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【完結済み】チートもハーレムも大嫌いだ。  作者: 多中とか
本章 異世界にて、惑う
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第7話 おいしいなんていっとらんわ

2/1分はこれまで。

「おまたせ。じゃ、こんどこそ服と体の洗濯に行きましょうか。お風呂なんて大層なものはないけどね」



 戻ってくるなり、お姉さんは、はいこれ、と僕に衣類を抱えさせる。その直後、視点の位置が高くなったかと思と、彼女は僕をお姫様抱っこししていた。



 ……え???



 僕が彼女の唐突な行動に目を瞬かせる。



「捕まってなさい。舌噛まないようにお口を閉じておくこと」

 


 うんうん、と何が何だかわからないけどうなづいた。 



 え、やだ、すごーい……!お姉さんの横顔かっこいい。

 抱き上げられると顔って近くなるんだなあ。



 そんな風にぼーっとして、赤面していると、彼女はエレベーターの穴から、ツタに捕まることなく飛び降りた。



 え、やだ、すごーい……。

 身体と顔色が急転直下した。





「いやあごめんごめん。あのゆったり上下するの好きじゃないんだよね。下りる時は一気に下りたいんだよ」



「それなら断りを入れてからにしてください……」



 お姉さんが一階に着地してから、僕が床におろされると、僕は一人でたてなくなっていた。多分、10メートル以上の高さを落下した。滞空時間がとても長く感じたのは気のせいか。恐ろしかった。もし彼女が手を滑らせたら、着地の衝撃を吸収し損ねたらと思うと、僕は生きた心地がしないのだった。



「大丈夫よ。絶対手を離さないわ」



「違う場面で聞きたいセリフだった」

 しかも言われる側なのね。とほほ。



「ついたわよ」



聖樹から離れ、畑を抜けた所に川があった。赤土質の土手をおり、石混じりの砂利が覆う川辺でお姉さんは僕をおろした。恥ずかしながら、腰が抜けてここまで米俵を担がれるように僕は肩に乗せられていた。



 お姫様抱っこじゃないんかって? 肩に乗せた方が腕が楽、とのことだ。



 ただの荷物扱いだった。



「確かにお荷物だけどね!」



「何ひとりで遊んでんの。はやく体洗っちゃいなさいよ」



「はーい」



 僕は抱えていた替えの衣類を置く。なるべく水気のない石の上に気をつけて置く。そして服を脱ぎだした。脱いだ服は川辺近くにおいて、流されないように大きめの石を乗せて置いておく。身体を洗ったら、服を洗おうと思う。そうして川に入った。



