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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
8/65

第4話 意外と信心深くないんだなあ。2

1/31分はこれまで。

 朝起きると、壁にカーテンが掛けられていない部分の木の壁から、うっすら光が差し込んでいた。どうやら外の光を内部に映し出す仕組みはすべての階層であるらしい。おそらく映し出すか映し出さないか選択できるだろうに、カーテンが壁にかかっているのは雰囲気づくりなのだろう。贅沢な感じだ。

 


 映画とかで海外のセレブがリモコンを使ってカーテンが自動開閉し、差し込む陽光の線が移動する絵面を思い出していた。


 

 ただすごく肩や腰の筋肉が引きつった感覚がする。固い床の上で少しでも寝心地のいい態勢を寝ながら、寝返りを打ち探し続けていたのだろうか。おかげで体中が痛い。明日以降もこうなると思うとげんなりする。



 沈んだ気持ちはあきらめて、改めて部屋の様子を見回してみる。大木の輪郭に合わせているのか大体楕円形で、壁が僅かに凸凹している。僕と同じくらいの体格の人間があと十人いても余裕がありそうなほどの広さ。その空間を僕が今寝転がっている寝床が占領しているので開放感がすごかった。



 「朝だよ」



 おじいさんがモーニングコールしてくれる。部屋の中心の、吹き抜けの穴からツタに捕まって上がってきての登場だ。彼は昨日と同じ服装だった。その服装とは、ベージュの薄い色合いで麻のような軽そうな材質のものを、ギリシャのキトンのように少ない枚数の布を組み合わせ、ゆったり羽織っているようだった。



 暑かったり動きづらかったりはないのだろうか。

まあ、僕の半袖短パンのボロ布素材よりはましだろうな、と思った。



「朝ごはんだよ」

 と渡してくれたのは、ナンみたいな白いパン生地に、香辛料のきいた緑と黄色のスープ、白い飲み物だった。



「さすがに生えてきてすぐは、少しはおなかも減るだろう。昨日は気が付かなくて済まない」



「昨日はおなかが減らなかったんですけど、何か秘密があるんですか?」



「君のことは君にしかわからない」

 とぼけた顔をした。ふざけたじいさんだ。



「じゃあ、いいです」



「ほら怒らないでくださいよ。悪かった。君は生まれ変わって混乱しているだろう。君が生まれ変わる前はどうしていたのか知らないけれど、その様子では食べ物を常食する生活様式だったみたいだね。おそらく私たちのような種族ではないものからのうまれかわりだろう。ちがうかい」



「その通りです。食べることは普通だと思うんですけど、ここでは違うんですか、というか種族って何ですか」



このように質問している間に、僕は、おじいさんが、僕のことを、生まれ変わった存在で今は同じ種族だと見なしていることを知った。そして生まれ変わりというのがそれほどおかしいものではないこと。そしてこの種族以外に食べるのが普通だという種族がいることも。この世界にはこの村以外に人はどれくらいいるのだろうか。



「違うね。ここではそれほどご飯を食べなくていい。生まれてから年をとればとるほど食事をしなくても生きていける身体になる。もちろん食べることもできる。種族というのは、君は前世で人間だったようだが、私たちは人間ではないんだ」



 若い者に食事を必要とする者はいるし、年寄りも愉しみとして食べるために、村で食物を栽培しているけどね、と補足した。



「なんだか仙人みたいですね」

 僕はどうやら人間を止めてしまったようだ。



「仙人というのは?」



「ええ、と知りません? 山で修行して、気づいたら霞を食べて生きるようになった人」



「知らないね。僕たちは山の中で修行しているといえばその通りだし、でも霞を食べたいとは思わないな。このミルクのほうがよほど栄養がある」



 ほらお飲みといって僕にすすめる。おじいさん、栄養を気にするのかな。食べなくてもいいというのに。



一口飲んだ。ココナッツの味がした。しかし甘くなく青臭さが混ざっている。慣れるまで少しのみづらそうだと思った。



 数分後。おいしく平らげた。空腹ではなかったけれど、味覚がきちんと機能して、香辛料が食欲をそそった。グリーンカレーっぽいスープで、芋の触感が気に入った。



 十分に食べると満腹感がきた。前の身体と何ら変わらないことに少し感心して安心した。

 おじいさんは何も食べずに、こちらをじっと眺めていた。ただの食事シーンを見て何を考えているのだろう。



「食べないんですか」

 と聞けば、彼は気にしなくていいと返した。どうやら千年以上を生きる彼は数百歳を超えたあたりから水分もそれほど取らない生活をしているらしい。



 石ころか何かかな、なんて失礼に思った。というか、不可思議な力を自分も使えると気づいてから、全ての異常、前世というか日本にいたころの自分にとっておかしなことは、全てひとまず文化として受け入れることにした。気づいたらそうなっていた。諦めかもしれない。



