008:母と子
俺たちは、フィリスの家に到着した。
家の中では、フィリスがそわそわした様子で、帰りを待っていた。
「お母様!」
フィリスを発見して、ユリアは嬉しそうに駆け寄った。
「ユリア……無事だったのね」
「はい! アレクさんが助けてくれましたから!」
フィリスは、ユリアを慈しむように抱きしめた。
一転、フィリスは俺に対して向き直り、厳しい表情を浮かべた。
「アレクさん、無垢なウチの子を騙して、迷子になった弱みに付け込んでテイムするような非道な真似をして、よくぞ、堂々と私の前に顔を出せましたね? その度胸だけは褒めてあげましょう」
「……え? どういうことだ? 俺は『テイムしてはいけない』なんて聞いてないぞ?」
「そんなもの、常識的に考えれば分かるでしょう! 子どもをテイムされて連れ去られて、怒らないはずがありません!」
俺は改めて、今回の「迷子のフェンリル探し」クエストの発注内容を確認した。
「いいか? このクエストでは、テイマーを優先して指名している」
「ええ。テイマーなら、迷子で不安になったユリアを刺激せずに連れて帰れると聞いたから、そうしたのよ」
「そして、このクエストには、どこにも『絶対にユリアをテイムしてはいけない』とは書かれていない。テイマーを優先して指名するクエストで、テイムが禁止されていなければ、冒険者ギルドは『テイムして問題を解決するクエスト』だと判断するし、俺も、積極的にユリアをテイムするように勧められた。クエストは対等な契約であり、契約書に書かれている内容が全てだ。フィリスさんの意図はどうあれ、俺はクエストを指示された通りに忠実に実行したのだから、俺は何一つ間違ったことはしていない」
「……そ、そうです。アレクさんは、わざわざ迷いの森まで私を探しに来て、私を守るためにグレートジャイアントスパイダーを倒してくれた良い人なんです。私をテイムしたのも、事故みたいなもので……だから、アレクさんを責めないであげてください」
俺を庇うように、ユリアが割って入った。
「……はぁ。分かったわ。随分と、ユリアに懐かれているのね? ……ユリアをテイムすることを認めるわ。責任を取って、必ずユリアを幸せにしなさい。いいわね?」
「ああ。俺に任せてくれ」
「ありがとうございます、お母様!」
こうして、俺はフィリスの説得に成功した。
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