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ガイスト、或いは指針

「バグかぁ……」

 その言葉を受けて、赤っぽいオレンジの髪は首を捻る。

 

 「それでさ、ゼノ」

 「どうしたんだよエッケハルト」

 「そのバグってどんなだっけ?」

 「ってそこかよ」

 苦笑しながら、ある程度思いだせるようになった記憶をおれは辿る。

 

 「デュランダルバグ……だろ?

 おれ、というか第七皇子ゼノ、つまり皇族フラグを持ったゼノでのみ起こせるバグで、そもそも武器としてのデュランダル自体を入手出来るのがアルヴィス必須だからもう一人の聖女編か炎の勇者編限定で起こるものだな」

 「ってことは、この世界は……」

 「もしかしたらもう一人の聖女も居るかもしれないな」


 言いつつ、少し探ってみるか、とおれは考える。


 もう一人の聖女。七天教の教会の娘で平民出身という聖女だな。平民であるから、何時もの攻略対象から下に見られたり、差別対象の第七皇子と縁が出来たり……

 いや、そこに万色を加えて八大神だったか、あの教会は。実在が確認されている7柱の神である七大天のみを信じ、万色の虹界を認めない派閥と認める派閥とでちょっとややこしいんだよな、七天教。

 宗派の違いなのに八天教だと名乗る奴等も居るし……。因にだが、家の孤児院は元八天教と名乗ってた方の宗派の教会を利用してる。

 ヴィルジニーやアステールは虹界を認めない方の派閥だな。あれは聖教国自体の方針だ。これは単純に、教皇が聞こえる声が七大天のものだけだという事実から起きる事態だ。

 ってか、この世界の原初を作り出した神である事は間違いないんだが、万色の虹界って魔神の神であり世界の敵だからな。

 本来その筈なのに、7つの属性全てを使える人間は万色の民だという風潮が出来てから、何時しか八の天に加えられてるんだよな。

 

 って、今は良いか。

 それに、今は……虹界でもなんでもない神すらこの世界に干渉しているらしいからな。


 精霊マオウ……真王?魔王?魔翁?何と書くのかは知らないが、ユートピアと呼ばれる者等。別の世界の理念であるAGXなる機神を扱う者達の神等により、世界は歪んでいるらしい。

 だからこそらあの力は……バグでも何でも良い。轟火の剣の力は必要だ。

 

 「それよりもまずは、だ」

 だからおれは手を翳し。


 けれども、何も起きない。あの時のように、突然剣が姿を現すことはない。

 これが本来の持ち主の父であるならば、呼べば剣は飛んで来る筈なのだが。


 「……何も起きないな」

 「そう、何も起きないんだよな、今だと」

 「うーん、何だかなぁ」

 と、エッケハルトがぼやくのに、おれも頷いた。

 「デュランダルバグ自体は2部3章で出来るんだけど……あれとはまた別なんだよな」 

 「ん?そうなのか?」

 「いや、あのバグを発生させた場合って所持品の欄がバグるからさ、二度と所持品を変えられないし使えない。

 なんで、バグそのものだった場合は一生デュランダル以外の武器を装備できないんだよ」

 「受け渡しは?」

 「バグった状態で所持品を覗くとフリーズする。正確にはバグった状態のゼノの所持品欄にアクセスする何かが起きたらアウトだから、あらかじめ枠埋めてない状態でドロップ品を入手しようとするだけで即死だな」


 「うわ、予想より酷い」

 「で、武器としての轟火の剣デュランダルが所持できるのは2部3章のあのタイミングだけ。

 だから実はゼノルートだと途中で強制的に装備が変わるタイミングでフリーズを避けられなくて詰むんだよなあれ。だから他ルートでしか使えないっていう」

 「ん?終盤に手に入らなかった?」

 「エッケハルト、お前バカか?」

 一息ついて、おれは呟いた。


 「正規所有者が居るのにわざわざバグでゼノが持つ意味って何だよ。

 本来は使ってみろと父さんが投げてくるタイミングで、結局異世界から来た勇者でも神器は扱えない、ってなるところ、バグで何故か同行してるゼノが装備して、結果2部序盤からデュランダルが使える上に皇帝加入時に分裂するってのがバグの肝なのに」

