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Side 花純

「花純」


私を下の名前で呼ぶ彼の声。


え。私、あれから下の名前で呼ばれるようになったのかしら。職場にいる男性で下の名前を呼ばれる場合は「花純」じゃなくて「かすみん」っていうあだ名だったなぁなんてどうでもいいことを思い出した。


目の前には真っ白な天井。


「花純。よかった」


泣きそうな、でも嬉しそうな彼の顔が先程見た天井から切り替わって私の目いっぱいに広がる。

でも彼はこんな顔をしていただろうか。いや相変わらずかっこいいいのだが、老けた?今から先方に挨拶に・・・


「篠田課長。私、また貧血起こしましたか?」


「え?」


彼は強張った顔をこちらに向ける。ああ、そうか。課長はよく知らないと思う。


「私は貧血持ちなんです。寒いと血行が悪くなってよく貧血起こしちゃうんです。すみません。先方に同行できずに倒れちゃいましたか?」

どうしよう。すごく迷惑をかけてしまった。課長は無言になって私の顔を凝視している。


「課長?」

これは一体、どうなってしまって病院にいるのだろうかと聞こうと思ったところだった。


「佐久間さん、目が覚めました?」


ガラっと勢いよく、看護師が病室のドアを開いて入ってきた。私の顔を覗きこんで笑顔で早口にこういったのだ。


「よかった。安静をとって明日まで管理入院しましょう。ご主人、先生から話がありますから待合室でお待ちくださいね」


では、といってまた勢いよくドアを開けて忙しなく出て行った。

佐久間さん?ご主人?


「あ、看護婦さんたら課長を旦那だと思ったんですかね。やだ、あはは。私まだ独身なのにもう結婚している風に見えるんですかね?」


そんなに所帯じみているかな?課長と一緒だったからだろうか。課長の年齢を考えれば若い奥さんと思われたのかもしれない。単なる部下なのに。


「代わりに話を聞いてくるよ」


彼はなぜか悲しそうな笑顔で部屋を後にした。


「あれ。いつもなら冗談が通じるのに・・・」

今の、冗談でも笑えなかったかな?きょとんとしながら一人になった病室。それにしても・・

「ここ、個室じゃん」見渡してため息をつく。


私は独身だし、貧血もちといっても病院に通うほどではなかったので医療保険に加入していない。見たところすごく綺麗な個室部屋で一日のベッド代がいくらか想像すると身震いがした。四人部屋に移動できるか聞いてみよう。倒れてからどれくらい経っているのかわからないが、本日入院ということは本日分を依頼して四人部屋にするだけでもお金を節約できるだろう。今日、手持ちのお金なんてあったかな。そう思って鞄を探す。病室を見渡す限り、私の荷物がない。どこにあるんだろう。見渡しながら窓の外にふと目をやる。あれ?


「入道雲が・・・」


冬の空に入道雲なんて。夏じゃあるまいし。たまに冬にもみられるとか聞いたことはあるがあの雲は冬っぽくないな。不思議。窓を開けようと点滴をつけていない片手を伸ばす。鍵が固くて開けることができない。ふと外にいる人達を見ると皆、半袖を着ている。


「え」私は動揺した。


おかしい。私はさっき年始の仕事中に倒れて・・・まさかそれから夏まで眠っていたってこと!?それで篠田課長がお見舞いにずっときていて看護師さんが旦那だと勘違いしているんだろうか。点滴がついていることを忘れて立ち上がる。


「痛っ」


点滴の針が変に食い込んでしまったのかまた針を刺されたような痛さに襲われる。「誰か・・」腕に固定してあった点滴のテープが見る見るうちに赤い血で染まる。ベッドの枕元にあるナースコールボタンを押そうと思うと、急に頭痛に襲われて意識が朦朧とする。頭がグラグラして目が回る。目の前が白黒に暗転する。貧血だ。何度か貧血で倒れたことがあるのでこの症状がでるとひたすら目を閉じて心を無にする。


やがて意識が遠のいて私は真っ白な世界に入っていった。



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