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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
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第50話 滑稽

1/19はこれまで。


 とはいえ、何をできるわけでもない。正義感を拭いきれず、ただ飛び出しただけの子供だ。

後ろの敵陣営の戦場では、未だ決着はつかず、削り合いが続き、森の中は、敵が行進を続ける。あの援軍が合流したら、アコンの民は本当に劣勢に立たされ、一網打尽だ。少なくとも、援軍が来る前に戦場を片付けてもらい、一度撤退しなければならないと思った。



 継戦は無理だろうと素人ながらに思う。

 だから、援軍の方に走った。

 両手に二本のルートビアを持った。

 理想でなら、落とし穴か何かを掘っておいて、それで足止めができればいいのだが、準備していない。だから、僕は胸の内に語り掛ける。



「力貸してよ」



――無駄じゃない。無駄だから嫌よ。



「無駄じゃなければいいのか」



――そうね。無駄じゃないことは、木の陰に隠れて、戦況を見つめていることだけだけれど。



「僕が勝手にやることだ。それに、僕が死なないでうまくやる方が、あんたもやりたいことが出来て都合がいいだろう」



――はあ。じゃあ、一つだけ、アドバイス。援軍の中にもリーダーがいるから、そいつを狙って、周囲を警戒させれば、足止めになるんじゃない?



「なるほどね」



 僕は、教わった通りに、実行すると決めた。一度降りた地面から、又木に登る。敵の隊列を上から見下ろす。彼らは、二人横一列になり、縦に長く伸びていた。

 しかし全然誰がリーダーかわからない。



――綺麗に二人一列の長蛇になっているじゃない。最初の二人を止めれば、後ろも止まるわね。



 僕は、二本のアルミ缶を弾丸にして、二人の頭に向けて飛ばした。院長たちがやっていた、サンの四角形の砲台のイメージが変質して、アルミ缶を包み込む円柱状の砲台が出現し、砲台の穴が空いているお尻を、サンの結集の塊を思い切り叩きつけた。つまりストローのように前後貫通している砲身にセットされたアルミ缶を、たたき出したわけだ。すると砲弾のアルミ缶は目に見えない速度で射出され、二人の頭あたりで、アルミ缶が破裂した。炭酸が噴き出て、ルートビア特有の茶色い液体が地面を濡らした……。



 同時に、彼らは後ろに倒れた。頭を覆っていた布とゴーグルは彼方に飛んでいき、そこには何かの塊も一緒に飛んでいった。人の顔があった辺りには、肉片が崩れていた。



――力み過ぎよ。



「……」



 僕は震える両手を見やった。なぜか僕は、アルミ缶を、射撃の弾丸にできると無意識に確信し、それを実行に移した。しかし、あれほどの速度で射出できるようになっていたとは思わなかった。僕は最近全然サンの習熟度を確認してはいなかったが、彼女を中に宿したことがここまでの影響になるとは思わなかった。



 ……僕は僕の意図で人を殺してしまった。今まで、目の前で殺人が起きようが、どこか映画を見るような感覚でいた。それの始まりは、エロデが僕の身体で、僕の意志とは関係なく人を殺したからだ。麻痺して、僕は慣れたと思っていたけれど、僕の意志で『殺せる』と確信したのは、今初めてだ。



 僕はエロデが殺人した時の、首を絞め落とす、重く鈍い、骨の砕ける感覚を思い出し、目の前に、頭蓋を破裂させ、肉塊の破片を、こぼす二体の屍を確認して、胃液がこみ上げるのを自覚した。



「移動するわよ」



 僕は思わず怯えて、主導権を彼女に譲っていた。

 彼女は冷静に、敵が弾道によってこちらの位置を確認する前に、ここを去った。反対側の木陰に立つ。

 敵は、彼女が逃げたのにワンテンポ遅れて、死体の確認と、枯葉剤の散布を始めた。



――ほら、無駄なことはするもんじゃあないわよ。いつもと違うことを土壇場でしてみたって、大体無駄に終わる。人は慣れ親しんだ習慣を繰り返すものよ。異物は身体が耐えられない。



