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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
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第37話 この村が終わりを迎えるからだ

2/13分はここまで

 そこから七日七晩横になって生活した。ご飯はたまにミネさんが届けてくれたものを食べた。そしてすぐ寝る。日にちの計算は、ミネさんと院長が、ふさぎ込んでいると思われている僕を心配する声が漏れ出たのを聞いていたところわかった数字だった。



 僕はその間も、夢うつつの状態だった。特に詳しく話せることはない。イメージの断片が現れては消えていく。それは、件の飲み会のことだったり、またマクドナルドで喧嘩するカップルだったり、元カノらしき影と遊びに行った幻覚のような記憶だった。



 うっすら思う。僕は、本当に彼女がいたらしい。そして何が不満か彼女と別れたのだ。

 そう思うと、次第に夢が覚め、僕は僕であることを、認めるかのように、現実に戻ってこれるような気がした。



 あたかも、僕は記憶を、自分の者だということを認めないことが、夢から覚めない原因だったかのような、反応だった。



 そうと分かれば、僕は、夢で起きたことは現実なのだ、と思いこむようにした。



 思いこむだけでは何か足りないのか、完全に現実感が戻るわけでもなく、ボーっとした状況が、七日の内、四日目以降続いていたが、次第に、寝床から起き上がろうという気が沸いてきた。



 存外、僕はきちんとテスェドさんの死にショックを覚えているのかもしれない、と思えたのも寝床から起き上がる気が出てからであった。



 そういえば、巫女として遠隔で民らに言葉を告げたときも、白昼夢の中ではあったが、活動していた。思い返すと、寝ずにいられなくなったのは、テスェドさんの死を、墓を確認することで、認めてからだった。



 僕は、他人に興味がないようなことを夢の中で思っていたようだったが、まだ完全に無感情になったわけではなかった。自分でも、無感情になった、とどや顔して言っていたら、中学生かな、とツッコミを入れたくなっていただろうから、少しほっとした。



 そうして、僕は夜に部屋を抜け出して、テスェドさんの墓をもう一度見に行くことにした。あの時は、今よりも自分の気持ちの変化に鈍感であるほどに、動転していたみたいであり、墓の様子を細かく眺めることも出来なかったからだ。



 僕が寝床から上がって、床をきしませると、瞑想していた男が首だけ曲げて、こちらにじろりと目線を投げてきた。



「気分はどうじゃ」



「ご心配かけたようですみません。少し休んだらよくなりました」



「ほっほ。七日を少しと言うか。わしと同じ感覚に小娘がなりよって。もう少しゆっくり生きなさい」



「ん? そうですね、夜道に気を付けて行ってきます」



 寝ぼけていたからか、なんだか僕は見当違いな返事をした気がしたけれど、院長は咎めることもなく、笑って僕をエレベーターまで目線で見送った。



 僕は聖樹を一階から抜け出した。長老院の者たちは院長に負けず劣らず瞑想にふけっており、彼らは壁に向いている者もいれば、仰向けで天井を向いていたり、倒立で微動だにしないものもいた。よく見てみればアクロバティックな瞑想をするものほど、肉体美があり、瞑想の方法は人それぞれなんだなあと、僕はあまり深く考えないことにした。



 僕の心は少し風通しが良くなった。七日間も引篭って淀んでいたものが、膿のように掻き出されたのかもしれない。



 すこし悩んでいたことが前進したような気がする。



 今もまだ、僕の中にぶらぶらと断片的なイメージは現れ消えてを繰り返している現実はあるのだけれども、それでも、僕は、テスェドさんの死を悲しめる人間だった、それだけで、何かが救われる気がした。



 感情がそこで生まれるか、生まれないか、というのは一種運命というか、感情が生まれない人には一生何をしてもわからない世界が、感情を持つ者には見えているのだ、という期待が僕にはある。



 言い換えると、とある人を見て、好きか嫌いか、と思えるか、何も感じないで記憶にとどめない人間の間には、その人が今まで培ってきた経験や記憶もさることながら、決定的に何か違うものがあると思う。



