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リリーナ・アルヴィナと機械巨人(side:アルヴィナ・ブランシュ)

結局彼等の使ってきた巨大ロボットって何なの?という疑問をヒロインのアルヴィナが亜似に聞くお話です


ほぼ設定解説回です。ぶっちゃけ読まなくても何とかなります

夕刻。とある理由から訪れた、ボクの兄の家。今は、亜似(あに)の家

 「アールヴィナっ」

 陽気なそんな声に、ボクは魔法のライトで照らした本の(ページ)から顔を上げた。

 

 「何読んでるんだ、アルヴィナ?面白い?」

 「読んでない」

 素っ気なくボクは答える。

 「そんな恥ずかしがらなくて良いじゃんか、何読んでても可愛い可愛い妹を嫌ったりしないからさ」

 ボクの話を聞かない珍獣(あに)は、そう言ってボクの手の中から開いたままの本を取り上げる。

 そして、表紙を見て……

 「なにこれ?」

 固まった。


 「『魔法使いハリックのぼうけん』」

 「子供向けの絵本じゃんこれ。アルヴィナこんなつまらないもの……

 いや、別にアルヴィナが好きなら良いんだけど」

 と、表紙に描かれた眼鏡の魔法使いをぶんぶんと振って、青年はそんな事を言う。


 ボクは良いけど、読みもせず絵本だからつまらないと決めつけたらあの本を好きな人が聞いたら怒ると思う。

 「読んでないから良い。

 この家の元々の持ち主の持ち物にあったから開いてみただけ」


 もう彼等は居ない。名前も知らぬ男爵家は、ボク達が人類を調査する名目でこの王都に忍び込む際、王剣(ファム・ファタール)によってこの世界と切り離され、消滅した。

 万色の虹界とこの世界では呼ばれる色の無い混沌、ボク達の神の揺蕩う世界という樹の周囲に拡がる揺りかごに呑まれて、彼等は無に……いや、全てが渦巻く混沌に還った。


 ボクはその欠落によって世界に空いた隙間に入り込み、アルヴィナ男爵家のご令嬢という事になっているだけ。だからあの絵本はボクが買ったものじゃなく、ボクの部屋だということになっている男爵の息子の部屋にあったもの。

 ボクが読むのは知識を拡げるものばかり。そんな中ふと見付けたなんの知識にもならない絵本が物珍しくて広げていただけで、内容なんて一文字も読んでいない。

 

 「で、どんなストーリー?」

 「読んでない」

 『ヴァゥッ!』

 ボクの言葉を裏付けるように、ボクの膝の上で屍の仔犬が鳴いた。

 

 「じゃ、何でそんなものを?今から読むところ?」

 「……ボクの魔法」

 「ん?」

 ボクの言葉に、珍獣は首を傾げる。

 ……お兄ちゃんなら、それだけで分かるのに。


 「……ボクは、皇子に魔法をかけてる」

 「え?そうだったのか」

 すっとんきょうな声をあげる珍獣(あに)に、そうだと頷いて、ボクは話を続ける。

 「だから、あの皇子を殺すのは愚策。厳禁。許さない」

 「いやいや、誰でも良くない?魔法でどうこうするなら」


 「ばか」

 「なあアルヴィナ?あの皇子ってばクソだぞ?クソボケチートだぞ?

 アルヴィナにばかって可愛く言われるのは良いけど、あの皇子を庇うのは戴けない」

 「それは分かる。幻惑魔法、勝手にすぐに解除された。

 ……でも、本人の精神に影響がない魔法には、逆に気が付かない。彼の精神が、明鏡止水の心が、水面に浮かぶ波紋を消し去るけど……

 逆に、波紋が出ないものは見逃してくれる。下手に勘づかれず、地位が高くて、色々分かる

 これ以上のものはない」

 だから重要、とボクは彼の重要性を説く。

 

 「……彼を通して、すぱい?してるのが、一番良い」

 「あのクソと近付くのは兄として不安なんだけどなー」

 少なくとも、兄でなくなった珍獣より不安になる要素はないと、ボクは思う。

 

 「だから、今日も見てた。

 彼に喧嘩売る変な人が、彼に調子の良い事言ってたから、気になったから。

 本は、その見るための道具。本なら何でも良かった」

 「へぇー、そうなのか」

 「そう。彼の聞いた音が、ライトで照らしたページに文字として本に重なって見えてた。だから、読んでたのはそっち」

 「アルヴィナがお兄ちゃんの為に熱心で嬉しいよ」

 うりうり、とあいも変わらずに帽子を取ってボクの頭をくしゃくしゃに撫でる兄の体。

 くすぐったそうな形で頭を振ってそれを抜け出し、ボクは……

 

 「そして、一つ見付けた」

 わざわざあんまり近寄りたくない家に来てまで、この兄面の珍獣に聞かなきゃいけないことを切り出した。

 

 「ん?真性異言(ゼノグラシア)か?