「気持ちいい~」



 夕暮れ。薄暮。暮れた日に木々の隙間がうっすら光る。視界が閉ざされ始めた時刻。水面は揺らめく。夕の光を僅かばかり反射する様子は、子供が遊んでいるみたいで可愛い。



 暗がりとはいえ、それなりに気温が高い地域だからか、水温が低すぎることもなかった。

流れが急でない場所。腰まで浸かる深さがある。水流は穏やかで、流される心配はなかった。僕は水面を叩きながら、腕で水温と空気の温度を交互に感じた。



 振り返ると、土手の下からは角度の問題で、村の畑や小屋は見えなかった。村の中にいたときには、大きめの川が流れているなんてわからない。死角になっていた。



 土手の高さを眺めていると、お姉さんが全裸で川に入ってきているのを見て、思わず顔をそむけた。



「なんで恥ずかしがってんの」



「恥ずかしがってないです。というかなんで入ってくるんですか」



「女同士へるもんじゃなし~。汗臭いあんたを抱えてきたんだ。洗いたくもなるさ。っと、お?」



 後ろで変な声を挙げるお姉さん。どうしたんだろう。僕は全然心当たりがない。



「あんた、女の友達いたことないの?」



「え、何でですか」



 やばい童貞だとバレた。いや、そういうことじゃないか。



「ふーん。あんた、実は男だったりしない?」



「は? え?」



「まじかよ! お姉さんにちょっとついてるもんみせてみろ」

 と、いって僕は後ろから抱きつかれ、あるはずも無い宝を、盗賊に漁られる墓場の気持ちを知った。



「やめて~」



「おりゃりゃりゃ、ってありゃ、無いじゃん。男っていうのはうそかよ……? いや、おかしいな」

 と考え事をしながらも手を止めない姉御。腕輪の角がこすれて少し痛かった。



「あの、もむのやめません?」



「薄いからこそ、そこにある貴重な弾力を確かめずにはいられない」



「あの、きちんと会話してくれませんか」



「してるじゃん。君の胸について一緒に語ろうではないか」



「いいかげんにしろ! こちとら特に欲しくもない胸なんだぞ! つうかもらえるなら巨乳で自分で揉みしだけるくらいがよかったわ!」



「こらこらいかんぞ、そんな小さいのはダメ、大きいのが正義みたいなことをいうんじゃない」



「ならお姉さんのをかして……ぎゃ!」



「反撃しようなんていい度胸ね。あとお姉さんじゃなくてメルセスさんとお呼び」



 振り向いてメルセスさんのをつかもうとしたら、その腕を捕まれて、ひねり上げられ、身動きを封じられた。



「いまから従順に質問に答えること! さもなくばあたいの舌があんたの上か下をなめつくすことになるよ」



「いやです!」



「なに! 逆らおうってか!」



「いや! そっちのことが嫌なんじゃないです! おそわないで!」



「ならどうしたたらいいかわかってんだろうな!」



 怖い。顔が近い。なんかいいにおいするんだけど。やめてやっぱ怖い。感情読まないで。



「ほ~ら~、まずはうえか~」



 なんだか、胸元に彼女の髪の毛が撫でてくすぐった。

 僕は思わず、彼女が行為をエスカレートさせた後の光景を想像して、恥ずかしさに赤面したり、カッコいいお姉さんに弄ばれることにちょっと期待したり、期待する自分に気持ち悪くなったり、襲われてやり返せない無力さに絶望したり、卑屈になったり、感情がごちゃ混ぜになり、その起伏を収めるために、彼女の言葉に従うほかなかった。



「すみません従います許してください」



 僕はそうして洗いざらいしゃべった。留め具の壊れた財布から有り金が転がり出るように、情報を吐き出してしまう行為に、情報自体は惜しくないのだけれど、惜しさと後悔を感じ、僕はお腹のあたりがじくじくいたくなった。



 僕は彼女から締め上げから開放された。



「ふーん。男から生まれ変わったねえ」



 でも、僕は彼女に後ろから抱きしめられていた。あの、背中になんかやわらかい感触があってすごく恥ずかしいんですけど。



 ともかく、僕が吐いた情報は三つ。



 元男ということ。

 アルミ缶の力。

 世話されているテスェドさんの様子。



 この三つの内、なにやら、テスェドさんのことを話すときは彼女の声色が暗い何かを帯びたけれど、僕にはよくわからなかった。



「ちょっと力使ってみなさいよ」



「はい」



 そういって出したルートビアを、彼女は僕に開けさせ、飲んだ。



「ふーん。悪くない味ね」



「おいしいですよね!」



 彼女は僕のことを見定めているようだった。そんな一瞬の間が空いた。



「えっと?」



「……おいしいなんていっとらんわ」



「いてっ」



 なんでか頭をひっぱたかれた。



「飲めるけど、好んで飲もうとは思わないわね」



「それって悪いってことじゃあ」



「苦手ってだけよ。現にあなたが好きな味なら、私の感想なんてどうだっていいでしょ」



 頭をポンポンとされながら言われた。



 なんだかすごいさばさばしてる。かっこいい。



 やはり同じ好みをする人は少ないかぁ。まあ、日本でいたころ友達も5人に一人くらいしか好きだって言わなかったし。まだこの世界に来て味わってもらったのも二人だから、後三人くらいためしてもらったら

誰かが好きというだろう。多分。



「そういえば、お姉さんは感情の色がわかるって能力なんですよね」



「メルセスとよびな。能力はそうよ」



「メルセスさんは、何か能力を使うために材料みたいなのを必要とするんですか? 僕はこのアルミ缶をつくりだすのが、限界になるとすごく虚脱感に襲われるんですが」



「材料って、テスェドなら植物を出すのにゴミが必要ってことのことよね?」



 テスェドさんの能力は多くの人が知っていることなのだろうか。それともメルセスさんと仲が良いのだろうか。僕はテスェドさんの様子について自白した時、彼の能力までは話していなかった。



「私の能力は、材料というか代償があるわね。普通の人が当然できることが、私にはできない。ヒントだけ教えておくわ」



「代償、って場合もあるんですか」



 人の感情を知れる代わりに、何か当たり前のことが禁止される、ってことか。場合によっては感情を知るメリットよりも致命的な欠点を背負っているのかもしれないな。



「ま、そこまで悲惨なハンデをおってるわけじゃないわよ」



 メルセスさんが悲惨と思わないハンデでも僕にとっては致命的かもしれない、そんな風に彼女の強さを感じている。



「あと、あなたの虚脱感っていうのは、材料でも代償とも言えない程度のことね。私たちはサンってものを持っているのよ。そのサンが欠乏すれば虚脱感を感じる」



「サン?」

 僕はおもわず首だけ振り向いた。



「あら、まだ教えられてなかったのね。あのジジイもったいぶりやがって」

 と彼女は僕のほっぺたに指をつきさす。痛い。



「サンっていうのは、聖樹の持つ能力のことですか」

 指がほっぺたを抑えていて、ちょっと発音がこもった。



「へえ、聖樹の持つ能力なんていう風に教えたのね。ずいぶん回りくどい」



「回りくどい?」



「聖樹の持つ能力、そしてそれを私たちアコンの住人が利用している、なんていう風に考えたらだめよ。現にあなたはアコンの住人として認められる前からその力を使えた風なのにね」



