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弱いもの苛め、或いは切り札

「おいおい、敵前逃亡かよ、ユーゴ!」

 真剣を振りかぶり、膝を折った格好のままおれに向けて剣を振る騎士の女性を避け、脱兎のごとく逃げ出した少年を追う。

 

 が、脇目もふらずに逃げ出した少年への道を塞ぐように金属の甲冑を纏った警備の私兵達が立ちはだかる。

 蹴り飛ばせば先へ進めるだろうが、それは不味い。何たって、近くにはナニコレと事態を見守る皆が居る。下手に攻撃して彼等に当たっては酷だ。

 あくまでもおれの敵はユーゴただ一人だけなのだから。

 

 「……ところで枢機卿?」

 よろよろと剣を杖に立ち上がろうとする女騎士は無視して、おれは難しい顔で佇むエメラルドの男へと顔だけ振り返る。


 「敵前逃亡されたんだけど、もうこれ勝ちで良いんじゃないんですか?」

 「……そうですわお父様。

 見ましたでしょう?わたくしが散々馬鹿にしていた皇子ですらこうなのです」

 「……しかしだね可愛いジニーや」


 「お父様。わたくし、彼くらい越えられる力もない相手とは婚約なんて御免ですわ。

 特にあのユーゴ。情けないにも程があります。ええ、負けそうになる度に他人に助けられて。最初から三人で掛かれば勝機もあったでしょうに、それをみすみす捨てて、各個撃破された」

 「ユーゴ様を馬鹿にするな!」

 

 おっ、と。


 立ち上がれた女騎士が遠くから剣を振るってきた。

 普通届くはずもない距離だが……


 バシン、と額を叩く衝撃に、おれは軽く仰け反る。

 「貴様など、ユーゴ様が本気を出すまでもない!」

 「ああ、やっぱり烈風剣か」

 よっ、と頭を戻しつつ、そうおれは一人呟く。


 烈風剣。おれが自前のスキルで放っている飛ぶ斬撃とほぼ同じものだな。本来はスキルで放つものを魔法で再現して剣に刻み込むことで誰でも好きなだけ撃てるようにした武器だ。

 具体的にゲーム内でのスペックを語ると、剣レベルCで使えるようになる剣で、重量6、攻撃力7、耐久力25、射程2に対しても攻撃、反撃が出来るがその場合武器攻撃力数値がダメージ計算に乗らなくなり奥義が発動しない効果付きだったはずだ。

 

 「バカな!効いていない!?」

 一人勝手に愕然とする女騎士。

 ……ところで、彼女は何で素より火力の下がる遠距離攻撃を仕掛けてきて効くと思ったんだろうか。


 「……あんまり撃たないでくれよ?周囲の人間には大怪我だからな」

 「煩い!」

 叫びつつ、女性は今一度その手の烈風剣を横なぎに払う。

 だが、ノーコン、いや、狙ってのことだろう。その刃の軌跡はおれを狙うにしては少しズレていて……

 「ちっ!」

 判断が遅れた!ってか、気軽に他人を巻き込むな!決闘を何だと思ってる!?


 「関係ない人間を巻き込むんじゃねぇ!?」

 左への横っ飛びで射線に飛び込み、腕をクロス……させては左手を使ってしまう事になるので右手だけを掲げて斬撃を止める。

 まったく、服はおれじゃないせいでダメージ受けるんだが?と、破れた袖をこれは決闘に無関係だしなと左手で千切り、ぼやく。

 

 「決闘はシュヴァリエから全てを奪った悪しき呪術!やってしまえクリスくん!」

 公爵に至っては、寧ろ観客巻き込みを推奨しているし。

 いや、良くこんなのが公爵やれてるなオイ!?と突っ込みたくなる。決闘は全てを奪ったも何も父的にはシュヴァリエ公爵家自体が割とアレな扱いである。

 シュヴァリエのところか、と訳あり奴隷を自前で買っていった程だ。現在の皇家からしてみればシュヴァリエというだけで白い目で見られる。

 いや、子供に罪はないだろうと令嬢のクロエは普通に初等部に入れていたりはするのだが……

 

 「問答無用!」

 「問答無用じゃないだろ!?」

 普通の人間を巻き込んでどうするんだよ!?

