Side 花純
夕方になるとヒグラシがどこかで鳴いている声がした。夏を感じる夕日とともに、お母さんと娘の百合ちゃんが面会にきた。
「ママ!!」
百合ちゃんは私をめがけてベッドにダイブして抱きついてきた。
「会いたかったよ~」
ぎゅっと小さい子が私を抱きしめている。この子が私の・・・
今日はずっと一日一緒にいてくれた課長に目をやると頷かれたので一生懸命、いつも通りのママとやらを演じてみようとするがどういう態度で接していたのか、わからない。あたりさわりのないよう
「ごめんね、私も会いたかった」
と抱きしめ返した。百合ちゃんが顔を起こして、私の目をジっと見つめる。丸い大きなクリっとした目に透き通るような白い肌。どちらかというと課長に似ている気がする。口元と耳は私に似ているかな、なんて考えてみる。不思議だ。この子が私の・・・
「ママ。また私のこと忘れちゃった?」
真顔で百合ちゃんが訊いてくる。
「え・・・」
その場にいる大人三人は絶句した。
「百合・・・またってどういうことだ・・・?」
課長は狼狽えながら訊いた。
「ママね、よく忘れるの。どうしたのかな」
よしよし、と私の頭を撫でながら慰めようとしてくれている。
「百合・・ちゃ・・・」
自然と溢れる涙を百合ちゃんは小さな指で掬ってくれる。その度に私は・・・
「あ、ああ・・・百合・・ごめんなさい・・・」
瞼が重たい。どうしたのだろう。また意識が遠のいていく。