 記憶の中で、僕が彼女だったというらしい女性について、僕は何を考えていたのだろう。残念ながら、その人の顔をはっきり僕は思い出せない。記憶の断片は、元彼女というイメージの映像に靄をかけて僕に送り、しかし僕はその靄を元彼女だと確信しているのだ。精度の低い夢の中の書割だった。



 その彼女だとされている幻に思う僕の感情は、好意と忌避感であった。

 好ましく思う気持ちと、遠ざけたいという気持ちが反発して、僕はひどく疲れてしまう。

 こういう葛藤を思えることこそ、もしかすれば彼女のことをそれなりに認めていることでもあり、彼女からも僕が彼女に対してこういう思いを向けていい間柄として認められているという証拠である、という認識ができた。



 だからこそ、僕はいちど彼女とこういう関係を結んでしまったからこそ、彼女にこういった面倒な感情のわかない、全くの他人の関係であった頃を羨み、その頃の自分と、今の僕の何か決定的に異なってしまったものを見つけたいと思っている。



 生み出される夢とは別に、片手間で妄想を重ねていると、僕は気づけばテスェドさんの墓の前まで到着しているのだった。



 苔むした岩。川辺から運んできたのかと思わせる丸みの帯びた岩。ハンマーでたたいても割れなそうな、どこか安心感のある大きな岩がそこには一つだけある。



 「テスェドさん……」



 口に出すと何やら胸が熱くなる。

 自慢ではないけれど、僕は今まで、誰かと喧嘩したり、怒られたりしたこと以外で、泣いたことが無い。



 え、自慢じゃなくて、恥ずかし自慢? うっせ。涙腺がもろくなってないだけですうー。



 なら、喧嘩の時も泣くなって? だって本気で怒ってくる奴、怖いじゃん。



――『確かに』



――『納得すんのかよ』



 僕はよくわからないテンションのまま、墓を見つめる。手を合わせようかと思ったけれど、別に僕もテスェドさんも仏教徒ではないことを思い直して止めた。僕はみんながやることに逆張りする痛い青年から抜け出せないのである。



 その僕が、初めて泣いてもいいかな、と思える瞬間だった。涙とは、別に意志の許可がいるものではないけれど、この場面で泣くのを咎めるのは誰もいない、と自分に言い聞かせているようでもあった。



 少しして、僕は深呼吸してその場を後にしようとした。振り返ると、ある男と対面した。



「お前は、なぜこの村を去ろうとしなかった?」



 唐突な問いに僕は、面食らった。



「聞こえなかったか。村を去らなかった理由を問うている」



 僕は、ひどく神経に障る気持ちになった。それは、二度聞かれたことが煩わしかったからなのか、テスェドさんの墓の前で場違いな質問をするこの男に対してか、はたまた以前の因縁を思い出してか、それらのどれかによるものだったが、判然とはしなかった。



 気づけば、僕は走り出して、肩を振り上げていた。今までもやもやと思考を覆っていた幻覚のような夢の類は、沸騰する頭から抜け落ちた。



 僕は衝動に身を任せて、目の前の、つまり目の腐ったあの男に向けて拳を突き立てようとした。



「がっ――」



 その声は、僕が予想したあの男のうめき声ではなく、自分が背中から赤土にたたきつけられた際の声だと、数秒後にわかった。



 僕は彼に拳をいなされ、足をすくわれ、制圧されていた。



「落ち着け。別にお前を追い出そうというわけではない」



「ならなんで――! お前はテスェドさんの敵じゃなかったのか――!」



「ふむ……誤解があるようだ」



「なんだ? なんか言えよ! テスェドさんは死んだんだぞ。僕がテスェドさんのうそっやつに騙される心配ももうないわけだろ」



 それはかつてこの男が言った、僕に対する忠告からだった。テスェドはうそつきだ、だということ。



「……」



 彼は僕が暴れるのを、重心を捉えて制圧したまま、疲れて動けなくなるのを待っていたらしい。僕は動けなくなると、目だけで彼をにらみつけていた。しかしこの男もまた僕の視線に目をそらすことなく向き合ってきて、しまいには、僕が目をそらしてしまうのだった。