 余談にはなるが、フラグ無視して装備している関係上、増やしてもゼノ以外のキャラが持つことは出来ない。


 利点としては、月花迅雷を他人に回してもゼノが十分に戦力になるって点だな。遠距離武器かつ、HP50%以下で全能力+20の武器はあまりにもぶっ壊れている。特に、全ステータスが高いからこそHPが減りにくい父と異なり、おれは魔防0だからな。魔法属性の攻撃で一発でHP50%を切り、勝手に強化されるって訳だ。

 特に、根性補正でHP1で耐えることもあるしな。

 

 「うーん、となると、お前のあれはバグなのか?」

 「多分バグだろう」

 精神世界でおれは帝国の祖と会話した。

 あれは本当だったのか、それとも……。それは分からない。


 ただ分かることは、あれは正規の契約ではないバグだということ。

 

 「バグかぁ……」

 「なんで、今度なにかが起きても使えるかは分からない」

 「うーん、色々とやらかしてる奴等も居るらしいし、あれが好きに使えたらある程度戦えると思ったんだけどなぁ……」

 「ってかエッケハルト、お前本当に七色の才覚以外何もないのか」

 「ない!」

 言い切られた。

 

 「マジか……」

 言いつつ、残りの転生者の力を思い出す。


 問答無用で使われる刹月花。本来達人の域……要は刀:Sとされる域のキャラが選ばれる神器だが、あの少年に刀:Sのオーラは無かった。

 ちなみにだが、Sはやっぱり神に祝福されたの意なのでおれは刀:Sにならない。初期値で刀:Aだがそこから伸びないわけだな。まあ、幼少の今は刀:Cくらいだろうけど。

 アガートラーム。流れてくる音声が時折変なので、無理矢理に扱ってそうというか、何か欠けてる感はあった。

 そして……

 

 「固有スキルが別物になるのと、神器が問答無用で使えるの、何か差が酷くないか?」

 「酷いよなぁ……」

 がっくりと肩を落とし、少年は返した。

 

 「あとなエッケハルト、もう一個、おれのアレが転生能力じゃないって証拠があった」

 「ん?」

 「師匠が確認してくれたんだけどさ、刹月花は西の都に封印されたままだった。

 誰一人、持ち出した形跡がない」

 「ってことは」

 「ああ、彼らの使ってきた神器は、本来の神器とはまた別に存在する」

 で、だ、と前置きしておれは続ける。

 

 「デュランダルは父さんのところから飛んで来た。あれは、皇帝シグルドの持つデュランダルと同一の存在だ」

 「成程、つまり?」

 「色々と分からないって事だけは分かるわけだな」

 「……うわぁ……」

 呆然としたところで、おれはその先を続ける。

 

 「で、エッケハルト。

 これからどうする?」

 「どうするも何も、どうすんだよゼノ

 AGXって、あんなのどうすれば……」

 「いや、この世界にもロボ居るだろ?

 ライ-オウとか、後はゼルフィードとか」

 前者は竪神頼勇が、後者は……

 

 「そうだ、ゼルフィードだゼルフィード」

 「ん?あの公爵の子の……

 ってそうだ!あいつの幼少期のどうこうって、今この頃じゃなかったっけ!」

 「……あ、忘れてた」

 そういえばそうだった気がする。シナリオ面も覚えてはいるんだけど、どうにもおれはそれよりもデータ面を良く覚えているというか。


 「ゼルフィードか……確かあれはガイストの機神だよな」

 言いつつ、おれは思い出す。

 ガイスト。正確には、ガイスト・ガルゲニア。ガルゲニア公爵の息子だ。

 

 「ガルゲニア公爵の息子だっけか」

 「ああ、そうだな」

 「他の攻略対象って割と会えやすいんだけどさ、ガルゲニアは無理だったんで良くわかんないわ」

 「だろうな」

 エッケハルトの言葉に頷く。

 というか、おれがこの塔で半ば遊んでいる……は言い過ぎにしても、そこまで進んでいない間に、彼はせっせと他の攻略対象を見ていてくれたらしい。

 