 そうして、更に跳び、給仕の役目として居たまま巻き込まれたのだろう青年を庇おうとして……

 「ぐっ!」

 背後から青年に抱きすくめられた。


 アルヴィナがやっていたような此方に体を預けるのとは真逆、むしろおれの動きを封じるための抱擁。

 ちっ、お前もかよ!まんまと誘導されたというオチか。


 「ふっ!甘いですね。

 では、終わりです」

 拘束されたおれを見て、悠々と魔法書を広げ唱え始める女騎士。

 おれの足は地に着かずに揺れる。流石に大人との体格差はどうしようもない。


 ……って、普通ならな。

 全く、鍛えた人間ではなくそこらに居た使用人で良かった。荒っぽいことはしたくないが……

 「っらぁっ!」

 膝を折り、背後へと足を跳ねさせる。狙うは……股間!青年にとっての急所。

 「!!!!!!」

 言葉にならない悲鳴。おれを抱きすくめる腕の力が緩み、左腕を使わずとも強引に振りほどける程度となる。


 そのままおれは拘束を抜け出し、地面に降り立つ。

 「食らいなさい!」

 そのまま、人の居ない方向に駆け出して……


 気が付く。

 股間を抑え蹲る青年。ついさっきまでおれの居たその場所を、女騎士は見据えたまま。

 その手の魔法書が強い輝きを放つ。

 「……え?クリス、さま?」

 「捕らえ続けられなかった罰です」

 「っ!」

 ……その声に、おれは地を蹴る。


 敵ではある。だが、彼等だって主人が居る。その主人から言われて逆らえばクビになるかもしれない。だから、仕方の無いこと。責める気はない。

 そんな彼等が、狙われるというならば……

 護るべきだろう!

 

 「伏せろ!」

 「……は、はいっ!」

 ついさっき抜け出した場所へと辿り着く。


 刹那。

 「『ハウリング・テンペスト』!」

 詠唱が終わり、魔法が放たれる。

 竜のアギトのような姿をした、横向きの竜巻。貫く魔法が蹲る青年に、その眼前に立ちふさがるおれに殺到する。


 耐えられる保証はない。まあ、火力的に一撃死は無いとは思うが、どんなダメージを受けるかなんて分かったものじゃない。

 だが、それでもだ。ほぼ見ず知らずでも。下手したら死ぬ青年を見捨てるわけにはいかないだろう!

 奥歯を噛んで、迫る嵐の魔法を睨み付け……

 

 しかし、衝撃は無かった。

 「刻め!焔のアギト!『ハウリング・ブレイズ!』」

 おれに直撃する寸前。横から現れた竜のような炎が、竜巻を巻き込み粉砕する。

 「……エッケハルト」

 おれと同じ真性異言の少年が、一冊の魔法書を手に立っていた。

 

 「流石にふざけてる。こんなの、決闘とは言えない!

 これ以上やるなら、このエッケハルト・アルトマンが相手になってやる!」

 「……ぐっ!」

 まあ、酷いことの自覚はあったのだろう。

 怯んだように女騎士が後ずさる。

 

 「待たせた!クリス!」

 そして、漸く彼が戻ってくる。

 金髪の少年、ユーゴ・シュヴァリエが。その外見は着替えたのか千切れたネクタイも伸びた襟もまともに戻っていて。

 もう一つ、目に付くのはその右手に付けられた時計だ。

 「……時計?」

 「どうしたんだゼノ?」

 すっと目を細め、その文字盤を見る。

 

 12時までを指すことが出来る少しベゼル部分がゴツい一般的な腕時計……

 って違う!とおれは自分で自分の思考に突っ込みを入れる。


 そう、12時までを指すことが出来る時計。それがそもそも可笑しいのだ。

 この世界の一日は8刻に分けられている。この世界の時刻は一時間を12分割することも一日を午前12時間午後12時間とすることも無い。そんな此処マギ・ティリス大陸の時計は1周1刻、そして1周するごとに今何の刻なのかを表す8面の板が回転していく1針+8面板形式が一般的。

 1~12の文字盤に長針短針の二本針。それは……明らかに此処ではない世界の時計だ。

 

 「……何だ、その時計」

 「ん?これが分かるのかよ皇子!」

 戻ってきた少年は、もう大丈夫だとばかりに女騎士を下がらせ、おれの前に立つ。

 

 「これは我が力」

 「……神から与えられた、か?」

 「はっ!」

 バカにするような笑み。

 おれの疑問を笑い飛ばし、少年は大袈裟な仕草で、鍵のような姿のネジを時計に差し込もうとする。

 

 やはり、ならばアレこそが、彼の切り札なのだろう。見ただけで分かることだが。

 「……させるかよっ!」

 ネジを巻くことが何らかの切り札になるのだろう。それを防ぐべく、おれは少年へ向けて歩みを進めようとして……

 

 『G(グラヴィティ)G(ギア)Craft-Catapult Ignition.

 Aurora system Started.

 Lev-L.U.N.A Heart beat.

 Tipler-Axion-Cylinder Awakening.

 A(アンチテーゼ)G(ギガント)X(イクス)-ANC(アンセスター)14(フォーティーン)B (バスター) 


 《Airget-lamh》


 Re:rize』


 風にのって響く電子音。

 「っ!」

 刹那、脳裏に閃く悪寒。


 何かが動く気配。

 おれはそれに突き動かされ、咄嗟に歩みを止めて後ろに跳び下がる。

 

 そんなおれが真っ直ぐ進めば居ただろう地面が、突如鈍い音をたてて陥没した。

 「……は?」

予告


この先それなりの苦戦がありますので、ユーゴ戦は土曜までに全投稿します


短いスパンとなりますが、お付き合いください

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