第23話 巫女ノ為ノ女性的ナ指導
2/8分はあと2話投稿します。
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少し、胃がもたれた感覚がするけど、立って活動することができるようになった。
そうなってから、僕のもとに、二人の女性が派遣されることになった。
「今日からよろしくね、ユキちゃん」
「その呼び方は……止めてくれ」
一人はユージェ。もう一人は見知らぬ女性だった。
「ふうん。巫女様ね。ガサツなのね」
その女性は、寝床に胡坐をかいている僕を見て漏らした。
「すみません、あんまり女性らしくってのは慣れていないんですよ」
「まあまあ、ミネさん、私たちがこれから見れるように仕立てていくでしょ」とユージェ。
「はあ、巫女様の世話役なんて光栄な役目を仰せつかったと思ったのに。かなりハードなことにならないといいけど」
「負担にならないよう努力します……」
僕の世話役、というか振舞いの指導役にこの二人が選ばれたのだった。ユージェは、僕とすでにそれなりに仲がいいからという理由で選ばれ、もう片方の彼女は、ミネ。単純に聖樹に上納する物品・労働が足りないという周囲の批判があったために、聖樹の権威に直につながる巫女の教育係というものに立候補したということだった。
彼女が言うには、実は、
「私って、他の人よりグラマラスだから、ねたまれちゃうのよねえ。毎日聖樹にお祈りして、おいしくご飯食べて生きているだけなのに」
彼女の目は大まじめだった。彼女は少しだけ……豊満な女性だった。
「はあお腹すいたわ。聖樹の中なんて、めったに来るところじゃないから緊張しっぱなしだったけど、案外入ってみると大したことないわね」
堂々とした振る舞いだった。
彼女の生活を知らないから、何とも言えない。けれど周囲の人は彼女と意見を対立させているのだろう。彼女のことをねたんでいるかどうかはさておき、彼女が巫女の教育係という職に就くことで、周囲は何かしら得になることがあるのだろう。そのことが、本当に彼女をねたんで面倒な仕事を押し付けたということなのか、それとも彼女のためを思って立派な仕事を斡旋したのか。詳細なことはわからないけれど、第一印象としてわかることは、僕はこの人の言う振る舞いを覚えて立派な巫女の振る舞いを覚えられるか不安ということだ。
でも、やる必要がある。というのも、7日後に僕が巫女として、民衆の前で挨拶をしなければいけないと長老院に決められたからだった。
聖樹の声と流行り病について、逆境を変えるには新たな道しるべが存在感を見せつけなければいけない、とミネさんが長老院より聞いた話を聞かせてくれた。
「じゃあ、今日からあんたのことを、マシなふるまいをした巫女様に仕立てて行けばいいのね」
すでに僕のことは「あんた」呼びらしい。いや僕自身、別になんの呼ばれ方でもいいのだが、仮にも初対面の、巫女とされるものを相手に立派な態度だ。その振る舞いは、堂に入っていて見習いたいくらいのものだった。
どんな状況でも自らの振る舞いを突き通すということで言えば、この女性から学べることは多いのかもしれない。
僕は起き上がり、二人と同じ、タンクトップと短パンのような、薄っぺらいインナー姿に着替えて、準備を終えた。そうしてから、彼女たちの後について歩く。
部屋の中を一周した。
これはユージェとミネさんからの指令だ。なんでも、立ち振る舞いの基本は立って歩くことだから、まずその点の至らなさを改善させるために、何が問題か見るためだという。
「あんた、生えてきたばかりだからって、前世では何してたのよ。男みたいな」
「えー、まあ。男として生活してたんですけど」
「え、そっち系なの。そういえば前世は人間だったっけ。そういえば最近はジェンダーレスとかいうらしいし……」
「いやいやミネさん、今はジェンダーレスだけど、昔は男だったらしいから」
「あら、もともと男だったの。それなら仕方ないわね」
「は、はあ」
「あんた、私の歩き方をみなさい。男風情が。もっと優雅に歩くのよ」