 その敗北感からか、ぽつりとこぼした言葉を僕はすんなり信じることができた。



「俺はテスェドの敵ではない。別に彼に敵対して、彼に心酔するお前の感情に水を差したわけではない」



「え、なんで? だまそうとしているのか」



 なんだろうか。初めて彼の言葉を、きちんと聞いた気がした。



「信じるも信じないも勝手だが、俺の役割はお前の監視だ」



 それは、やはり目の腐った男だった。いつも僕と同じ聖樹の中で僕の出入りを監視していた男。しかし、その当時僕が思っていた、何やら不気味なやつ、という感想とは異なる態度の男がここにいる。



「や、……じゃあなんであんたが今もまだ僕の監視を任されているんだ? 長老院からか」



「いや、テスェドから」



「は? もう彼はいない……」



「任務は最後まで遂行するものだ」



「……。そうですか。いままで僕の周りをうろついていたのは、テスェドさんからの指示だったわけだ」



「ああ。初対面の時に、俺のことが苦手そうだったから、メルセスを呼んで合間に挟まってもらったがな」



「ああ、だから彼女が僕の修行の指導係に」



「まあな」



 男は、珍しく僕と会話を続けた。やめる気はないらしい。彼は僕の上から立ち上がると、腕を引き立ち上がらせてくれ、そして近くの腰まであるようなサイズの岩に腰かけて、僕に隣に座る様に勧めてきた。僕は彼の指した岩より一回り小さく、少し離れたところに座った。彼の眉が不満そうに垂れた。



「というか、何気なく会話してるけど、あんた、忘れないからな。僕にテスェドさんを信じるな、って言っていたことを」



 口論の末、一方的にエレベーターから突き落としたことも思い出していた。

 この男は僕の目をじっくりと見つめてくる。今までにないほどに力強い瞳であり、僕が初めて見た時とは全くの別人に見える。



 その彼がゆったりと口を開いた。

「俺の名はアルファリオ……。お前を見守る様にテスェドから頼まれている」



 改めて彼は告げる。初めて聞く名に僕はただうなずいた。



「お前は、巫女として今この村に滞在しているけれど、本来ならば、巫女という責務を投げ出して、どこか別の町に逃げてほしかったというのが、俺の本音だ」



「はあ……?」



 思わずため息のような声が出た。



「だからお前には俺の言葉に従ってほしかったのだが、拒絶されてしまったからな。これ以上言ったら意固地になられると思って、もうその線はあきらめたんだよ」



 さっきは確認のために問うたことが、やはりお前を激情させてしまったからな。そういって頬をかいた。



「なぜ、僕がこの村を出なければいけなかった?」



「この村が終わりを迎えるからだ」



「は?」



「いや、言い方が悪かったな。別にお前がいなくとも、この村は終わる。ただ、そこに、きれいな終わり方でなくなるだろうという俺の予想があるだけだ」



「だから、なんで終わるって……村が崩壊すんのかよ。どうして……聖樹が一本折れたからか?」



「それはきっかけであり、もうそれは始まってしまった」



「村はどうして終わるんだ」



「それはすでに定まっていたことだからだ」



「だから……どうして定まっていたのか聞いている」



 僕は彼に幾度も質問を重ねたのだが、彼の言葉足らずさには呆れてしまった。これ以上ろくな内容が返ってくることはなかったのだ。



 彼の声色は、内容に反比例するように気の抜けた色であったため、僕は事の重大さを見落として、間の抜けた会話を続けた。



「はあ……。わかった。村が崩壊するとして、僕はどうすればいいんだよ」



「どうもこうもない。俺の目の届く範囲にいて、死ぬな。生きていさえすればそれでいい」



「それって……死ぬような危機が起こるってことか」



「ああ、危機が無くては村は崩壊しないだろう。その危機を生き延びてくれと言っている」



「わかりづらいわ。もっと順序だてて言ってくれ」



 そういって、語った内容は、やはりというか要領をえないものだったが、つまり、



「もう一度襲撃があって、それが村を壊滅させると」



「ああ」



「なぜそれがわかる、というかそこまでわかっていて、村を救おうとしない。お前の故郷だろ」



「……」彼は少し首を傾げた後、数瞬、戸惑ってからこう口に出した。



「俺が、この村に滅んでほしいと思っているからだ」



「は? ここの民はテスェドさんを除いて聖樹信仰者みたいなもんじゃなかったのか」



「皆、聖樹信仰……? それは勘違いだと思うが……いや、まあそうだな、俺が滅んでほしい、というのは少し語弊があるな。滅んでほしいと思っている奴がいて、そいつに協力してやってもいいかな、と思っているだけだ」



