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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
9/65

第5話 僕の能力

もう2話分投稿します。


土日祝12時、平日18時投稿。

 アルミ缶は、結果から言うと、おそらく30分から1時間もすると消えるようだった。この世界も時間の流れが同じかわからないけど、口で秒数を数えて、1000を三回くらい回ったときだった。すごく面倒だった。もう1000なんて数字を数えようとは思わない。幼いころお風呂に入っても、100がせいぜいだった。数える作業として筋トレを覆い浮かべるけど、それも腹筋背筋スクワットを50回ほどしかしないエンジョイ勢だ。数字を数えるだけでこれだけ神経を使うことになるとは。



 僕はアルミ缶を作り出して糖分補給した。



「あれ、でもこれって僕が作り出したものだから、自分の糖分を消費して、糖分補給してるんじゃ、プラマイゼロじゃね?」



 そうなると、僕の体内の栄養分でルートビアの成分って賄えるのかな。保存料に使われてる安息香酸なんとかって絶対僕の中で自然発生しない代物じゃなかった?



「あー絶対、体内からひねり出してるやつじゃなかった。そもそもアルミニウムがねえ。じゃあやっぱり不思議パワーで一から十まで作られているんだ」



 右手につかんだ空き缶をしげしげと見る。デザインも覚えている限りそのままで、製品情報の記載にもおかしなところはなかった。



 「じゃあ、これで三本目」

 ほい、とだす。今日はまだ大丈夫だった。昨日鬼ごっこしていた時は3~4本くらい出して怠くなった気がする。



 中身の入ったものを台に置くと、僕はもう一本取りだそうとした。



 「よっと! うえ……」

 力が抜けていく感じがする。ちょっと気だるげなこの感覚。やはり何らかの力が枯渇している。



「はあ、はあ……」

 走ってもいないのに、息が上がる。少し平衡感覚がなくなり、立っていられなくなった。寝床に横たわる。



 あーどうしよう。ご飯食べたら治るかな。



 ルートビアを一本一気に飲んだ。

「あっま」

 さすがに糖分の取り過ぎのような気がする。栄養が偏っている。糖尿病になりそう。



 謎の力から作り出されたものを摂取しても、元通りにはならなかった。水分が補給されて少し気分が落ち着いただけだった。残りの一本は手つかずのまま脇に置かれている。



「は~寝よ」

 僕は気絶するように、寝た。



 一夜明け、起床。

上半身を起こして辺りをみまわした。



朝日が差し込んでいた傾きが穏やかになり、部屋に入る日の影の向きが変化して、ほとんど真上に日が昇っていることが分かった。



 この世界の星も自転していると気づいた瞬間だった。

「世紀の大発見だったり……」



 まあ、この世界が原始時代というわけもないだろう。むしろ不思議パワーも使って日本より快適な暮らしになっててSFっぽくなっているかもしれない。少なくともこの聖樹の仕組みはファンタジーが過ぎる。だったら、大国と呼ばれる隣の国はいかほどの発展を見せているのやら。



