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補習、或いは桜色の追伸

「で、何か皆来ると」

 「じゃ俺帰るから」

 「お前は帰るな補習組」

 「おめーのせいだろゼノ!お陰で目を付けられてデート行けなくなったじゃんか!」

 と騒ぐ焔髪の青年に悪い、と苦笑する。


 ……いやデートか、悪いことしたな。

 「アナと」

 「嫌味か貴様、アレットちゃんだよ。デートっていうか、これでも辺境伯だし?良い感じの盾を作れる職人に仲介してあげるからって奴」

 「向こうはデートのつもりだと思うぜ」

 なんて話題に乗ってくるのは桃色の一房を持つロダ兄。

 「えぇ?それ不誠実じゃ」

 と、一般的な意見を零すのは桜理、今日も何処か縮こまっているが、意見を出せるくらいには溶け込んでいる……で良いのだろう、うん。

 「そうかい?俺様とデートするかワンちゃん?」

 ぽん、とおれの肩に……ジュース瓶を置いて、にっと青年は笑った。


 「って事。デートってのは縁、それを繋ぐ約束だ。

 別に、絶対に恋愛に繋げなきゃ行けないってわけでもないんだ、これが」

 ひょいともう一本出してお行儀良く座る桜理の前に置きつつ、机に腰掛けていた青年はそこから降りて手を振った。


 「じゃ、俺様一旦去るとするわ」

 「いや何しに来たんだロダ兄」

 「血縁転じて災いを為すってな。ワンちゃんの顔見て、居なくて良さげだから帰る。

 居たら居たで既にある縁ってのは否応なしに絡まるものだから、最初に縁を結ぶにゃ向かないぜ?」

 言われ、何となく納得する。つまり、フォローしに来たけど要らないっぽいから帰る、と。

 言われてみれば、ロダ兄とサクラ・オーリリアって血縁っぽいし、姓がオーリリアで髪も桃色混じりなことからメリッサとも繋がってる。

 確かロダ兄は大分前に家を出てった家族を探してて、多分それがサクラとその母。メリッサも聖教国に流れ着いてる辺り家は出てるが……サクラが生まれてないくらいに家を出たはずの割にそもそも10年ほど前に頼勇と出逢った時と今の姿がほぼ変わらないとすれば可笑しいから無し。12歳くらいで母になったなら分からなくもないが、その場合頼勇と会った時に娘か息子連れてるだろう、多分。その子が亡くなってなければだが……無いな。そうならば言動に出てこないのは可笑しい。

 というか……


 「やっ、本当に受けに来るとはぼくもやや驚きだよ。

 にしてはぼんやりさんだ、眠かったのかい?」

 と、不意に声を掛けられて目線を上げれば、其処には桃色の髪を揺らす女性が立っていた。

 メリッサ・オーリリア。歳の頃は18前後、おれよりやや上に見えるくらいで少女さが少し残る女性と言えるか。背丈は高い方……ではないな、多分。アナ達おれの知ってる女の子の平均身長が低いから相対的に高く見えるが、測れば160cm無いくらいだろう。

 纏う雰囲気はノア姫に近いが、もっとさらりとしている。あっちが凛と張り詰めたような雪国の朝とすれば、こっちは涼しい秋の朝のそよ風……って何を詩的にしてるんだろうなおれは、聞く始水も居ないっていうのに。

 纏う服はシンプルなもの、何処となくこれもノア姫に似てるが大分ミニなスカート以外男性でも着るレベルなあっちと違ってややガーリッシュ、ブラウスにレースがあったりと女の子らしさが増している。

 何より目立つのは全体が桃色のポニーテールに纏められた髪。女神か晶魔の加護を現すその色が全面に出ているのはかなり特徴的だ。黙ってても七大天に選ばれたとか言われてそうなこれで異端扱いとして死んだらしいんだから畏れいる、どれだけ初授業で語ったような己の論を貫き通したんだ?


 「いや、目が覚めた」

 「それは何より」

 そんな、他愛も無いが互いに探り合うような会話を交わしつつ、おれは周囲を見回した。

 当然ながら、もうロダ兄は居ない。斜め前の席でやや居心地悪く桜理が縮こまっていて……居るのはそれだけだな。

 

 おい、エッケハルト何処行ったお前。

 

 なんて思うが、何となく理解は出来なくもなかった。おれが思案として意識を飛ばしている間にデートだと逃げた、だろう。

 うん、責める気はない。アレットは結局おれは何ともしてやれなかった相手だ。交流して何かを思ってくれるならそれで良い。アナは良いのかよと思うが、それこそこんなこと言ったら始水以外の全員からお前が言うなされる気がする。

 ……ノア姫からも言われる気がするのは理不尽だな。なんて自分の妄想にツッコミつつ、おれは相手へと向き直る。


 「……来なくてよかったのか」

 「アレで本当に補習を強要されたらたまらなくはないかな?半ば冗談さ。

 ぼく自身も、きみと……後はその他色々な子と話したかっただけ。来なくても、警戒されても、文句は言えない」

 告げる若草の瞳はキラキラとしていて、とてもこれが死人のそれには見えない。が……生きていたら可笑しいと意識を取り戻す。


 「あ、大丈夫?きみの<鮮血の気迫>、発動は抑えてやりたいけれど、抑えられてるかな?」


 ……いや待て。この世界ゲーム的にシステマティックに管理してる部分はある。ゲームみたいに型に嵌めて上限決める、その方が介入者も型に嵌めて力を抑え排除しやすいらしいとは始水が4年ほど前に言っていた……ような気がする。

 が、だ。元ゲームでの所謂スキルって、別に見えるものじゃ無かった。おれはゲーム知識から判断してたがこの世界の者が理解してるわけじゃない、ぶっちゃけると下級職という普通の魂の有り様してる中にはゲーム的に低レベルで生えてくるスキルの効果を実は使えるんだけど死蔵してる人間なんてごまんと居る。クラスチェンジしてるレベルだと意図して人を超えているからそんなことはほぼ無いが。

 そして、<鮮血の気迫>は相当上の方のスキルだ。それを持ってると断言出来るの……可笑しくはないか?ゲーム的にもおれ以外だと習得相当キツイぞ?ってか、上位互換持ってる父さんは無視したら今の時代にアレ使えるのおれ一人じゃないか?


