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Side 花純

次に目が覚めた時は、やっぱり天井が真っ白。

顔を横に動かすと鳥の囀りと日の光がカーテンを照らしているあたり朝だろうと思う。少しずつ思い出している気がした。ぼんやりしているとコンコンとノック音が聞こえた。


「はい」

擦れた声で返事をする。


「佐久間さん。起きてらっしゃったんですね。おはようございます」


朝から元気のいい看護師がサっと入室しながら挨拶をしてきた。


「あ、おはようございます」


「早速、血圧はかりますよ~。佐久間さん、血圧低そうね」


「あ、たぶん低いです。貧血ですし」


「貧血だから血圧が低いってわけじゃないのよ」


「え、そうなんですか?」


看護師はてきぱき私と喋りながらも、血圧測定器を私の腕にはめていきながら脇には体温計をいれていく。


「上九十、下四十五・・低いね・・・いつもこんなかんじ?もう一回はからせて」


「はい」


いつもこれくらいだ。血圧が低すぎてもう一回はからせてといわれるのもいつものことである。これも私の記憶として、とくに変わりなかった。ただ「佐久間さん」と呼ばれるのは非常に違和感があり、照れた。


「では今日は主治医の木島先生と、臨床心理士がくるからね。う~ん、今から朝食がでて回診あってからだから・・十時くらいかな」


腕時計を見遣りながら、今日の午前スケジュールを教えてくれた。


「わかりました」


「それまでゆっくりしててね、あ、テレビもあるけどテレビカードがいるから。院内の売店で買ってきてもいいし携帯も個室だからとくに制限はないけど安静が第一だからね」


ササっと説明をして「では」と退出していった。


テレビは元々あまり見ないからカード買ってまで見たいとも思わないしいいか。でも携帯は見たいな。見渡す限り、小さな簡易クローゼットがあったので開けてみる。案の定、倒れた時に着ていたと思われる見慣れない会社の制服と鞄、パンプスが入っていた。


「転職したのかな?」独り言を呟いて制服に手で触れてみる。夫である篠田課長と関係のない会社であえて共働きという選択なのかもしれない。普通、私の性格を考えるとあの佐久間ホールディングスの御曹司の妻という肩書きに押しつぶされそうだから転職先には極力バレないようにしていたのかもしれない。

でも課長はイケメンで有名だからたまにビジネス雑誌はもちろん、テレビのワイドショーとかを賑わせていた。もはや芸能人レベルと思っていた。だから知っている人は彼を知っているし目立たないわけがない。マスコミもこんな普通の女と結婚したことくらい嗅ぎつけているに違いないし。七年後の今、世の中どんな風にまわっているのかそれらも思い出せなかった。



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