「いつかとなりの大国にSF旅行しよう」



 そう心に誓った。



「起きたかね」

 おじいさんの声が聞こえた。



「うわ」

 思わず驚いて、寝床に倒れこんだ。



「なんでいるんですか。いつからいたんですか」



「ずっと。最初からいたよ。影を薄くしていただけじゃ」



 このじいさんはなぜか、老人口調を強めてほっほっほと笑う。なんだろう、仙人というイメージを実は知っているのではないだろうか。



 彼は小さい木の箱を持ってきて、僕が横たわるそばに腰かけた。



「いや、僕この部屋を見回してたんだけど、絶対いなかった」



「まあ、君の知らない技術を使っているからね」



「へえ、どんな?」



「どういうものだとおもう?」



「なんかすごい、秘密のアレ」



「ざっくりだねえ」



「ふつうにわかんないんだけど! 何それ。教えてよ!」



「いいよ」



「いいのかよ!あっさりだな!」



ちょっともったいぶった風に言ってたのに。



「というかの。君はすでにそれと似た力を使っているからね。さっきまで寝てたのは、力を使い過ぎて疲れたたからだろう」



「え……」



 なぜか僕は秘密のいたずらをバレたときの、逃げ場を無くした気持ちになった。別に秘密ではないのに、僕はどうやら秘密の力というものを、独占することに憧れていたらしい。



「この力についてわかるの?」

 と聞く。僕の意識はおじいさんの技術より自分の不思議な力に移っていった。



「わかるといえば、わかる。でもわからないといえばわからない」



「どっちだよ」



 またこの爺さんは煙に巻こうとする。



「わかるのは『力』のつかい方だ。わからないのは『君の力』について」

 といって、おじいさんは僕が作り出したアルミ缶をつまむように持っていた。



「あ!」

 と僕は奪うようにひったくった。



「消えてない」



「ふむ……」



 なにやらおじいさんが見つめてくるが、それどころではなかった。

 飲み切ったアルミ缶は1時間ほどで消えたのに、この未開封のアルミ缶はおそらく朝から昼になる時間経過でも消えていない。これは何の違いがあるのだろうか。



 僕は自覚はなかったけれど秘密にしたかったみたいだった。力をおじいさんにバレた失態と、新たな発見のわくわくで、心地よいけれどどこかささくれ立ったような気分になった。



「きみもその力について使いあぐねているようだ」



「……その通りです」



「君はその物体がどういうものか知っているのかい」



「それはまあ」



「物体は知っているけど、物体をつくりだす技術については知らない。ではそれは、本来君が作り出せないものなんだね」



 飲料メーカーが飲み物を作り出す、金属を加工し容器にする、飲料を金属容器に入れて密閉し、全国の小売店に送る……。僕はその詳細を知らない。だから本来ではない別の仕方に頼るほかない。その方法が不思議な力だ。



「そうです。本来は僕はこれを作り出すことは出来ない。でも何かよくわからない力が備わった結果作り出せるようになったみたいなんです」



 おじいさんは、思考を整理するように、当然帰結される疑問をあえて僕に投げ、僕がそれを肯定することで確認していた。僕は嘘をつけないし、僕はおじいさんにこの力がどういうものか教えてもらう必要があった。自分よりも圧倒的に知識がある人の前では隠し事ができない。嘘はもってのほかだ。なぜなら、僕の作る話に矛盾が生じてしまう可能性があるから。  



僕はそんな不安から、正直に答えるほかなかった。



「このものが何か説明してもらえるかい」



「これは、ルートビアという飲み物です。こうやって開けます」

 そういって実演して見せた。カシュっ。ごく。



「もらっても?」



「どうぞ」



「……味覚音痴?」



「うるせえ」

 なんだか頭の中がジンジンする、とつぶやいていた。



 おいしいんだけどなあ。



「そんなに言うなら、返してください」

 と言って、ひったくった。



「その飲み物はどういう材料で作られているのかね」



 ひそめた眉はそのまま、おじいさんは聞いてくる。



「知りません。僕の故郷で売られていたもので、僕が好きだったものです」



「なるほど……。君は知らないけど、『創り出せる』」



「……?」



 なにやら、熱心に物思いにふけり始めた。



 ちょっと経ってまた質問が来る。



「君は、それを創り出せるようになった時、どういう状況だったかい」



 つくり出した時の、状況、ねえ。初めてつくり出したのっていつだっけ?多肉植物に襲われた時? いや、違う。あれはところてんの間か。今思うと、なんだか夢みたいな場所だったな。死んですぐきた空間なんて、天国でも地獄でもない。意識だけあるとしたら、まぎれもなく夢だ。しかし、そこにいたところてんの言った通り僕は異世界に来ている。あいつは何者か。でも、そっか、あの場所を表現するなら……。



「夢……」

 というほかなかった。



「『夢』ね。やはりか」



「え、なにがやはり何ですか」



「君のような、仕組みがわからないものを創り出したり、扱えたりする力は、基本的にこの村にいる民はそれぞれ一つ扱える。ある時期を境に授けられる能力として考えられている。

