Side 花純
「そういえば、あの年賀状。羊のぬいぐるみは沢木さんのものなの?」
彼は思い出したかのようにガラリと違う話題を切り込んできた。
「あ、ありがとうございます。そうです。ぬいぐるみを写真に撮って年賀状に印刷しました。私、未年だからか羊のグッズを集めるのが好きで・・」
「ぬいぐるみを写真でとって年賀状にするってマメだよな」
「そうですか?」
「普通、イラストとか写真にしてもプロがとった素材張り付けてつくるって。面倒くさくない?」
「そうですね。でも写真を撮るのが趣味なんですよ」
「お、今流行りのカメラ女子?」
「そうかもしれませんね。デジタルですけど一眼レフですしね」
「すごいな。あれ高いんだろ?」
「まあ事務員の給料一か月分くらいは」
「高いな」
彼は興味深そうに聞いてくれたので、つい自分の趣味の話をしてしまった。きっとこんな普通の一事務員の趣味話なんかどうでもいいだろうに、彼はちゃんと目を見て、真剣に話を聞いてくれた。
「そうそう。写真の羊のぬいぐるみ、ふわふわしてかわいかったね」
「でしょう?そういえば課長になんとなく似てますね」
彼はイケメンだが、羊っぽい。ふわふわ人を癒しながらも他人に一線ひくところとか。
「ええ?そう?だったらそのぬいぐるみ抱っこしといてね」
突然、かわいい要求をされる。
「え?なんでですか?」
「沢木さんに抱っこしてもらいたいから」
「・・・課長、セクハラですからそれ」
やめて。抱っこしたくなっちゃうから。そんな想像を一瞬でもしてしまった自分を恥じて下をむいて食べることに集中する。
おいしいご飯も終盤にかかり、デザートのあんみつを頬張っていると彼はいきなり真剣な顔をしてこういったのだ。
序盤に戻る。
「沢木さん。俺と付き合ってほしい」