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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
47/65

第38話 少し前の話。名を知らぬ少年とそのライバルについて1

2/14分は後39話まで投稿します。38話はもう1ページにまたがっています。


平日18時 土日祝12時投稿

 何はともあれ、僕は彼と別れた。

 


 別れ際、メルセスさんと和解することを約束させられてしまった。



 子供じゃないんだから、とは思うものの、誰かの強制力がなければ、あの人ともう一度しゃべろうという気力が起きなかったのも事実である。助かったのか、気が重いタスクが増えただけなのか、よくわからなかった。



 とはいえ、僕の日常はまた、単調で味気ないものへと戻ってきた。僕の思考を占領していた記憶の夢の断片は大分落ち着いてきたような気がする。



 僕は散歩をするようになった。敵の襲撃から前世の感覚でいうところの二週間が経ち、テスェドさんの死を経て、ミネさんも僕に自由行動を許すようになっていた。



 落ち着いて村を見渡すと、ここがすぐに滅んでしまうのか、という現実感のない事実に直面して、僕は居心地が悪くなる。何か出来ることはないか、防ぐにはどうすればいいのか、と思うものの、アルファリオ――僕を見守っていたという男が、滅亡を見届けるという口ぶりに対して、怒ることが出来ないことを自覚していた。これは村に興味が無くて滅んでもどうだっていい、という気持ちというよりは、必ず滅ぶ運命にあるのだ……という事実を受け入れるほかない諦めであった。



 恐ろしい未来とは対照的なのどかな村を見ていると、僕はユージェの手伝いで社会見学をしたときに出会った子供のことを思い出していた。実はまだ語っていなかったのだけれども、あの四日間、最終日だけでなく、よくユージェは忘れ物をして僕を放置することがあった。指導で付きっ切りじゃなかったのか……と思うのだが、彼女は気ままだった。



 そういう時、僕は古い聖樹の根本に座り、村の様子を眺めていた。

 あるいは、村を歩けば、今まで気づかなかった子供たちのはしゃぐ様子をたびたび見かけた。なぜ気づかなかったといえば、大きさだ。



 子供とは言え、20歳以上になって養育施設から出てきた者たちだった。僕の背丈と変わらないかそれ以上の、それなりに身体は成長した者たちが表情を天真爛漫にさせて遊びまわっている姿は、一見シュールであった。けれど、僕はそれに見慣れるようになり、受け入れていた。ユージェに彼らが子供だと言われなければずっと気づかなかっただろう。彼らの衣類の丈は膝までしかなかった。初めて、民たちを見たときに、数人衣類の長さが異なっていたけれど、戦士団っぽくなかった民というのは、子供たちの事だったのだと気づいた。



 彼らはどこからともなく集まっては、村中を走り回って遊んでいる。腕輪にためたサンを、果物屋のおじさんにあげてフルーツを買ったり、革職人のおばちゃんにあげてボール遊び用のグローブをもらったりしていた。フルーツは分けて食べ、また、グローブと、クルミを大きくしたような固く大きな木の実を使ってキャッチボールを村の端ですることもあった。また警備隊の人らに目をかけてもらったときには、木を削りだしてもらい、サンによる器用な加工でコマを作ってもらって、木箱に布をぴんと張った台に、コマを回し合って、競争していた。



 平和に見える生活を、僕は聖樹の根元に座り込んで、ながめているのが好きだった。

 しかし、ひとつ待てよ、と思う。確か子供は、サンを扱うことができなかったのではなかったか。蕾の状態。少なくとも50を超えなければ普通の子供はサンを理解することができず、100付近になってようやく開花が発生するという速度のはずだ。