 そして、使えるようになった人は、皆口をそろえて夢を見たという」



 夢か。なんでだろうね。みんなあのところてんにであって、チートだーハーレムだーとか言われたりしたんだろうか。



「え、じゃあ、おじいさんもルートビアを?」



「そりゃ無理だよ。与えられた能力は決まったものしか出せないからね。というか出せるならまずいなんて言ってない」



 そりゃそうか。



「じゃあおじいさんのできることは何なんですか」



「そうだね、私のことはテスェドと呼んでくれたら教えてあげよう」



「……わかりました」



「なんだって?」



「わかりました、テスェドさん」



「いい子だ」

 そういったテスェドさんは、いたずらが成功したようなこどもぽい笑い方で、つられて笑ってしまう和やかな雰囲気があった。



「ほら、私にできることは、これだ」

 と言って、僕の飲み切ったアルミ缶をつかみ、一度ペコペコと感触を楽しんだかと思うと、べこっと握りつぶして、残像が見える速度で腕を振った。



 すると、手にあった缶は消え、そこには若木が急成長して、蛇のように腕に巻き付く姿があった。



「自分が、捨てて良い、もう使えないと思ったものを、植物に変える力だ」



「えー! なにそれ、かっこいい」



 僕は思わず、寝床から立ち上がって、その腕の木に触れた。

 その木は、瑞々しく、しなり、枯れ木にはないしっとりとした質感を持っていた。



「はは、そんなに喜んでくれるなんてみせがいがあるね」



 おじいさんは照れくさそうに腕を振った。衣類が揺れるのがわかった。

 僕は能力という概念に魅入っていた。おじいさんは物を別のものに変化させる力、僕は無から何かを作る力。おじいさんは生物、僕は無生物。僕の能力は自由度が少ない分、材料はいらない。一方最初に質量がある分、おじいさんは指定する余地のあり、しかも生物である『植物』という結果を生んだ。そんな直感がある。



「テスェドさんの力は、使ってからどれくらい維持されるんですか」



「どのくらいだろう。微生物が分解するまでかな。植物とはいうけど、最初に発現した姿のまま成長はしない能力だよ。その代わりに、どのような年代の植物を出すのかも指定できる」



「そんなに自由な能力があるんですか」



「はは、そんなにうらやむほどのことではないよ。指定する時はそれだけ材料がいるからね。アコンにはそれほど多くの不要物は出ないから、おおげさな使い方は出来ないんだ」



 そっか、でもそれをもって日本に行ったら、ゴミ箱が無くてもリサイクルできて環境にいいな。ゴミ処理の事業で起業したら稼げそうだな、と思った。



「じゃあ、その腕に巻いている大きめのアクセサリーも能力で作ったんですか」



「ああ、これかね」といって腕の蛇のように巻き付くリングをさする。



「これは、確かに私が作ったものだよ。そして、民たち全員にもこれと似たようなものをつけてもらっている。まあ簡単に言えば民の証みたいなものかな」



「へえ」 

 僕はこの時少しばかり、いつか僕ももらえたりするのかな、と思っていた。



「ふふ。君の分もそう遠くない時に作ってあげるよ」



「え、わかりやすかったですかね」



「いや、勘。否定されてたら悲しかったらから、ありがたいね」



「なんだ」



テスェドさんは笑っていた。



「まあ私の能力に比べて、君の能力は限定的で一本調子だけどその分強みもはっきりしている。サバイバルした時に頼りになる能力だね」



 味は苦手だけど、とぼそりとつぶやいた。



「その、ルートビアという種類以外のものは出せないのかい?」



「そうですね、やってみます」



 一度深呼吸して、目をつぶり、今度はだれしも飲みやすい、ミネラルウォーターをイメージする。日本にいたとき何を飲んでたっけ、エビアンか。

 ピンク色で、ローマ字で、材質はペットボトル……。



「うーん、ペットボトルじゃダメか」



 でない。では、次にアルミ缶のポカリスエットかな。



「でない」



 結局何種類か、アルミ缶、スチール缶、ペットボトル、瓶、紙パックなど容器の違いや、水やジュース、アルコールなどの内容物の違いをイメージしてたけど、出せそうもなかった。



「そもそも、どうやって作るんだろう。テスェドさんコツあります?」



「人の感覚はわからないからな。ルートビアの時はどうしているだい」



「そうですね、見た目と手に持った時の温度や質感、飲んだ時の味とかが自然と思い浮かんで、気づいたらできているんですよ」



「うーん。まあ、最初に作れた時、夢の中で力を与えられたときの印象が凝り固まっているのかもしれないね。私も植物で指定できると知るまでは、枯れ枝の棒しか出せなかったし」



 練習あるのみだね、と言われた。



「そっか、練習すればできるのか」



「『できる』よ、頑張ってね」

 おじいさんは笑顔だった。



「うえきの法則」なら、クロガネとライカがのデザインがカッコいいです

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