 ああ、その通りだ……。人を殺すなんて習慣にないから。僕は呼吸が浅いのを自覚する。

 敵は、周囲を警戒して、一旦立ち止まっている。即死しただろう二人の様子見と、周囲の警戒。攻撃の方向ばかりに今は煙を噴出しているけれど、反対側のこちらに向けるのも時間の問題だった。



「ほら、飲むわよ」



 彼女は、いつの間にか生み出したルートビアを飲んでいる。いつの間にか、僕の開花をコピーしている。こうやって、居候した民たちの能力を学び取って生きたのだろう。



 僕の感覚はまだ胃が逆流を起こしそうになっているが、彼女が主導権を握っている間は、吐くことはないだろう。



 彼女は少し、げっぷを我慢するように空気を嚥下して、一息つく。

 人々が右往左往し、周囲を索敵する様子が、サンに満ち溢れた森を映す察知の視界の中、虫食いのように、何も映らない人影によって描かれている。エロデはその動きを肴にジュースを飲む。



「はあ……、久しぶりの人工甘味料だわ。ちょっと癖の強いにおいだけど」



 彼女は落ち着いている……いや、現状がどうなろうと気にしていないという風であった。

 彼女は飲み終わった缶を人々の頭上を越えて、道の向こうに投げた。それは草花を揺らして、岩にあたって金属質の音を鳴らす。人々はそちらを凝視し、数人が低木をかき分けて物音のした場所を索敵し始める。



「そうだ……、あなた巫女でしょう」



 彼女は低い声で言う。



「サンに強化された生物を呼べばいいじゃない。もっと時間が稼げるわよ」



 それは……。確かにそうすればいいだろう。でも僕はそのやり方を知らない。そして、彼らは枯葉剤の気配に怯えている……。先の戦いから、煙から逃げてばかりだ。火を恐れている獣のように。あまり無理強いはしたくない……。



「いつまで正義感ぶっているつもり? 一人では何もできないくせに。やりたくないことばかり……。きれいごとを言い訳にして、結局自分が汚れ仕事をやりたくないだけ。汚れ仕事をやって、誰かに失望されるのを恐れているだけじゃない」



 ……そうだ。その通りだと思う。でも、本当にやり方はわからないし、動物を虐待する趣味もない。



「虐待するために呼ぶんじゃないわよ。助けてもらうために呼ぶんでしょう? はき違えないで。私に助けを呼んだくせに」



 助けてもらう……。自分が助かりたいから、人に迷惑をかけても助かりたい。そうだ。数瞬前に、僕はユージェのことを思い、反省した。でも、それは表面上の反省に過ぎなかった。ユージェに悪いと思ったことを、実はエロデにも行っているではないか。



 僕は、助けを呼ばなければ、生きていけない。助けを乞う相手は、誰であろうと、期待をすることになるし、それは相手にとって重荷だし、迷惑になりうる。



 反省をする向きを間違えている。やってしまったことを、その人に対してもうやらない、と覚悟しても、同じことを、別の誰かにやっている。



 僕がするべきは、なぜユージェに対して僕が「死んでほしくない」といった後に「死にたい」と言ったのか、その根っこの部分を見つめることだったんだ。単純に悪いことをした、反省した、で何を反省しているかもわからず、自虐しただけで終えた。馬鹿だ。そしてまた失敗を繰り返す。



 とはいえ、なぜ僕はユージェに対して、あれほど支離滅裂な二つのことを言ってしまうのか。そして身勝手な正義感で人に助けをかけることに、対象の人物が、余裕があれば正当化して、余裕がなければ、悪いことだと考えるのか。



 そんなこと単純だろうと思う人もいるかもしれない。助けを求める対象に、余裕があるから助けを求める、無理そうだから助けを求めない。余裕のある人に助けを求めなければ、貴重な戦力を得る機会を失って損をするし、余裕のない人に助けを求めれば、彼らは余裕が無いのだから、話をしても断られるだけだし、無理に引き込めば、その人が力尽きて、当てにしていた自分も共倒れする……とか。



