Side 花純
次に目が覚めると、病室に日の光が入っていない辺り夜だと思われる。天井は真っ暗だった。ああ。私、点滴の針が抜けてから貧血をまた起こして眠っていたんだきっと。人の気配がした。
「篠田課長・・・」
篠田課長はパイプイスに座りながらも眠かったのか腕を組んで頭をカクン、カクンと揺らしている。うたた寝している姿がなぜか可愛いと思った。
「篠田課長・・・」
先程は呟いただけだったので起きなかったのだろう。今度は少し大きめな声で揺り起こすように彼を呼んでみる。
「んん・・」
彼は起きたようでうなり声をあげて、私をぼんやりとした瞳で見つめた。少し老けたような気がするけどそのまなざしはやっぱりかっこよくて見惚れた。
「花純。起きたのか」
「は、はい」
彼から下の名前で呼ばれるなんて不思議。さっき付き合うって話をしたばかりなのに。私は今きっと顔が赤いだろう。恥かしくて下を向いていると起き立てで擦れた声で彼が
「なあ」と話しかけてきた。
「はい」
「今、どういった状況でこうなっているか覚えてるか?」
「は?」
「いや、どうなってこの病院に運ばれたとか」
「ああ、そうですね。私も実はよくわからないです」
「わからない?」
「はい。年始の仕事で取引先への見積書ミスがあって篠田課長と同行してお詫びにいくことになりましたが、貧血で倒れたんでしょうか?どうやって倒れたかの記憶とかがないのですが・・・」
「・・・・」
篠田課長は改めて難しい顔をしていた。
「救急車とかで運ばれましたか?先方は大丈夫でしたか?」
「あ、ああ。先方はとても喜んでいたよ。沢木さんがきてくれるなんてって」
「そ、そうですか。その記憶もなくて・・」
「その記憶もないのか?」
「はい。篠田課長にその・・・告白をされて・・・」
「されて?」
「お願いしますということでご返事した・・・ところまで」
「そこか・・・」
彼はため息をついてうつむいた。
「そこ?」
「花純。いや、沢木さん」
「は、はい」
「沢木さんは今、何歳?」
「に・・二十四ですが・・・」
「二十四か・・・」
彼がまたしても俯いた。
「あ、あの・・年齢差を気にしているのですか?」
「え?」
「私達、ちょうど一回り違いますけど干支も一緒ですし気が合うかと・・・」
ふっと彼が柔らかく笑った。
「課長?」
「ふふ。いや、あはは。懐かしいなと思って」
懐かしい?何が?
「そんなことを七年前にもいわれたから」
「七年前?」
「年齢差が嫌だったのか?」
「は?」
「年齢差は抗うことはできない。でも干支が一緒だから大丈夫だ」
彼がくだけて笑う笑顔を見せてくれるのは初めてだった。
「は、はあ・・・」
「花純。ちょっと混乱するかもしれないけど聞いてほしい」
「はい」
私が返事をすると彼は私の目を見つめて、こういったのだ。
「花純は今、三十一だ」
「え?」




