれていた。
「魔王宛?なら、飛翔に届けるか。でも、どの部屋か分からん…そうだ!ドルチェ先輩に…」
「何?」
ドルチェが健太郎の背後からひょこっと顔を出した。健太郎が叫んだ。
「うわぁぁぁぁ!びっくりした…心臓に悪いです」
「それより、私に何のよう?」
「つば…魔王の部屋を教えてください」
「嫌だ」
「何で?!」
「土下座するなら考えなくもないけど?」
「お願いします」
健太郎が土下座した。それを見て、ドルチェが笑いを堪えている。
「なにやってんだ健太郎。ドルチェもこいつをいじめんなよ」
「痛!」
「飛翔…」
それを見ていた俺は、ドルチェに拳骨をかまして健太郎に近寄った。ドルチェは泣き目になりながら頭をさすっている。
「本当に何してたんだよ」
「飛翔宛に手紙が来ていて、飛翔の部屋に行こうと思って分かんなかったから…」
「なるほど。で、その手紙はどこだ?」
「ここだよ」
健太郎が手紙を渡してきた。俺が開けようとすると、健太郎とドルチェが近寄ってきた。手紙には、形が整っている字でこう書かれていた。
【我々人間は、一年間休戦します】
「どう言う事だ?」
「我々を油断させようとしているのでしょうか」
ドルチェがそう言った。
「さすが俺の秘書。頭の回転が早いな」
「いえ、褒められるようなことは言っておりません。あくまでも、可能性の一つを言っただけです」
「まぁ、あっちに確認しに行くか。ディアブロ!勇儀!ちょっと来てくれ!」
「「いかがございましたか」」
「俺は今から人間の国に行こうと思う。勇儀には魔王代理、ディアブロは俺と同行してもらう」
「「御意」」
「今から出発しようと思う。すぐに支度をしてこい。一週間くらいかかると思え」
「すぐに準備して参ります」
ディアブロは、すぐに自分の部屋に戻っていった。
「しかし、スカーレットでなくても良いのですか?」
「なんでスカーレットの名前が出るんだよ?まぁ、あいつには怪我してほしくないからな」
「左様でございますか」
俺は、出発前に勇儀とそんな会話をしていた。すると、ディアブロが戻ってきた。
「それじゃ、行ってくる。俺たちはしばらく帰れないからな。勇儀、任せたぞ」
「お任せください」
「ドルチェ、健太郎をいじめたら許さないからな」
俺は、威圧感を出しながら言った。ドルチェは、勢いよく頭を縦に振っている。そんなに俺が怖いのだろうか。
「魔界に何かあったら『念話で俺に伝えてくれ。じゃあ、行ってくる」
「「行ってらっしゃいませ。魔王様。」」
「ちゃんと帰ってこいよ」
ドルチェ、勇儀、健太郎の三人に見送られながら、俺たちはヘルズゲートを出発した。