 誰?あのクソチート皇子?」

 「違う」

 違わないけど、違うと言う。


 「ユーゴ・シュヴァリエって名前の、異国の姫の婚約者」

 「異国……って聖教国だよな?で、姫ってのはヴィルジニーちゃん」

 「そう」

 「え!?あの子の婚約者って、第八皇子じゃなかったっけ?ってかユーゴの婚約者はアステールの方で……

 いや、違うから真性異言(ゼノグラシア)なのか」

 ぽんと手を叩き、青年は勝手に納得する。

 

 「それにしても良く分かったなーアルヴィナ。偉いぞー」

 「発言が凄く分かりやすかった」

 「何だ、ちょっとは役に立つなあのチートも

 んで、何か他には?向こう持ちのチートとか、分かった?」

 「かんぺき」

 「おし!どんなの?」

 「えーじーえっくす?」


 そこは、良く分からなかった。ボクがあの皇子の首筋に付けた所有権の証や、甘噛みしてボク自身の需要を満たしつつ耳に付けた盗聴……何て言うべきだろう、彼はボクのものにする相手で、だったら盗み聞いてる訳ではなくて。

 ……思い付かないし盗聴でいい。盗聴魔法もまた、彼やボクが理解していなければふわふわした字で書かれてしまう。


 例えば、神の名。ボクには読めないし分からないから、彼がしっかりと発言していても魔法を通して文字化されたときボクの目には何とかティリスとしか映らない。

 それと同じ。彼はちゃんと発言してたけど、それは聞いた言葉を繰り返してただけ。意味が分かってないから、そんな言葉になる。

 

 「AGXだって!?」

 「しってるの?」

 「もうちょっと詳しく言ってなかったか!?」

 「……あんちてーぜ?ぎがなんとかっくす?」

 「アンチテーゼ・ギガント・イクス」

 「そう、それ」

 「マジかぁ……」

 何時も無駄に自信満々な彼にしては珍しく額を抑えた珍獣(あに)に、ボクはこてんと首を倒して聞いてみる。

 

 「なに、それ?」

 「アルヴィナ、もうちょっと思い出してくれ。AGXの時点でヤバイのはヤバイけど、その後の型式番号でヤバさは変わるから」

 「そうなの?」

 「エーネヌシーって無かったか?」

 「あった気がする」

 「……良かった、そっちかぁ……」

 「ないと、困るの?」

 分からなくて、聞いてみる。

 

 「マジでヤバい。ANC付いてればまあそんな強くないっていうか……いや、13や14や15はマジキチ性能してるけど、8まではただの雑魚だし、9はまだ重力炉の装甲転用が出来てないから脆い雑魚だし、10は精霊の蒼輝霊晶吸収用の支援機だから単体ではゴミだし、11は回収した蒼輝玲晶の人類転用機だけど技術不足でロボじゃなく小型のパワードスーツにするしか無かったものだから王剣で斬れば死ぬ雑魚だし、12は精霊捕獲用の木偶の坊の雑魚だしな。全部負けるわけねぇ。

 って、アルヴィナにそんなこと言ってもしょうがないんだけど」

 ……そんなことは無い。


 というか、だ。ふぉーてぃーん?って、何だろう。

 ふぉーって、力に近い言葉が入っているけど、どんな数字なんだろう。多分異世界の数え方で、兄が言ってた何れかだとは思う。でも、ボクにはふぉーてぃーんってのは良く分からない。

 