 でも、それは本当か、というエロデの圧が、僕のナルシシズム的な見方に熱をもたらし、考え直せと言っている。



 考え直すとしたら、僕が助けを呼ぶのが、ユージェであれ、エロデであれ、サンに強化された生物であれ、彼女らに、何を頼むにしても、『期待をする』責任を自覚した方がいい。そして、『期待をする』ことを、するならば、『期待され、何かしらに責任を負う』ことを、良しとすることを考えなければならない。当然ではあるが。



 でも、僕が、誰かに助けを乞う時、僕の主観で、相手に『できることを期待している』けれど、本当にそれが出来る事実があるかどうか、わからない。だから断られることがあるけれど、僕の場合は、巫女という特権階級にいる。ミネさんが僕の戯言を真実と信じ込んだように、巫女の頼みは、村において、絶対的な脅しに変わり得るのかもしれない。それを自覚する必要があり、巫女としての責任は、その特権としての不自由さの裏返しにあることを認識しなければいけない。



「なによ、黙り込んじゃって。……ふふ。もしかして、馬鹿正直に考えた? まじめすぎ。あなたに必要なのは、思慮深さとかじゃないわね。横暴さかしら。そういうどうでもいいルールがあると手さぐりになるのを、吹き飛ばす……横暴さよ」



 横暴さ? ルールを破る?



「そうよ。はあ……。気づいてないから言うけど、……私もお節介ね。あなたに寄生してるから、あなたの気弱が染って、同情してるみたい。やれることは、せいぜい一つ……」



 彼女は指を立てる。



「私が、ジュースを出す能力をマネできていることにあなたは、驚いているみたいだけど、でもね、あなたのすべてをマネできるわけじゃあない。私がどうして、あなたに生物を呼べばいいじゃない、って言ったかわかる?」



 ……?



「鈍いわね。私が出来ないから、言っている。つまり、あなたに助けを求めている。あなたは私に助けを求めたように、私はあなたにやってもらおうと思うことがある。あなたは考えすぎると、自分が他者に何もしていないとか考えるでしょう。だから責任とか期待とか、考えすぎる。

 私が昔読んだ本に『愛するとは、自分にないものを与えることだ』って一節があったわね。誰が言っていたのだろう、ひょっとすればありふれた言葉かもしれないけどね。場違いな言葉だって? ちょっと最後まで話を聞いてよ。――愛するっていう行為が、ひどく滑稽なことだって言うんだ。どう思う?」



 ……確かに、そういう部分はあると思う



 僕はメルセスさんのことを思い出していた。彼女は、テスェドさんに対する話をするとき、ひどく隙が多く、どこか抜けているような可笑しみがある気がした。



 さて、僕もまた隙が多いふるまいをしていただろうかと、思考が明後日の方向に飛び掛ける。



「でしょう。それというのも、誰かを愛するときは、その人に対して、自分にないとある要素を認めて、それを埋めてくださいと下手にでて、相手を包み込もうとするんじゃないかと思うの。自分にない要素が、相手の存在によって埋まる気がする。私はあなたが必要なの、私は不完全な存在なのと、相手に平服するのよ」



 平服することが、無いものを与えるということ? わからない。僕にとって、誰かを好きになってたまらない事はそのようなシチュエーションだったろうか。



「でも別に、相手との力関係を認めることは、愛することに限ったことではないわ。ほら、思い出してみて、あなたが助けを求めた場面を……」



 僕が助けを求めた場面……特に滑稽だったといえば、アルファリオにからかわれた時のことだ。あれは、今の戦いが始まってすぐ、村の気配に圧倒されて、ビビッて聖樹の前で立ち往生していた時だった。僕はあの時、彼に腹の底を見せて、助けてくれるよう懇願し、一蹴された。



「助けを求める行為が、愛と異なるのは、それが、相手に与えるための行為ではなく、相手に悟られてしまった底の浅さ、ということかしら。愛を与えるのは、私の欠如の部分をあえて与える行為。助けを求めるのは、露呈した欠如を見られてしまい、同情を誘う行為よ」



 彼女の言葉に、僕は目を見開く思いだった。



「私が出来ないことを、あなたにはできる。それを悟らなければならない。そうして、単なる同情の誘いではなく、相手に確実に助けを引き出させるカードを見せなければならない。助けを求めるのを止めて、対等さを保持しなさい。世の中弱みを見せて助けてくれるお人よしばかりとは思わないことね……」



 僕にできることが彼女にはできない? だから、それを与えることが出来るか? 