男風情……、なんだかよくわからないけど圧が強い。
ミネさんは、一歩ずつ歩き出した。僕に見せるためか、普段の歩行よりはるかにゆったりした歩みであった。そこには、体幹が通った姿があった。意外にも、豊満な身体には思えない、無駄のない動きがあった。肩と腰と太ももの動きが連動し、お腹と骨盤のねじれがわざとらしくなく、控えめに見えるが確実に、足を無駄なく進める力を生み出している。
肩の動作が肩甲骨のあたりを波立たせ、腹部に伝わり、骨盤にねじれを生ませる。そのうえで、少し遅れて、股関節、大腿四頭筋、ハムストリングスへと、それぞれの筋肉に力の波が伝わっていき、自然な一歩を作った。
「どう? あんたの、意識していない蟹股や、わざと女らしくしようと見栄を張った内またなんて、無様の一言といえるでしょ。私の振る舞いを見習いなさい」
決め顔だった。すこし眉間にしわが寄っていた。
だぶついた二重顎をあげ、見下したような目線を送る。少し顎の空間に余裕を持たせたので二重顎のラインが消え、シャープになった。彼女のベストな画角はここだろうな、とか意味のないことを考えていた。
「ほら、目に焼き付いているうちに、早く歩きなさい。ユージェ、あんたもそばで歩いて見せて、見本になりなさいな。ユージェの歩き方は私に負けるけど、あんたからしたら学べることはたくさんあるわ」
「は、はあ」
僕が言われるがまま、立って、部屋をぐるぐる歩き出した。ユージェが二歩前を歩き、僕は彼女の後姿を見て、歩く。
僕は、彼女の後ろを歩きながら、なぜこんなことをしているのか、自問自答した。巫女には見た目が必要なのだろうか。……必要なのだろうな。聖樹の声を伝える者の貫禄というのは大事なのだろう。それはわかる。多分。先代巫女は、女性として違和感なく堂々とした振る舞いができ、さらに、誰よりも年長者という年の功が、情報を受け取るものに対して言葉の厚みを増す効果を生んでいたのだろう。おそらく。
一方僕は、男臭くガサツで、巫女としては頼りない振る舞いしかできないし、若者で、貫禄とは程遠いだろう。それを少しでもましにするために、見た目の性別に準じた自然な振る舞いをすることで、みすぼらしさは軽減することになる。振る舞いを洗練させることは、見る人の印象にこの人はしっかりした人だという信頼を与えるだろう。もしかすると、現代でいう、いわば宣伝にイメージの良いタレントを起用するというようなもので、凛とした振る舞いをする巫女を用意することで、その言動を人々が受け入れやすくしようという働きがあるのだろうと勝手に考えていた。
「はい、やめ」
その声に僕とユージェは歩みを止める。
僕は発汗していることを自覚した。ユージェは涼しい顔だった。
そしてなぜかミネさんも汗をかいている。座っていただけなのに。
「うーん。最初の歩きよりはましになったけど、まだよちよち歩きね。そもそも身体が硬いわ、今から、三人で柔軟体操をするわよ」
「はい」
ほら、二人は組になって。という彼女の声でユージェと一緒に、柔軟を始める。
屈伸から始まって、下半身を伸ばす準備体操から、のけぞったり、腰をねじったり、肩甲骨のストレッチをしたり。そういった運動から、次に長座体前屈や、座って足の裏を合わせた胡坐をかいて、組になった人に胡坐の膝を地面につくように抑えてもらう、股関節の柔軟など。
ミネさんのアドバイスを聞きながら関節のストレッチをしていった。
「関節の柔らかさは一日じゃどうにもならないわ。継続よ継続」
体型からは信用に置けない言葉が出た。いやこれは偏見なのだろう。あまり彼女の体系を揶揄することは控えようと思った。そう思うほど、コーチがしっかりしており、第一印象の、不信が消えていたからだった。
そしてコーチをする彼女の柔軟性は素晴らしかったのもある。本来邪魔する脂肪は彼女の行動を邪魔しないように自ら変形しているかのようだった。地面に座って上半身を倒せば、身体が腰から折れたかのように平らにべたっと尽くし、立って足をあげれば、Y字バランスを難なくとっていた。そこまでできてなぜその体型なのだろうと、疑問に思うほどである。