「そんなに長く生きて、退屈じゃないんですか」



「全然。まだ知らないことは多いし、未練しかないからね」



 未練か……。僕は死んだとき未練なんてものを持っていただろうか。別にこの人を悪く言うつもりはないが、良い意味で生き汚く、アクティブな人なのだろうなと思った。



 もし僕がこの先ずっと生きられるとなったら、どうだろう。そもそもこの生まれ変わったというこの世界のことはまだ全然知らないから、何とも言えない。けれど日本でずっとくらすとなったらどうだろう。自分だけ年老いるだろうか。別れがつらいというだろうか。それともこのおじいさんのようにやり残したことを探し続けやり続け、アクティブに生きられるだろうか。



「僕には未練なんてなかったですよ」



「一度死んだときの話かい」



「そうですね。そもそも生き返ったなんてことも信じられませんし」



「でも現に、ここにいる」



「はい。この身体も誰か別人のを借りているみたいな感じです」



「やはり以前は別の種族だったのかね」



「別の種族、というかまあそうですね。顔の堀の深さとか肌の色は違いましたね」



 おじいさんはそのあたりを詳しく聞きたそうだった。僕が敬語で話し続けることにも昨日ほどの抵抗を見せることなく、話の内容にくらいついている。



「ふむ……。それでは君はこのあたりとは全く違う場所にいた人間だったというわけか」



「……そうですね。失礼ですけどこの村の存在も知らなかったですし、外の森もどこに位置する森なのかわかってないんです」



 おじいさんには、ところてんが言った異世界転生という情報をなんとなく秘密にした。生まれ変わりがあるこの世界において、異世界という概念がどれほどポピュラーなものかわからなかったから、説明が面倒だなという思いがよぎっていた。



「だから地理について教えていただけませんか」



「地理かね。力になってあげられるかな、なんせ私も数百年の引き籠りだからね」



 おじいさんの苦笑いにつられて笑ってしまった。



「では、そうだね……」



 おじいさんの講義が始まった。それはひどく簡単な説明だった。この村の名前、この村のあるジャングルの名前、ジャングルのある土地の名前、その土地と接している大国の名前。この村のある土地とその大国の関係性、そしてこれらの国々のある大陸の名前についてだった。



 まずこの村は、アコンという。聖樹によく似た植物からとられたそうだ。この村を囲うジャングルは、ビレア。暗い森の中に咲く赤い鮮やかな花の名前が由来だった。ビレアの南には大きな湖が存在して、湿気を運ぶ。ビレアがあるのはカンナという地方で、これは大きな平野である。カンナには数か国が存在し、均衡を保って発展していた。



 「朝はこれくらいにしておこうか。仕事がある。君はゆっくりご飯を食べていてくれ」

 おじいさんはこう言って、食べるのが遅い僕に気遣い、ゆったりとした動作で立って、部屋から出ていった。



「仕事ってなんだろうな。むぐむぐ……」



 この村の名前と場所、周辺国の情報を得たが、まだまだ謎は多かった。

 僕はご飯を食べきると、皿の片付けをどうするか聞いておらず、迷ったが、このローテーブルに重ねて置いておくことにして、ルートビアを飲んだ。



 空き缶は寝床のそばの床においておく。昨日寝る前においておいた缶は消えていた。作り出したものは時間で消えてしまうのか、それともここの住人がこっそり持ち出したかのどちらかだった。時間を持て余しているので、この缶がどれくらいで消えるか、実験することにする。 



 その間暇なので、缶をどれくらい出せるのか、限界がきたら、またあの植物群と鬼ごっこした時のような虚脱感が襲ってくるのかどうか試そうと思った。



「住居の中で一応安全そうだし」

 僕は昨日の今日で、自分の立場に安心しきっていた。


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