Side 花純
「ご主人とは職場恋愛だったんですね」
いいなぁと笑顔で戸田先生はからかう。
「みたいです・・・」
私は恥ずかしくなって下を向く。隣の彼は笑顔で説明を付け加えた。
「僕は当時、課長でした。彼女に惚れまして・・仕事の同行中に告白をして付き合うことになりました」
「仕事中に!!」
戸田先生は仕事を一瞬忘れているよね?というくらい興奮して立ち上がった。
「戸田先生・・・」
隣にいた木島先生が立っている戸田先生の腕を掴んで制する。
「あ・・・すみません・・・」
戸田先生は真っ赤な顔のまま静かにゆっくりと着席した。
「脱線してしまってすみません。では花純さんはそのような展開になって幸せでしたか?」
「幸せ・・・そうですね・・・あの時は・・・」
そう呟くと天井を見上げた。
幸せって感じる前に告白された日から記憶がないから、その後幸せだったのかも今の私にはわからない。目線を目の前に戻せば戸田先生がにこやかに笑って私の発言を待っている。主治医の木島先生も、夫である課長も私の答えを待っているようだ。
「な、なんか面接みたいですね。就職の・・・」
重い空気を感じたのでこんな発言をしてみた。皆が我に返って風が通り抜けた。
「うふふ。そんな雰囲気でてましたね。ダメですね。リラックスしないと」
戸田先生はさらに空気を柔らかくするようになのか、そういって立ち上がった。
「ちょっと質問をかえましょうか」
「は、はい」
「花純さんの考える幸せとは何でしょうか?」
この質問に、私は答えられなかった。
「答えられなくて当たり前ですよ。気落ちさせるような質問でごめんなさい。けれど大切なことなので考えてみてください。明日はゆっくり病院で静養してください。明後日にまたカウンセリングに伺いますね」
私にゆっくりと説明して、戸田先生はやっぱり笑顔で退出していった。
「じゃあご主人は今からお話がありますので・・」
木島先生が声をかけてきたので「わかりました」と答えながらガタガタと席を立ちあがる。
「花純。あとで病室によるから横になってゆっくりしてろよ」
「は、はい」
「よし、いい子」
彼は少し皺ができた顔を私に向けて、頭を優しく撫でた後、木島先生と退出した。
パタンとドアが閉じられるとため息をはいた。今のは、私が覚えていないせいもあるがあの課長があんな優しい頭ポンポンをするなんて・・・たまらない。その悶絶のため息と・・
「幸せか・・・」
この宿題の難題さにため息。スゴスゴと病室へ戻って横になる。今日はカウンセリングもあったし脳を使ったのか、疲れた。妊娠中ってこともあるし段々と眠くなってきた。