 では、先ほど、20歳程度の子供たちが腕輪を使って、サンを引き出し、村の民らと交換をしていたのは、何だったのか。やはり身体が大きいから、子供ではなく大人だったのか? ただのガキのようなあそびをする大人。無邪気な大人。あまり気持ちのいいものじゃないなと思うのは失礼だろうか。大人が子供のように、心にためらいなく爛漫に遊ぶのはどこか、ブレーキの壊れた乗り物に乗るようで、見ていてハラハラするのだ。それが今僕には感じられなかった。やはりあれは子供だと思う。



 僕はサンを扱っていたと思われる子供たちの中でも、物静かで話かけやすそうな子供に話しかけた。 



「なあ、サンが扱えるのか」



「なんだ? おねえちゃん?」



「ああ、急にごめんな。ちょっとさっき買い物しているように見えたから。僕はよそから来たから、ここのことよく知らないんだ。サンを使ってどう買い物するんだ?」



「そっか。ぼくはしらないんだよな。ぼくたちの買い物を一人でやってくれる奴がいるから」



「へえ、どの子?」



「あいつ」



 とその子が指さしたのは、集団の中でリーダーのように周囲に一目置かれているのがよくわかる子供だった。



「ちょっとあの子に会ってくれるように言ってもらえない?」



「ぼくが言ってもおねえちゃんが言っても変わんないよ。優しいから会ってくれる。ぼくは観察に忙しいんだ」



 そういって、物静かな子は地面に向き直った。気づくとその子は、地面を這うアリを眺めているようだった。



「邪魔しちゃってたか。悪いね。じゃあ言う通り話しかけてくるよ」



 彼は無心でアリの行列を眺めていた。



 僕は集団の中の一人、大人びた子供に声をかけた。



「ちょっと聞きたいことあるんだけど、いいかな?」



「うわ、なんだこの女の人」「おねえちゃんだれー」「あれ、巫女じゃない? 感想やのおばちゃんが自慢してた」「うわほんとだ巫女さまだー、でも今はメイド服着てないね」「おい、サン見せてもらおうぜ」「えー怖いよ、大人の人怒らせない方がいいって」「いいじゃん見せてくれるくらい大丈夫だって」



 僕が話しかけたことで複数の子供たちがわいわい囃し立て始めた。僕を巫女だと認識するものもいた。井戸端会議の伝播力は恐ろしいな。メイド服は今は脱いでいる。乾燥屋を手伝うときに、着させられる。

 それはさておき、子供たちはサンに興味があるんだろうか。まだ使えないであろうサンを。



「静かにしろ」



 大人びた子が注意すると他の子供らは少しずつ声を落とし、気づけば黙って、僕とリーダーのような彼、二人を囲って成り行きを見つめるのだった。



「あはは、なんだか話しにくいね」



 見つめられることに居心地の悪さを感じて苦笑して言うと、



「話って何ですか?」



 リーダーの彼はスッと、僕の心理的な間合いに詰めてきた。下手な愛想を振りまくことが無い分、子供らしさがある。というか大人ではないから当然なんだが。



「君はサンを使えるの?」



「はい」



 気負いなく言った。彼はそれが当然という風にきょとんとしている。そんなことを聞いてどうするのか。周りの子供たちの方が誇らしげに胸を張っている。



「君何歳?」



「はあ……27歳です。一応これでも外に出て20年生きているんですから、努力してればサンくらい使えますよ」



「20年……」



ということは、普通の子供の半分以下で養育施設を出て、生きてきたということだ。この子の早熟ぐあいがわかると同時に、僕みたいな野次馬にサンについて聞かれて辟易していたんだろう。