「だから、ちょっとおいしいものを食べすぎちゃっただけなのよ」
と僕の視線に気づいたのか、彼女は言う。そこには恥じらいというものはなく、当然のことと言わんばかりだった。
「さすがですね、ミネさん。いつも運動しているんですか」
とユージェが聞く。
「いや? 部屋の中でごろごろしているだけね」
「ごろごろしているだけ……」
「立って移動するの面倒くさい時、体ねじって物を取ろうとしたり、足を伸ばして開いていた扉閉めたりしてたら、自然と柔らかくなっていたわね」
やっぱりこの人に立ち振る舞い教わるの不安なんだけど。
とまあ、僕自身なぜ女性の振る舞を教わるのか、実は不服なまま、それでも頼まれたことはやっておこうと思って、彼女らの二人の指導に従い運動した。
柔軟が一通り終わったら、ミネさんが言った。
「この柔軟で、覚えているところを、毎晩やりなさいな。やりたいのだけやればいいよ。でも、全部やらないのはだめ」
「全部やらなくちゃダメなんじゃないんですか」
「全部なんて、毎回やろうとしたらめんどくさいじゃない。それくらいわかるわよ。気分が乗らないことの方が多いでしょ」
「はあ」
「だから覚えていて、自分が気に入った柔軟でいいわ。とにかく継続なさい」
「はい」
まあ、どれか少なくとも一つやればいいのかと思えば気楽だなとは感じる。
「それと、言葉遣いを、正す練習だけしておきましょうか」
「言葉遣い……」
ミネさんは、僕とユージェを呼び、端に寄せていた大小の木箱を部屋の中央にもってきて、三人で突き合わせて座った。
「別に、そう変な演技をさせるわけじゃないわ。生まれつきの癖を強制するのは、必ず気の抜けたときにぼろがでるもの。最初に考えるべきは、絶対にぼろが出るという前提で、言葉が崩れたときに、いかにダメージが少ないか、という状況にもっていくかよ」
7日後の演説は大切だけど、それ以降もあなたは巫女だからね、と釘を刺された。継続しろということらしい。
「え、っとそれは、つまり、『~かしら』とかに全然言い直さなくていいわけですか」
「そうね。あなたがそういう言葉遣いに変えたいなら、やってみればいいんじゃない。付き合ってあげるわよ。ユージェが」
「あたしかよ。面倒だから却下しますね」
「まあ、それは後で考えるとして、一番ぼろが出ないようには、できるだけ丁寧な言葉遣いを意識するしかないわ」
「はあ、まあ、そうですね」
「返事は『はい』ね」
「はい」
「うんうん。それくらいなら、別に粗雑な印象はないし。そういう感じでやってちょうだいな」
「わかりました」
これならば、別に何も変える必要もなさそうだった。やることが少ないというのは、ストレスが無くて、余裕に繋がってありがたい。
「でもそれなら、今のまま、言葉遣いを治す必要なんてないじゃないですか。わざわざ話し合うほどのことでもないですよ」
「あんたねえ、確認の作業もせずに、お披露目の舞台に出すなんてできるわけないじゃないの。一応教育係として責任があるのよ」
「お披露目? 舞台? なんですか?」
「あんたが寝込んでいた二日間の内に、外部の勢力が、村に何らかの影響を与えようとしている。しかもそれについて、巫女のあんたが聖樹から言葉をもらっているのよ。最初に言ったじゃない。そのことについて、巫女の力を信じ始めている民たちに、姿を見せ、鼓舞するのが責務の一つだって」
「それで……もしかして、民の前に立って演説するとか」
僕は、たぶんひきつった顔になっていたと思う。その表情を見たミネさんが、意地悪に笑ったような気がした。
「せいか~い。どう鼓舞するかまで、言ってなかったわね。でもま、新しい役職についたら、みなの前で挨拶するのは当然でしょ」
「ええ……」
そういうのは、早めにいってほしい。
ああ、だから見栄えを良くしようとしていたのか。
僕は、付け焼刃だと思って不服に感じていたこれまでの指導に対する考えを、付け焼刃でいいから覚えなければという意識に変えたのだった。
TSものにありがちな指導。伝統ですね。