 「おれが見る限り、皇族に転生者は居ないな」

 「お前みたいに分かりにくい感じじゃなくてか?」

 「おれ、そんなに分かりにくいか?」

 「いやマジで。最初に会った時、さてはこいつ転生とか無い普通のゼノだな?って思ったくらい」

 いやー、それとこんな風に話すとは、とオレンジ髪の少年は、おれの枕元のテーブルに置かれた果物を取り、皮を剥かずに口に含んだ。


 「普通のゼノって何なんだ」

 「いや此方の話」

 「……お前、星紋症を使っただろ」

 静かな威圧。

 おれは可能な限りおどろおどろしく、少年にそう声を掛けてみる。

 「いや、あれは……」

 少しだけ遠い目をしてから、少年はそのオレンジの瞳をおれに向けた。

 「あれは違う。星紋症を使ったのは俺じゃないただ、原作……ああ、小説版な。

 あそこでお前が出張ってきてやらかすんだ」


 「……本当か」

 「マジだって。

 星紋症は治せたよ。でも、護れもしないのに安請け合いしてさ、すぐにあの孤児院は潰されて……アナちゃん達は不幸になる。

 そんな話が、小説版にはあるんだよ」

 「そう、か……」

 その言葉を、おれは重く受け止める。


 確かにそうだ。あの孤児院に手を出して、今のおれと小説のゼノは何も変わらない。

 変わるとすれば、まだ孤児院は存続しているということだけだ。それも、おれが居なくなれば瓦解する。

 例えばユーゴの時。あの時、アステールに助けられていなければ、おれはあのまま死に、孤児院は潰れていただろう。

 

 「いや、それとお前がってのは繋がらなくないか、エッケハルト」

 「それが繋がるんだよ。小説では、孤児院はアイリス派を安請け合いしたからって、アイリス派の悪評のために他の皇族に潰されるんだ」

 「……そういうことか」

 実際にありそうな話だ。シルヴェール兄さんは裏で手を回すとはいえ、ここまで露骨な悪評は立てないだろう。


 いや、部下は面白おかしくおれについてバカにしていたらしいが、あれはあれで、アステールを助ける方向に働いていた。

 そこら辺まで考えて動くのがあの伊達眼鏡のイケメン教師な兄。潰すなんて直接的なのは第一皇子か第三皇子だろう。

 いや、アイリスの覚醒の儀に直接関わって目の敵にする感じと思えば、多分第三皇子だな、下手人は。

 

 「多分あの兄さんだな、ってのは分かった。

 分かったからって意味はないけど」

 「そう、そして小説のゼノは守れなかったからって、力なき正義に意味はないとして……」

 「天狼事件で天狼の角を折るのか」

 「ああ、力なき正義を終わらせ、力が欲しいと」

 「それが、月花迅雷……」

 これ、本当におれが月花迅雷なんて持ってて良いのか?


 原作では深くは語られなかったから使ってたけど、そんな闇が深い代物だったとは。

 

 「ってまあ、今のお前なら大丈夫だろ、流石に」

 「どうだろうな」

 曖昧におれはごまかす。


 実際にその時、おれが力に抗えるか、それは分からないから。

 あの時、ユーゴに立ち向かう力を、と。おれは本来使えるはずもない轟火の剣へと手を伸ばした。

 あれはアステールの為だと叫んだ。けれども、心の奥底では……生きるための力が欲しかったんじゃないか?