 「……ううん、面白い。

 もっと聞きたい」

 「ん?そう?アルヴィナは熱心だなぁ」

 「えーえぬしーがないと、何が違うの?」

 「ANC(アンセスター)ってのは、原作において付けられてる称号なんだよ」

 「……どういう、意味の?」

 「意味としては先祖のって意味。

 30年後の未来から送られてきた技術に対する敬意として付けられた言葉。

 ……って言っても分かりにくいよな。長くなるけど聞く?」

 「聞く」

 テーブルの上にある、魔法で保温してあるお湯に茶葉を浮かべつつ、ボクは頷いた。

 

 「まず、とある世界があった。

 ま、ゲームの設定なんだけど」

 「うん」

 世界という樹を思い浮かべ、ボクは頷く。


 世界とは大樹のようなもの。ボク達の居る此処は、その枝の一本にも等しい。他の枝は、他の世界。近い枝は似たような世界で、真性異言(ゼノグラシア)が記憶している前の世界くらいに離れた世界は、幹に近いほどに遡ってから分岐している遠い枝。

 その世界群を取り囲む空間こそが、ボク達の神であり、この世界では万色の虹界と呼ばれる混沌。

 そしてボクたち魔神族の本体は……世界の狭間……といってもそこではなく、この世界の枝の空白の部分に封印されている。世界と世界の間なら、故郷のようなものだから別に何にも思わない。でも、この世界の空白の部分には何もない。だから皆、あの場を抜け出して世界を混沌に染めようって思っている。


 混沌から七大天と呼ばれる神々が切り分けて作り上げた世界を、元あった混沌に戻そう、と。

 でも、だから分かる。他の世界の存在は普通に頷ける。

 

 「その世界に、ある日とあるものが現れた。

 その世界の人類には理解できない化け物。会話も通じず、何も分からない。

 彼等人類に理解できたのはたった一つ。彼等は、人類の歴史を終わらせに現れたのだということ。

 人類は彼等を、謎の存在Xと呼んだ」

 「……ボクたちに近い?」

 「そうかもなー」

 興味なさげに言って、青年は続ける。

 

 「当然、人類は持てる力の全てを使ってXに立ち向かった。けれども、全く敵わなかった。戦闘機、戦車、ミサイル……何もかも無意味だった。

 その世界では最強の火力を誇るとされた核兵器という兵器すら、爆心地の近くに居る相手にしかダメージを与えられなかった。

 そうして、人類の歴史を終わらせる為に現れたX達は、特に街を重点的に襲い、人類は散発的な襲撃で人口の3割を喪った」

 「……死にすぎ」

 「怖いだろ?

 そして、人々は都会……つまり人が集まってた街を捨てて人が少ない場所に移っていったり、そこで人が増えたらXが来る!と人同士で殺しあったり色々している中、漸く人類はXへの対抗策を見付けるんだ」

 「倒せないのに?」


 「そう。彼等は倒せない。

 けれども、Xは突然現れて、突然消える。その世界に留まれる時間には限りがあったんだ。そして、人類の歴史を終わらせる為に現れる彼等は……人と、人の作ったものを特に優先して破壊しにかかる。

 そう。人の乗った乗り物に対して、Xは優先的に攻撃を仕掛ける。

 あとは、時間切れで居なくなるまで逃げ続ければ良い。何度かの実験で、人型だと特にXに優先的に襲われるということが更に分かった。

 そうして作られた、人類史を終わらせる者へのアンチテーゼたる人類史の機械巨人、それがAGXアンチテーゼ・ギガント・イクスなんだ」

 へぇ、とボクは頷いてお茶を啜る。

 

 「つまり、人型の、逃げ回るものなの?」

 「そう。当初はそうだった。攻撃が当たれば死ぬ。だから命を懸けてXから逃げ回る為のものだった。

 けどさ?逃げ回ってても何にも解決しないだろ?」

 「当然」

 「だから被害は減っても、無くならなかった。更にはXの上位種、自らを精霊と名乗る少女達も現れ、世界を終わらせにかかった。


 日本と呼ばれる島国は、土地ごと砕かれ、アメリカと呼ばれるその世界最大の国家が2人の精霊によって屍の荒野になった頃。

 日本戦線から戦い続けていた一人の青年、真上悠兜によって遂に反撃の兆しが産まれた。それが、縮退炉。

 ちょっと前に言った核動力の更に発展版、時空をねじ曲げるブラックホールと呼ばれるものを作り出してエネルギー源にするそのエンジンによって、初めて人類はXを倒す事が出来るようになった。

 そして、人類とX……いや、精霊との生存競争は熾烈を極めた。

 

