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Side 航

花純が滞在する病室を後にすると、俺はナースステーションへ寄った。


「木島先生、まだいらっしゃいますか?」


「佐久間さん。こんばんは。木島先生はちょうど当直だからいますよ。よかったですね」


元気な看護師に、花純の主治医である木島先生を呼び出してもらった。


「佐久間さん、こんばんは」


「木島先生。すみません、外来時間外なのに」


「いえ。佐久間さんの場合は特別な状況なので構いません。こちらへ」


木島先生は急いで開いている部屋を案内してくれた。最初に診察してもらった時は事務的で無愛想な医師だと思っていたが意外に親身な先生だった。


「それで、奥様は何か思い出したようでしたか?」


「いえ。やはり先生のいう通り、僕と付き合う以前の七年前から今日までの記憶がないようです」


「そうですか・・・」


「でも記憶がないだけじゃないんです」


「・・・といいますと?」


「事実と違うことを記憶として話していました」


「事実と違う?」


「はい。たとえば・・・」


俺は、彼女と出会って付き合って結婚するまで、佐久間ホールディングスの御曹司という事実を隠していた。彼女に隠していたというより、会社全体に隠していた。だがさっきの口ぶりからすると付き合う前から、俺のことを御曹司だと知っていた。本当は気付いていたのか?いやまさか。だって結婚するとなった時、事実を知った花純は脅威の顔をしたあげく、別れようといわれたのだ。後は・・・


「彼女は自分の父親と母親は元気か?と僕に聞いてきました。でも、そもそもご両親は母親しかいないのです。」


「でも父親は元気か?といっていたのですね。失礼ですがお父様は?」


「彼女が小さい頃に亡くなっています」


「小さい頃・・・」


「たぶん・・小学一年生の頃といっていたと思います」


「そうですか」


「単純に七年間の記憶がないだけでなく、小さい頃の記憶もなくなっているんでしょうか?」


木島先生は少し考えて唸っていた。


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