 僕は少しいたずら心が沸いた。



「ふーん。じゃあこれはどう?」



 僕は右手にルートビアを出した。

 その時、彼の目にわずかにキラキラしたものが見えた。

 好奇心、憧れ、興奮。

 どこか懐かしい気がする色だった。



「お姉さん、さすが巫女ってだけありますね。一瞬で物をつくり出すなんて。それがあなたの開花ですか?」



「そう……言うことになっているね。巫女って言われても、あんまりぴんと来ないんだ。僕はこの世に生まれて、20日もたっていないからね」



 そういったとき、彼の顔に訝し気な色と、信じられないという雰囲気が現れた。



「20日? 嘘だ。開花をしている時点で、少なくとも70年は言っているはず。戦争の英雄モンデリゴも開花するまでは60年はかかっているんだから」



 彼はモンデリゴについて多くを語った。どれだけ彼がすごい天才だったか。村の伝説では他人の半分の年齢でサンを使いこなし、その擬態は存在しないがごとく、それでいて射撃の腕は天下一。戦争で聖樹を助けるために命を捧げた英雄だと。



「ぼくはモンデリゴのような英雄になる。そして彼以上に早いうちから頭角を現して戦士団に入るんだ」

 そういい切った彼の目はとても遠くを見ていた。僕はそれをうらやましく思った。

僕にない展望を持った精神。僕にない向上心。人を見る目に自信はないけれど、この子ならサンを扱ってても不思議ではないな、と思わせる力がそこにあり、周囲の仲間たちのつき従う様子もそれに説得力を持たせているのだ。



「そっか。すごいな」



「すごいって、なに?嫌味? 一年もせずに開花したっていう、お姉さん?」



「あーごめんごめん。君の努力を否定するつもりはないんだ。といっても信じてくれるかどうか……。僕自身は気づいたらこの能力と開花という力を与えられていて、巫女に成ってしまっていた」



「巫女に成ってしまっていた? お姉さんは巫女に成りたくてなったわけじゃないの? 能力も身に着けようとしてじゃなく?」



「ああ。巫女っていうのは、生まれつき定まった役割らしくて」



「……? よくわかんない」



「ああ、ごめんごめん。僕もよくわかってないからね……。質問に答えてくれてありがとう」



 僕はそう言って、彼に手を振ってその場を後にする。



「おっと、お礼にこれをあげよう」



 ふと手に持っていたアルミ缶に気づいて、僕は彼のもとに戻って、開け方を教えながら、それを渡した。ついでに周りの子供たちにも2,3本上げてみた。全員分上げられないのが辛いところだ。



「口にあえばいいけど」



「へえこれ飲み物なんだ。飲み物を出す能力なんて聞いたことないや」



 そういった彼の表情に、いぶかしがる表情はもうなかった。切り替えが早い。

 とそこに、金属に反射した光に興味を持ったのか、一羽のカラスが舞い降りてきた。

 男の子がそれに向かって「ベル!」と嬉しそうな声をあげ、肩を貸した。そこがカラスの港だった。そのカラスはくちばしが異様に太く、上にでっぱりのようなものがあり、口先が曲がっているのが特徴的だった。



「そのカラスはベルっていうの? 友達?」



「ベルだよ。そう。友達さ。ぼくが外の世界に出てからずっと一緒」



 さて、カラスもまた、前世より長寿になっているのだろうか。聖草(せいそう)のようにサンに強化されて……。



 ルートビアを開けて、カラスと匂いを嗅いでいた。カラスの方はすぐに頭を缶から遠ざけた。香料の匂いが苦手なのだろうか。



「そういえば君の名は?」



「ヴァンパ」



 ふむ。

 それだけ聞いて僕は彼と別れた。振り返ってみれば、彼とカラスは周囲の仲間にやはり慕われているようだった。ワイワイ騒いで、また鬼ごっこにしゃれ込むようだった。

 僕は彼らを後にして、また聖樹の根元の特等席に戻ってくる。今度また彼と会ったらルートビアの感想を聞こう。もし好きならまた出してあげようと思った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


これは一週間ほど前の記憶だ。

……この少年の未来はどうであれ、村は崩壊する。アルファリオが言うことが本当かどうかわからないけれど、なぜか僕はそれを信じている。民が全滅することはないと祈る。彼が生きる道は、どこに繋がっているのか。ただそれを心配するほどの余裕は僕にはない。だって、僕もこの村から放擲される身になるのだ。


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