Chapter2.説明
駅まで10分たらずのこの道のちょうど中間地点、
陸橋に差し掛かったところで山崎は強い光に包まれた。
「うわっ、何の車だ?」
陸橋下を走る車のビームライトが目に入ったのだと思った。
光は車の大きさを超えて自分を包み、これはただならぬものだと感じたものの、
一瞬清掃車などの特別車両か何かだろうと思いながら、
光のほうを見て何か正体なのかを見極めようとした。
それは、自分が陸橋の上におり、下に何の車両が走っていようが
自分が事故に巻き込まれることは無いという安心感からだった。
しかし光は次第に大きくなって行き、さらに自分を包んだ。
「工事か何かの光かな、今しがた光をつけ始めたから調整がついてないんだ。」
そう思ったが、これじゃ車両が事故を起こすぞとも思い、その時、
「あなた良い人ですね。」
誰かにそう言われたような、心の中で自分の気持ちに言われたような気がして
自分のやさしさに嫌気がさした。
それよりも目の前の工事中の光の中から妙な機械音が聞こえ始めた。
ゴォーでもなく、キーンでもなく、ヒューンでもない。
表現のしようもない人工音。強いて言えば空港で飛行機の離着陸するような感じだ。
「なんだろ、川崎は飛行場でも作る気か?全くわけわからんぜ川崎のすることは。」
山崎はそう思いながら、もういいや、駅に向かおうと思い、光の出口を探し始めた。
「あなたが適当だと思ったからですよ。」
「つまり、あなたが代表です。受けてくれますか?」
目の前に銀髪の女性がおり、周りはおしゃれな診療所のカウンセリングルームで
そのように質問をされていた。
それは“時系列”で言えば、次の瞬間と言うべきか。
銀髪の女性は評するなら欧米人のモデルにしか見えないルックスであったが、
この世のものではないことを直感が理解していた。
そして、山崎はその質問にここで答えなくてはならないことをもその時理解していた。
そう、彼らには時系列も場所も説明も手順も過程も、そもそも必要が無いのだ。
自分はその答えを“彼女”らに渡すだけ。
「戦わなくてはならないのですね。。受けます。人類を代表して。」
山崎は、決意も熱意もなく、その勇ましい返答をした。
それは運命すら操られているかのように。
Chapter2.説明
山崎は面接を受けていた。いや、仕事の面接ではなく同じく真白異空間での
カウンセリングルームのようなところではあったが、周りを地球で言う所の
爬虫類?サバンナの獣?のような容姿の異形の者たちに囲まれてのものだ。
「説明しないとならないですね、地球人たちに。」山崎はそう言うと
面接官は
「地球人?」
そう理解に苦しむような顔をしながら
「ああ、人間ね。。」
そう言った。
山崎は不思議とここでは緊張していなかった。
それは日本で自分が受けていた、仕事の面接のようなものだったから笑ってしまうほどでSPIの試験が無いだけ、むしろ緊張を強いられることが無いようなものだった。
「まぁ命は安全なようにします。一応競技なんで。」
カエルみたいな風体の面接官がそういった。山崎は心の中でカエル先輩と名付けていた。
「わかりました。では少しだけ地球人に説明させてください。」
山崎がそういうと、異形の面々の面接官たちはまぁいいでしょう、どうぞ、とうなずいて見せた。
「ありがとうございます。」
自分は礼儀正しい日本人だ、という自負心から山崎は丁寧に礼を述べた。
「よかった。つまり、彼らは私たち日本人、、ではなく、地球人とはそもそも生きる次元が違うというか。。現れる場所も自由、コミュニケーションも脳に、心に直接真実を流し込むので
“説得”のようなことが無いようです。」
「私は地球人代表として選ばれてしまった。。全くのランダムではありましたが、
私の心を覗いたときに適格者“と思ったようです。そして私が仕事から帰るときに…
わかりやすく言えば“アブダクション”されたようです。」
山崎はそのように説明して見せた。
それは、なんとその場から地球人類すべての人間の心に直接注ぎ込んでいる言葉であった。
地球人類すべてはその瞬間山崎からその言葉を受け取っていた。
それは郵便受けに大量に入っていて、読んでもいないが届けられている広告のように
無意識に、だが確実にすべての人間に届いていて、その了承を得ようとしていた。
山崎こそが全人類の代表であるということの了承の、だ。
「事の経緯を説明します。アブダクションされた後、技術的にはわかりませんが
私は銀髪の美女に説明を受けるために場所を移動されました。
そこで私は“宇宙のトーナメント”に人類の代表として出場することになりますと言う
説明を受けた。突拍子もない話ですが、正直何かの手術でもされてから地上に戻されると
思っていたので意外でした。
つまりこういうことのようです、“人類”の種の代表として戦う場合、
特殊に戦闘能力の高い個体、特別に知能の高い個体では、
“人類”の平均的戦闘能力を図るという意味で適切ではないということらしいです。」
山崎は事のすべてを銀髪の女性のカウンセリングのようなものを受けた時に理解していた。
それは心地よい情報が頭の中に流れ込んでくるような感覚で、
人間が説明するようなものではなかったので、人類への事の経緯は自分が説明するしかないと
思っていた。
そして、その情報(説明)には敵意が無いと本能的に分かったので、協力する気になった。
「銀河を代表して戦います!」と答えていたのだ。全くお調子者であった。
「いや、銀河代表と言うわけではないのですが…。」彼女は笑いをこらえながら
思わず言葉で答えてしまった。よほどその答えが面白かったのだろう。
「この時間も空間も場所ももはや関係ない場所で、どこで闘う?とかいうのが
ナンセンスかもしれないんですけど、何か競技場で闘うみたいです。
人間である僕の希望を受けてくれる(ルールで)みたいで…素手でタイマンという
事にしてもらいます。」
山崎は勇ましく説明して見せたが、山崎はヤンキーでもないので、タイマンなど
したこともなし、人を殴ったことも1度しかなかった。
中1のとき体育でふざけが過ぎた同級生の山寺を、一発殴ってTKOしたことだ。
それが彼の一番の武勇伝であった。
その点からも山崎は「自分はケンカ無敗だから結構強い方だぞ。」という
とても都合の良い勘違いがあった。
「まぁいいでしょう。彼で。なぁ?」カエル先輩が周りのメンバーに問いかけているとき
山崎はまだ人類への説明をしていた。
おそらくこれが人類への自分からの最後のメッセージになると思っていたので
(そんなチャンスはめったにないのだが)
「えぇ―と、ええーとほかに何か言い残したことはないか」と思いながら、説明を続けた。
「とにかくですね、自分が代表として闘ってきますので了承願います。絶対勝ちます!
いや、優勝あるのみです!」
山崎はそういうと、部屋いっぱいにAccepted というメッセージと、たくさんの人間の顔が表示された。「FaceBookみたいなものですかね。“いいねボタン”みたいな。」
「まぁそんなようなものです。」キリン先輩が答えた。
つまり、すべての人類に承認をいただく必要があったのだが、それは無意識レベルで
山崎のメッセージに人間が“了承した”というメッセージをこの宇宙船へ向けて返した、
という事のようだ。
つまり彼らのテクノロジーは、携帯電話とかインターネットとかそういう次元のものではないということだ。
Accepted と言うメッセージのほかに“どうでもいい”、“任せる”、“リラックスして”
のようなメッセージも見受けられた。主に日本語だった。