朝焼け、或いは銀の誘い
「あ、皇子さま。奇遇ですよね?」
と、絶対に待っていた少女に語りかけられたのは、2日後の朝方の事であった。
……アナ?此処何処か分かってるよなアナ?
うん、アイリスが寝落ちして昨日の開発が終わった格納庫の入り口だ。しかもカモフラージュされてる。
「奇遇……か?」
「奇遇ですよ?」
圧が怖い。軟からな笑顔で黒いものが何もないからこそ、底知れない何かを感じ取ってしまう。
「はい、奇遇です。
皇子さまの目元に隈は無いですし、呼吸も何時もより整ってます」
と、白い指がおれの火傷痕の目元を撫でる。
「つまり、ちゃんと寝てくれたって事ですよね?」
……アイリス本人が頑張って出向いてたからな。そりゃ寝る。おれが寝ないとアイリスが安心して寝落ち出来ない。
いや、自室かおれの横でないと寝られないって大丈夫かアイリス!?信頼出来る相手本当に他に居ないのか?とはなるがまあ良いか。
「だから本当に奇遇なんですよ?普通、此処で会うのは皇子さまがやっぱり無茶した時だけですから」
えへへ、という照れ笑い。心配しか感じない、だからこそ重い。この信頼を裏切らなきゃ光すら見えない事実が、何より喉を焼く。
「……で、アナは何を?今日は皇帝誕生日だろう?」
休みの日だ、だからって休む暇があるかは互いに別だが……。ん、そういやリリーナから今日は練習無しでって聞いたな。確か桜理と出掛けたいとか。
「ということでです、皇子さま。今日は何の日か知ってますか?」
「休みだろう?」
他に何かあったろうか。……うーん、この時期だとロダ兄絡みで固有イベント進行出来る時期だっけ。後はシルヴェール兄さんと婚約者絡みとか、フォースENDフラグとか。頼勇はゲームではまだ居ないし、おれルートは救済枠だから時間制限系イベント無いし……。エッケハルト?あいつ昨日愚痴りながら聖教国に向かったから除外。
となると、ギャルゲー版絡み?いやでも特に何もないよな?いや、2年に上がったから解放される系のイベントはあるんだけど、今日やらなきゃってのは無いはずで……
「お祝いのお祭りの日、ですよ?」
あ、……それか。はにかむ少女を前に自分の脳ミソの足りなさに嫌気がさす。
うん、そういやそうだったな。授業がない事と皇帝絡みでイベント起きるのアイリスだけで、しかもそれ好感度稼ぎの意味しかない奴だからってゲーム知識だけで考えてた。
当然、自国のトップの誕生日なのだから王都はお祭り騒ぎだ。
「そういや、次のライブ此処に合わせなかったんだな」
「えへへ。皇帝さんに止められちゃいました」
……何やってんだ父さん。
「ほら、わたし達は聖女ですから。『此処で一個うちの国に肩入れし過ぎてない状況を作っておけ外交が面倒だ』って」
頑張って恐ろしそうな声音を出すが、全く似てないぞアナ。
「分かった。付き合うよ」
ということで、とりあえずそう言っておく。
「あ、素直ですね皇子さま。色々と言われるのかって思いました」
「言えるものなら言いたいが、どうせ押し切られるのは目に見えてる」
肩をすくめて、おれは言う。
うん、こういうところでアナの誘いを断れた試しがない。ならもう断る意味無くないか?
そんなおれの言葉を聞いて、何か持っていたノア姫が物陰で頷いていた。何やってるんだあのエルフの媛。
「ノアさんに頼んだんですけど、要りませんでしたね」
「寝落ちが早いから。アイリスも休まないと」
頼勇は……もうちょっと頑張れそうだが。逆にそれが怖いよな。限界寸前までは頑張れるからこそ、糸が切れるというか……
「あ、皇子さま今自分を棚に上げましたね?」
むっ、と少女は眉を顰めておれの頬を手にしたハンカチで拭う。別に汗とか……と思ったが、想像より多かったのか離された布は湿り気を残していた。
「……かもな」
ノア姫、わざとらしく目元を拭わない、親か。辺境に居た頃見守ってたし親みたいなものか……
「なので、皇子さまには命令です」
微笑んで少女は己の手をおれに向けて差し出す。これは……断っても良いのだろう。手を払い除けた時にされるのは悲しそうな顔だけだ。
「何を?」
「昔わたしを連れてってくれたように、お祭りを回りませんか?」
けれど、それは中々に魅力的な提案で。
「リリーナちゃん達と」
「それ邪魔だろ」
「え?寧ろ必要だと思いますよ?横にわたし達が……特に皇子さまが居ないと、二人とも後ろめたさとか色々でやや距離を置いちゃいますから。でも、皇子さまが一人だとそれはそれで気にしちゃうと思います。
だから、わたしと行きませんか?」
見据える蒼い瞳はとても真剣で、嘘はない。というか、言われてみると桜理等ってそういうところがあるよな。特にリリーナ、たまに凄く前向きなのに後ろ振り返りまくるというか、やや離れた位置で見ててやるのが一番なのかもしれない。
「……って、アナの欲望混じってないか?」
「わたしが皇子さまと回りたいのは前提ですよ?」
そう返されるとさらなる言葉が出てこないんで止めてくれ。
「……じゃ、ボクも」
と、影から姿を見せるのはアルヴィナ。帽子も被ってフル装備だ。
「あ、アルヴィナちゃんは……
行きましょう。いっそ【天津甕星】勢揃いって方が緊張もしな……しない、ですよね?」
そこは言い切れアナ!?
だがまあ、全員揃ってたほうが良いのかもしれないというのは分かる。一応リリーナ、対外的にはおれと婚約してるし……
というか、いつの間にデートの約束とかしてたんだ桜理?まあ良いというか、男として生きるってだけなら応援したいんだが。
「あ、皇子さま。一緒に回ってくれるなら頼みたいんですけど……あの日みたいに、西方系の服装してくれませんか?」
無理難題だな!?
「っ!呼んだな剣兄!そして我が魂妹よ!」
「いや呼んで……呼んだか。」
現れた西方の偉い人件何か懐いてくる弟弟子に向けておれは苦笑した。コイツも割と自由だなおい。