 確かに。この村に来る前から使えた。



 おじいさんは嘘をついたのだろうか



「サンっていうのは、私たちに流れる第二の血液よ。もちろんそれは聖樹にも流れる血潮。別に聖樹が特別で、人々が聖樹無くては能力が使えない、というわけではないわ」



 ただね、と彼女は続ける。



「聖樹が私たちに能力のきっかけと能力の骨格を与えてくれるのは確か。そういう意味で聖樹の力を利用しているというのは正解ね」



「それはどういう」



「私たちの力は聖樹に与えられた物。もっと詳しく言えば、聖樹の膨大なサンの気配が、私たちの身体にしみ込んで、気が付いたら能力を発生させていたというわけ」



「そういえばテスェドさんは、能力を持つ人は夢を見たといっていました」



「そうね。夢はその人の欲求を表すみたいだから聖樹のサンが、人々の最も欲しいものやしたいことを、現実にしてくれている、なんて考える人も多いわね」



 そういった彼女は自分で言ったことを信じていないかのような、つまらなそうな表情をしていた。



「だからね、あなたが力を使って疲れるのは、サンが消費されているから。これは身体を動かして消費する体力に似ているわね」



「じゃあ、メルセスさんもサンを消費されているんですか?」



「そうね。わずかだけだけど。私のはもともと燃費がいいのよ」



 なるほど。だれしも自分の中のサンというエネルギーを消費しているのか。

 じゃあ、僕の能力を使える量が増えたのも、サンが増量したのだろうな。



 彼女は僕の背中を押すと、ちゃっちゃと服洗って、上がりなさいよといって、先に上がれと急かしてくる。 

 何か考え事をしているようだった。



 「じゃあ、お先に」



 そういって、陸まで行き石で止めていた衣類をとって、川の浅瀬でじゃぶじゃぶ洗った。あんまりすると赤土が泥状にまい上がるかと思ったけど、おもったほど川は濁ることなく、服をきれいにできた。塗れた服を絞ったり、水に浸したりを繰り返すことで汚れをそれなりに落としてから、川から出て、替えの服のところまで上がった。



 替えの服と一緒に渡してもらった小さな布切れで水をふき取る。

 そして服を着ようとした時、脱いでいた靴をはこうとして中を見ると、紙が入っていることに気づいた。川に入る以前には気づかなかったものだ。この紙がいつ入れられたかは、わからない。この場にところてんの手下が潜り込んでいると考えるとちょっとした恐怖だ。相手は僕に干渉ができる。僕はあいつに何もできないというのに。でもそんな懸念が吹き飛ぶほどに、僕の視覚にはふざけた文面が叩きつけられるのだった。



『君の願いは叶えたよ♡ ルートビアが飲みたい、のと、運命の人以外と結ばれない約束、そして運命の人と必ず会えるっていうオプションについてはそのうちわかる!!!! 乞うご期待! 

 あとごめ~ん☆、ノリで女の子にしてみた♪ そのまま女の子の身体に精神が引っ張られていくと、運命の相手も変化するね。もし君が根っからの異性愛者なら、そのうち運命の相手は男性になるかもね』



 と書いてあった。



下の方に小さく、PS:男になりたいなら、ルートビアを創り出す能力を極めたら、無から物質を創り出すんだ、女性が男性になることも可能かもね。



 などと書かれている。



 ぐしゃ。気づくと紙を握りしめている自分がいた。

意味が分からないが、この手紙を書いた奴はところてんのほかない。そしてところてんは僕にルートビアの能力、つまりはサンの扱いを習熟しろと言っている。



そんな気がする。



少なくとも、僕は女の子と付き合いたい。そして同性愛を否定するつもりはないが、男の僕が女性を追い求めるのと、女の僕が男性をもとめるのには、どちらも等しく違和感がなくなってきている気がする。

僕は異性愛者であり、その形式にこだわりを無意識に感じている。これは理屈ではなく愛着だ。だからこそ、僕は頭で同性愛でもいいだろうといえども、無意識の発想が異性愛のモデルになってしまっている。

これを解決するには無意識の構造を変えるか、諦めるしかない。

諦めて女の僕が男性を求めるのを許容するか、どうにか男に戻って女性をもとめる形式に戻す必要がある。



 僕はサンの扱いを極めなくてはならないと感じた。ただただ、そう思った。それだけだった。



 いやうそ。

 こんどあったらあのところてん。三枚におろして葛切りにしてやる。



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