「スタンスはわかった? ならば具体例。今あなたが考えるべきは、正義感を果たす勇気の出し方でも、他者に向き合う誠実さへの拘りでもない。自分の強みというカードを整理すること、それと、そのカードが使える状況以外、できなくて当然の評価を自分に下すこと。今持っているカードは何? 巫女とサンの能力でしょう? ああ、私が寄生しているということでもいいわね」



 彼女はおなかを強めに叩いた。僕に喝を入れているようだった。



「私以外に対してのカードはわかったわね。で、私に対してのカードは、今は何が残っているでしょう。私の存在とジュースの力は、あなたが私に対して優越性を持つことは出来ないわよね。だから、巫女の特権を私に対しても振りかざせばいい。そうして、私に助けを求めたことの債務を返済すればいい」



 でも、巫女の力なんて、いつ来るかわからない聖樹の言葉を受け取るくらいだ。



「それは、あなたが巫女であるということから逃げることを、諦めていないからじゃない? 巫女の能力を使い、巫女としての責任を少なからず負う覚悟をすれば、おのずとわかるでしょ。サンの能力も似たような感じで覚えたんじゃないの」



 似たような感じではなかったけれど。でも、ええ……巫女として村に縛られるの嫌だな。



「別に私はいいわよ。あなたが巫女をやってもやらなくとも、村が崩壊することは変わらない。それに、今こうやって出て来て、活動しようとしているのは、一体何のため?」



「それは、……」



 何度も言っていることだ。他者に責められなくて済むように。では、なぜ行動することが他者に責められずに済むことにつながるのか。



 集団の中で、集団の利に即さない奴は、袋叩きにされる。たとえばとある一人が怠けて、集団の危機に手を貸さなかったとして、それで集団が無事に危機を越えたとき、その一人は、責められるだろう。それを当然だろうと大勢が考えて、僕もそれに倣う。



 経験的な予測と常識による、反射的な行動。そうして、僕は集団の和を乱すことを、自身の不利益と考え、それを避ける。



 それと同等に、僕は、巫女引き受けることへの不利益もまた、偏見により忌避している。

 ここまで考えてきて、ふと思う帰結は、村が死滅すれば、僕は集団に離反して後ろ指をさされることも、巫女の責務を引き受ける運命も立ち消えとなる事実だ。

 村が滅びた後、生きていけるかはどうかとして、僕の問題は全て片付くだろう。ただ、それを嫌だと考えている僕の感情を抜きにすれば。



 その感情の源を知らなければ、僕はいつまでたっても、薄っぺらな正義感から抜け出せない。薄っぺらな正義感……、僕を、『嫌だ』と反抗的にさせる原因は、なんだろうか。思い当たることは今のところ、一つだけ。村の滅びるのを、反対する感情は、村でお世話になった人が不幸になってもいいのか、と聞かれたら、よくないです、と答える際に思い浮かべる楔だ。



 それは、何だったろう……。いや、実はすぐにでも思い出せる。ただ、少し悲しみが付着して、思い出すのがつらかっただけだ。



 テスェドさんのこと。

テスェドさんが理不尽なことへ声を上げたことへの共感。村の民が病に苦しんでいる時に、村の全体を救うために、民を切り捨てるように実験体として扱うことへの怒り。その感情に共感したから、僕は村に、村の民に不幸になってほしくないという立場に肩入れしている。



 裏を返せば、僕はテスェドさんの恩義を重く見て、民の命を救うべきだ、という意見に価値を置いている。テスェドさんの味方でいたい、という酷く幼げな気持ちなのかもしれない。



 となると、僕は、本当は集団の中のつまはじきにされることなど、それほど重く見ていない。ついでだ。本当は、僕が最後の言葉も聞くことが出来なかったテスェドさんに嫌われたくないんだ。彼と意見を異にしたくないという、彼に対して深く思い入れを持っている……。