 「……何を」

 「ぼく自身隠してはいないよ。獅童三千矢(しどうみちや)君と、早坂桜理(はやさかおうり)君、で良かったよね」

 

 真性異言(ゼノグラシア)!?


 「ああ、違うよ。そんな物騒なものは仕舞うこと。先生との約束だ」

 思わず構えた抜刀体勢で、おれは息を吐いて右手を呼び出した愛刀の柄から離し……見えないよう服の袖に手の甲からアルビオンパーツを手首へとスライドさせながら敵意はないとばかりにやや大げさに手を上げた。


 「うん、ぼくが知ってることは……大体きみが知ってる事、主から教わったからね」

 ……何言っているかちょっと分からないなと、桜理と共に首を傾げる。

 「ああ、簡単に言うと、知っての通りぼくは死んだ。いや、情けなかったねあれは。自分の身くらい自分で分かるし治せると、過信していたツケだよ。

 ということで、君達の疑い通り、ぼくはとある力で生き返った……というより動く屍だね。諸事情あって友人の久世・ラーワルの権能でもって少しだけ君の兄上さんと意識を入れ替えて、雇用書類を偽造して此処に居る」

 あっけらかんと告げられて、おれは目を瞬かせた。

 いや待て、考察はしていたがここまで明かすか普通?


 と、「ああ」と話題を変えるときの口癖を零しながら女性は肩を竦めた。

 「何でそんな、なんて話題はなし。きみと同じくぼくにも隠さなきゃ怒られることはあるよ、【勇猛果敢(ヴィーラ)】」

 ……どう考えても語ってないか、それ?


 さて、分かったことがある程度ある。推測通り、所属はラーワルと同じで切り札側。見て分からないし気配を感じないので、三首六眼とされる幹部級……と言って良いのか分からないが毒龍の【情動(ラサ)】を司る枠ではない。

 死んだことを語る以上は何らかの力で生き返ってる訳で……死人については一家言あるアルヴィナに聞ければ良かったな。


 というか、何を忘れてたんだ、受業中じっと眼前の敵を観察していたろアルヴィナ。


 兎に角、死霊術等色々とそれを為せる技があるが……。

 「名もなき願いの神に祈り、【悲哀(カルナ)】の涙に呼ばれ、ぼくは居る。

 まぁ、今回は煙に巻くよ。きみだって隠し事は沢山さ。【愛恋(シュリンガーラ)】様にはお見通しだけど」

 ……確か、<白き玲明(マリス)魔を嘆き路照らさん(クルセイダーズ)>だったか。ルートヴィヒの持つ眼の権能。

 いやでも、あれは魔の死者を操る能力では?


 そう思うおれの横で、少年がびくりと大きく肩を震わせた。

 「オーウェン、大丈夫か?」

 「う、うん……ゴメンね王子、ちょっと気分悪くなっちゃって」

 と気丈に告げるが、顔は青ざめ唇はやや震えている。何を……というところで、その緑の瞳が自分の腕に……正確にはその腕に嵌ったゴツい黒鉄の腕時計に注がれていることに気がついた。


 ……ああ、そうか。自分の鈍さにイライラする。


 「メリッサ先生。本日は彼が気分悪そうなので付き添いで診て貰ってきますからお開きでお願いします」

 「ま、ぼくの補習は規則緩いから。今後も受業の日の後には補習やれるよ、気が向いたらね。

 死して成長というもののないぼくだけど、死に残れとされたならば愛弟子の話を聞くくらいの役得はあって良いときみも思うだろう?」


 それに頷くと、おれは軽い少年の体を背負って教室を後にした。

 「悪、いよ……獅童、君……」

 「悪くない、死なせない……お前は、君は。だから、これはケジメだ」

 掠れた声にそう返す。


 ああ、理解した。メリッサの存在自体が、死人を弄……んでまでは無いな、本人案外理解あったし。

 これは死人1人を使ったシュリからの警句の続きだ。シロノワール達に見せたあの権能の真の使い方は、晶魔の加護を受けた人間をも操れる。即ち、本来の使い方は……

 晶魔の加護のあるサクラ色の髪の少女早坂桜理(サクラ・オーリリア)の死骸を通してあの鋼の皇帝、AGX-15を操る事だ。


 そして、恐らくだが使い手の魂がシャーフヴォル・ガルゲニアによって回収されたろうから……円卓側はサクラを狙う可能性がある、という警告なのだろう。

 多分元々AGX-15へのカウンターとして用意した権能なんだろうが、バレたら怒られると思ってそれとなく教えたんだろうかシュリ。うん、怒らないからごめんなさいしような。いや、他の分裂した2人に余計な刺激与えない為に自分から言えないだけかもしれないが。


 メリッサの出現、シュリから教えられたらしい権能の力……しっかり考えれば分かるはずだった。

 いつの間にか前世姿を解いて少女になった軽い重みを背に感じながら、本人に直接突きつけられたのを見るまで分からないとは情けない、とおれは相手を安心させるべく前に回された手を握る力を強めた。

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