 そこはゲームでも割と曖昧なんではしょると、そうして25年の月日が立ったある日。遂に、撃破したXを研究し、精霊を捕獲しと大きな被害を受けつつも進歩を続けた人類は、真っ向から精霊を撃破しうる超兵器を完成させたんだ」

 「それが、ANC?」


 「いや違う、もうちょい聞いててくれアルヴィナ。

 その機体の名はヴェールヌイ。Xが実は人類を殺す際に発生する負の心の力をエネルギーとして回収している事に気が付き、その真逆、大事な人との記憶といった正の心の力を取り出して戦う機能、前に出てきた縮退炉、そして捕獲した精霊を生きたまま積み込んだエンジン、その3つを使ったスーパー兵器だったんだ。

 けれども、精霊すら越える脅威に、精霊の親玉精霊王が現れたんだ」

 「まだ続くの?」

 もう、随分話を聞いてるのに。

 

 「その当時、既に元々は60億人居たと言われる人類は5万人くらいまで減っていた。

 如何に凄い機体が出来ても、もう人類は終わりかけだった。だから、人類は……

 一つ、最後の生き残り作戦を決行したんだ」

 「?」

 「彼等諦めない者達が精霊王に勝てれば良い。そして、そこで終われば良い。

 でも、Xを倒せるようになったと思ったら精霊が、精霊に立ち向かえるようになったら精霊王が現れた。万が一精霊王に勝てても、また次の段階があるのでは?精霊神とか出てくるのでは?

 そう思った人類は、自分達の意識をナノマシン……って言っても分からないか、不思議な機械に移したんだ。

 そして、当時漸く完成した時間を巻き戻せる装置、AGX-14Bアガートラームと呼ばれる決戦兵器に積み込んでいたソレを使い、自分達の意識を過去に送った」

 「許されたの?逃げるの」

 

 「当然、徹底交戦派には渋られた。

 でも、対精霊王用に作ったアガートラームでも、精霊王に勝てなかった。結果、その残骸のエンジンと、人口が減りすぎて作ったは良いけど乗れる人が居なくなった機体を使うことを彼等も……というか、たった一人残って戦い続けていた真上悠兜も認めたんだ」

 「……そして?」

 「そして、人々は過去に飛んだ。まだXすら現れていない平和な時代に、AGX-14までの技術と、量産型13の実物、そしてボロボロだけど最新最強の14を持って」

 「……うん」

 その先は、予想できた。

 

 「そして、再びXが現れるはずのその日。現れたXは、未来から持ち込まれた技術によって作られた機械巨神によって倒されたんだ。

 そこから始まるのが、ゲーム本編。真上悠兜の物語。

 そして、本当にXや精霊の脅威があると知った過去の世界の人類は、未来から送られてきたデータベースに存在する方のAGXを、敬意を込めてAGX-ANC(アンセスター)と呼ぶことにし、自分達が現代で作り、改良していく方を普通のAGXと呼んだんだ。

 まあ、データに残るAGX-13を元に作ったのがAGX-01なのは分かりにくいしな」

 「そのままで良かったのでは?」

 「いや、最初の試作から13じゃ格好付かないだろ?やっぱり1からナンバーがないと」

 

 「……選ばなかったの?」

 ふと、聞いてみる。

 この珍獣は、凄い力を選んだと言っていた。真性異言の特異な力は選べたと。

 ならば、あのユーゴという少年もきっと選んであのえーじーえっくす?を手にしたのだろう。

 聞く限り、中々に凄いものに聞こえるけど……

 

 「ん?流石に王権ファム・ファタールの方が強いぞ?

 いや、疑似じゃなくて本当に精霊を組み込んだレヴ搭載型のヴェールヌイ(13zwei)アガートラーム(14B)アルトアイネス(15)アルトアイネス(15)リーゼ(S)辺りは分からないけどさ。普通のAGXよりは間違いなく王権のが強い。

 そしてさ、そもそもあれ指定はできないしな。AGXは選べたけど、何かは分からなかった。

 そんなギャンブルしないって。コフィン内の響ちゃん付属なヴェールヌイ確定とかなら流石に選んだけどさ」

 そんな兄の言葉を聞いて、ボクは……

 

 彼……第七王子は神に何を選んだのだろう。ボク……だったら良いな、なんて考えていた。

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