 力に溺れない保障なんて、何一つ無い。そこまで、おれはおれを信じられない。

 

 「って、それは良いんだよエッケハルト。

 重要なのは、ガイストだ」

 「そ、そうだな」

 向こうとしても言いにくい話だったのだろう。ほいほいと少年は話題転換に乗ってくる。

 

 「ガイスト……って、あの暗いのだよな」

 「ああ。兄に父と母を殺された、元公爵令息」

 「その過去のトラウマから、聖女と二人で立ち直り前を向くってのがシナリオ……で合ってるよな?」

 「合ってる合ってる。人間不信な攻略対象。公爵だから俺じゃ会えなくてさ……」


 「て、おれでも会えないぞエッケハルト。皇族でも強権とか使えば文句出るし」

 「それもそうか、そういや、我らが麗しのリリーナ嬢は?」

 ここ一年以上、あまり塔の外には出てない友人が呟く。

 その少ない時間、同性の攻略対象の調査をしてくれてたっぽいからな、まあ、あのピンク髪とは会わなかったのだろう。

 「残念ながらあれ以来音沙汰がないぞエッケハルト。

 多分だけど、おれはちょろいから後回しで良いやされてるな」

 原作的に、もう一人の聖女に勝手に惚れてるレベルなので、ちょろいのは否定しない。シナリオもおれは君に相応しくない、って台詞が出てくるようなシナリオだしな。

 

 「で、他の皆は?」

 「さあな?フォースは多分見つけてない、皇族で気軽に押し掛けられるのはおれだけなので、他の皇子とも多分会えてない、って所だろうな」

 「転生者……だよな、あいつも」

 「だろうな。ただ、現状ユーゴに比べて平和な奴だ」

 語りながらおれは

 「ってか、お前だけ食べるなよ」

 と、再びリンゴのような果実を齧る友人へ抗議しようとして……

 

 「はいどうぞ、おーじさま」

 「おわっ!」

 何時しか横でニコニコと果物(因みにぱっと見柑橘類)をウサミミ型に皮を剥いて切り、笑顔でおれへと差し出す狐耳の少女の姿に気がついて背を仰け反らした。

 

 「あ、アステールちゃん!?」

 「うん、ステラだよー?はい、おーじさま、あーん」

 「いや待て、何で居るんだ!?というか、何処まで聞いてた?」

 完全に転生者丸出しで話していた訳だが。

 「?ステラはおーじさまの事なら基本全部知ってるよ?」

 「いやそうじゃなくて」

 「おーじさま、ステラはおーじさまの事、何て呼べば良い?

 おーじさま?ゼノさま?それとも、三千矢さま?」

 「ちょっと待ってくれ、その最後のミチヤ様って何なんだ」

 「おーじさまは、ゼノさまで、ステラのおーじさまで、ニホン?人のミチヤシドーって名前なんだよね?」

 「いや初耳なんだが」

 おれ、というか今のおれになっている日本人の名前、獅童三千矢(みちや)って言うのか。初めて知った。

 

 「いや待て、何でそんなこと知ってるんだ」

 「全部、竜姫様と道化様が話してくれたよ?」

 「七大天ッ!」


 うんまあ、そりゃ話せるわな。おれを第七皇子ゼノに転生させた張本人だ、情報くらいある。

 というか何やってるんだ七大天……


 特に竜姫。いや、原作でも眷属である竜人娘がゼノの事を兄さんと慕ってたし、何か縁はあるんだろうが……

 というか、おにーたんとも呼んでたシナリオがあったな。ティアと……アルヴィスの絆支援Bだったか。ゼノが生きてると兄さんで、死んでるとおにーたんになるんだっけ。

 

 「ってそうじゃなくて」

 「?」

 首を傾げる狐娘に、おれは疑問を投げ掛けた。


 「いやおれ、真性異言(ゼノグラシア)な訳だがそれは良いのか」

 「ステラを助けてくれたおーじさまと、真性異言は別に、喧嘩する要素じゃないよ?」

 「そういう、ものなのか?」

 割り切れるものなんだろうか、それ。


 「それにね、竜姫様は何にも信じられない頃のステラに、直ぐに助けてくれるおーじさまが居るって励ましてくれたよ?」

 「……いやだから、何やってるんだ七大天!?」

 「おーじさまが真性異言で未来を知ってるように、ステラも七大天様から未来を教えて貰ってたのー

 これって、いっしょだよねー?」

 「あ、ああ」

 何か可笑しい気がするが、押しきられておれは頷いた。


 そんなおれの口に、無駄にウサギに剥かれた柑橘類が放り込まれた。


 うん、甘い。

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