 彼は、僕を村に引き入れ、この村の歴史と彼の考えを、一週間ほどの間だったが、教えてくれた。彼は、そのわずかな期間、すごく丁寧で、優しかった。彼のお茶目な笑顔や、しわが深く、節くれた手の柔らかさと温かさ。思い出せば、彼の姿はくっきりと目に焼き付いているようだ。その陰影のある思い出は、この世界の中で一番の価値として僕の中に刻まれている。



 気づけば、僕は彼のことを慕っていたのだった。元カノとは別の意味で、彼への愛を持っていたのかもしれない。



『自分にないものを与える』



 彼女の口から聞いたそれを、『自分が持っていないことを認めて、相手に曝け出す』という意味で解釈するならば、僕はテスェドさんに、僕が持っていないものを曝け出していた。



 彼は多くを持っていた。サンの総量や、その能力の扱い。次期長老院候補という肩書と、かつての戦争の二英雄の一人という事実。そしてそれらをかさに着ない自然体で、よそ者の僕を村に迎え、最初の不安な時期を、懇切丁寧に補助し、日々の衣食住について観察して不満の声をくみ取り、改善してくれた。



 その態度に、僕は自分にないものを、感じ取っていて、僕は僕にそれがないからこそ、彼に大いに甘えた。次第に彼との距離感が縮まった。



 僕にないものは、この村での立場やら、生きていくうえで必要な知識や力。



 それを彼が持っているように感じていた。

 だから最初は、力も立場も優しさもあるこの人が持たないものは、無いだろうと思っていたのだけれど。



 彼は村の民に対する扱いを嘆いていた。この村での常識は、僕の前世の常識からはズレていて、この村の異端であろうテスェドさんの考えは僕の常識と近かった。



 彼の味方になろうと思った。

全てを持っているかと思われた彼でさえ、持っていないものはあって、それを欲している。ならば僕は、彼の求めるモノを、彼に与えられる人間になりたいと思ったのだ。



 そしてそれは、今僕の持っていないものだ。

彼が欲する物を僕も欲し、彼に欲される人になりたいと願うことは、僕の中で自然と彼を愛する感情を育んだのかもしれないと、今は思う。



 今はいない彼からの恩を、風化させないように、僕は村への襲撃に、居ても立っても居られない感情になっていた。



 誰かに嫌われるから行動しようと、漠然とした不安に駆られていたのは、テスェドさんに対しての不安だったと気づいた。



 あるいは、テスェドさんに好かれる自分のイメージを作り上げ、現実の自分と比較して、劣等感に侵されていた。僕は最初に、彼に好かれている自分を作り上げ、無意識にそれをいしきして行動している。でも、途中でそれを忘れ、そしてテスェドさんが死に、完全にその理想像の詳細を思い出すことも忘れていて。でもそれを守ろうという名残だけで動いていた。だから、意識の上では、そんな理想像はないから、現状の選択にたいしてその理想の行動指針がそぐわないことが発生して、僕はちぐはぐな感情に振り回されていた。



 具体例を思い出せば、村の中でうずくまっている現実に対して、巫女という特権を与えられ、テスェドさんが期待する役割を果たし、戦争で何か華々しい働きをして村の民が生き延びるのに一役買える、という理想の幻想。



 その幻想が現実にならないことに、いら立ちは覚えないけれど、テスェドさんに対して申し訳なくなっている。その罪悪感が、僕を焦燥感と薄っぺらい正義感に押し込む。



 と、ここまで考えてきたけれど、僕にできることとは何だったっけ。

 エロデの言うところでいえば、助けを求めるということを、巫女の特権で『横暴』に突き通せ。ということ。



 僕の中の最低限で最小限の源は、『テスェドさんに好かれている自分でいること』で、十分だ。それを実現するために手段として、村の民を救うのだ。救うためには、動物の命を多少犠牲にしても仕方ない。現にアコンの民が犠牲になっているのだ。多くの民を救うというためには……仕方ないのではないか?




愛するとは、自分にないものを与えることだ、とはジャック・ラカンからの引用です。私の読んだ本はセミネール第5巻『無意識の形成物』上巻です。下巻を早く読みたいものです。というかほかのセミネールも。とくに愛の章。


最後に。

清涼飲料水は、飲み物です。人に投げつけるなどせず、飲用してください。以上。

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