「うん? やけにその言い分だけは流暢だな」



「ああ、自分でも口下手なのはわかっている。ただ、この部分は俺の中で重要なんでな」



 彼はそう言って、うつむいたまま、何か独り言ちる様に、口を動かしていた。

僕は彼の様子を眺め、どうしてこの男と座って話しているんだろう、と再度考えた。結局よくわからない。



「で、襲撃が来たらどうすんだ? あんたは何もしないんだろうけど、僕はすくなくとも巫女として担ぎ出されそうなんだが」



「だから、何もしないさ。お前にかかる火の粉は振り払ってやろう。そういう契約をしている。だから堂々と前に出てくれ」



「いやなボディーガードだな! もっと護衛対象を隠せ!」



「俺に巫女を動かす権限はない」



「まあ……そりゃそうだろうよ……!」



 口下手だしな……。交渉も期待できないだろう。



「まあ、お前がメルセスと和解するならば、俺はもっとやりやすくなるんだがな」



「……それは気づいていたのか」



 鈍いのかよくわからない奴だ。



「お前のことはよくわからんが、メルセスのことはわかりやすいからな」



「あー……そうなのか? あの人わかりやすいのか?」



「わかりやすいだろう。お前もだから喧嘩したのだろう?」



「……。確かに、僕が深読みしすぎたのじゃないか、と思ったことまで彼女はくみ取って、こちらに対応してくるから、深読みをさらに深読みして考えていたことが、事実、彼女に伝わって現実になったかもしれない。普通の人なら、深読みは伝わらず、僕の妄想で終わるしな……」



「深読みがどうこう、はよくわからんが、あの人は人の斟酌をし過ぎる。その割に、自分の要求を通そうとするからな。人の気持ちがわかるなら、もっとうまくやればいいものを。どこかで気持ちを除くことに引け目を感じているんだろう。根は素直なんだ。純粋な子供は悪さをして罪悪感を抱えたとき、表面的に開き直った風に露悪的になるけれど、いつまでも罪悪感を引きずるものだ。それと同じだ」



「ふむ……」



 僕はよくしゃべるようになったこの男を眺めた。この男も彼女と喧嘩したことがあるのだろう。それも、僕なんかがするより回数と質も大きな奴を。

 そこには、それでも立ち直る関係性の太さが見て取れた。



「僕も彼女とまた話せるようになるかな?」



「ああ。あの人は子供だ。だから、水に流してくれるさ」



「いや、僕も結構嫌なこと言われてたんだけど」



「じゃあ、お前も水に流せよ」



「それは彼女次第だ」



「面倒だな。俺の仕事のために折れてくれ」



「やだよ。なんでお前のために彼女と和解すんだよ」



「じゃあ和解しなくていいから、メルセスに守られてくれ」



「絶対嫌だ。あの人嫌なこと我慢できないタイプだろうし、わざと守りを甘くして僕に嫌がらせしてくるよ」



「うるさいな」



「ここぞとばかりに、テンポよくしゃべるな。もっと口下手でいろよ」



「ん? いつもこれくらいテンポがいいだろう」



「お前の世界のメトロノームは一定じゃないんだな」



「めとろのーむ?」



「ああ、いやなんでもない、ちょっと昔の話で」



「ああ、音楽家が使うリズムをとるものだな」



「この世界にも実在するのかよ!」



「隣の国にあったぞ?」



「すげー発展してんな!」



 かたやアコンの村は高床式住居だぞ? せめてコンクリ技術とかを輸入してくれ院長!



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