無愛想な先輩と中学の後輩
花音に図書室で耳かきされた後、家に帰った俺はベッドに倒れ込んだ。
「・・・くそっ、可愛い過ぎかよ・・・中学のときと全然違えじゃんか」
2日前のことを思い出しながら、そう呟いた。
***
「さあ!先ずはお試しで1回耳かきしますよ!」
そう急かされて、俺は恐々としながらスカート越しの花音の太腿に頭を乗せた。
ふにっ
な・・・なんだ・・・この柔らかさは!?
「ふふっ、先輩、女の子の太腿に乗るのは初めてですか?」
「あ、当たり前だろ!そうそうお前みたいな奴がいてたまるかよ!」
「私が聞いたのはそういうことではないんですが・・・」
「何か言ったか?」
「いーえ、それより綿棒入れるのでジッとしてて下さいねー」
「わ、わかった」
ポリポリ・・・ポリポリ・・・
・・・それにしても、何で俺の耳かきなんかしたいんだろう。そんなに良い耳じゃないと思うんだがなあ。
そんなことを考えていると、
「~~♪~~~♪」
花音の鼻歌が聞こえてきた。
・・・・・・これ、中学のときの校歌だ。
やっぱり、中学の後輩だったのか。
覚えていないことへの後悔と申し訳なさでいっぱいになる。
佐々木花音・・・佐々木花音・・・
・・・佐々木?
どうにか花音のことを思い出そうとしていると、ふとその名字に引っかかりを覚えた。
あれ、確か俺らの代の生徒会長がそんな名字だったような・・・
あぁっ!思い出した!
佐々木莉音!あいつの妹だ!
当時学級委員長だった俺は、その役柄のせいもあってか生徒会の手伝いを度々させられていた。
そこときに1度だけ莉音の妹を見たことがあった。
いつも姉の後ろに隠れていて、余り言葉を発さないものだから声も覚えていなかったのだ。
「花音、お前の「先輩が思い出しそうにないので、これからもずーっと私が耳かきしてあげますね♪」
その弾んだ声を聞いて、俺は声が出せなくなった。
・・・そうだ、元々こいつの望みは俺に耳かきをすることだった。
なぜ俺の耳をかきたいのかは依然分からないままだが、既に花音の望みは叶っているじゃないか。
せめて、花音が満足するまでは、このことは黙っていよう。
そんな問題の先送りにしかならないような考えで、俺は後ろめたさを誤魔化した。
***
「花音には気付かれないようにしないとな・・・」
「何の話ですか?先輩」
ビクッ!?
「花音!?何でここに・・・!?」
「えへへ、先輩のお母さんに彼女だって言ったら入れてくれたんですよー」
こいつ、人の親騙して何してんだ・・・
「それで、何の話してたんですか?」
「なんでもねーよ」
そう、何でもない。
何でもないんだよ。
例え、花音が自分の部屋に来て心拍数が上がっていたって。