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道具、或いはパフォーマンス

「行こうか」

 と、おれは友人に語りかけた。

「いや、私まで行く必要が」

「頼む」

 言葉はたった一つで良い。それで理解してくれたのか、頼勇は頷いておれに従ってくれた。


 実際問題、気になるしな。戦力は多いほうが良い。威圧にもなる。

 ……と、おれは姦しい3人組を見ながら思った。いや、一歩引いてあまり興味がない態度を取ったままだから楽しそうな2人とアルヴィナ、と言うべきか。

 そして、近づいて見れば……


「じゃーん!どれが良さそうに見えるかなゼノ君?」

 と、腕を拡げてアピールするリリーナ。卓上には幾つもの……何だこれ?ってものが並べられていた。

 いや、分かる。何となく分かるんだが……だからこそ何だこれ。始水、どうなって……いや今は内心で叫んでも伝わらないんだった。


「これは?」

 だが、意図は分からない。なので問いかけてみつつ、周囲を伺う。

 興味無さげに今は露出している狼耳を揺らすアルヴィナ……はまあ、いつも通りと言えば何時も通り。帽子は踊るから今は無しだ。

 ふふん、と自慢げなリリーナ、ちょっと不安げにこちらを見るアナ。2人が関わっているのは当然として……何だろうなという頼勇と視線が合う。

「わっかるかなー?ゼノ君なら分かると思うけど、ほら昔の劇でやったんでしょ?」

 言われ、ほんの少し目を閉じる。っていうか、良く似たものは見たことある。獅童三千矢として、始水の所で見た。

 だが、それとそれとは……いや?そういう事かと手を打つ。

「変身用の道具、か?」

 そう、休日の朝方にやっていた少女向けアニメシリーズの主役陣が使っている変身アイテムにそっくりなんだ。

 何かとハートがモチーフだったり、大人のお姉さんを思わせるような化粧道具……コスメ?とか言ったっけ、その辺りの女の子らしさと女の子の憧れをモチーフにしたような道具群だ。グループでコラボ商品とか出してますからって始水が見てたのは覚えてるし、男子向けは分かりませんから意見下さいと周辺の番組ごと見せて貰ってたんだよな、おれ。


「だが、これは何をする為に?」

「ふふん」

 自慢げなリリーナの横からひょこりと顔を出した銀髪の聖女が卓上のものを一つ手に取る。女の子らしいハート型、多分ライトだろうか。

「次は途中でもうちょっと舞台演出を取り入れたいなっていう意見が出てるんです。なので、歌の途中で魔法で衣装を変化させられないかなーと思ったんですけど」

「そう、じゃパフォーマンスで変身してみよっかなーって思ってさ。

 昔私が……あ、前世のほうね?見てた女の子向け番組の中に、ゼノ君みたい……じゃないけどフリフリの衣装に変身するアニメがあって。それモチーフにアイリスちゃんに頼んで色々と作ってみたんだ」

 ……知ってる。とおれは曖昧に頷く。


 というかアイリスそんなことしてたのか……。いや、良い息抜きだったろうけど知らなかったな、おれ。良いことだ、何時か一人で歩けるようになった時に一人じゃないから。


「それでさ、どうかなゼノ君に頼勇様、何が良い?

 って、頼勇様は開発関わってるんだっけ、魔法書の頁を上手く組み込むのとかで」

「……設計までは。残念ながら起動したことはないから詳しくはどう動くのかまでは」

「じゃ、一個動かしてみるけど……アーニャちゃん、頼める?」

「はい、任せてくださいね」

 と、銀の聖女は手にした鏡……でもないか、金属製のハート板とそれを囲むハートの枠との二重式のハートの上に、リボンを重ねた。


「えっと、これで確か中のハートが回るようになりますから……」

 くるり、とハート板が半回転する。内部で魔方陣が噛み合ったのか、光が漏れた。

「あ、決まったら本来此処で音楽を重ねてサビに向けて盛り上げるみたいなんですけど」

 言いながら、少女はハートを持ち上げ、胸元できゅっと、下から手でもハートを作るようにして枠を握り込む。

 板は更に半回転し……ぽんぽんと光に包まれてアナの服装はフリルが増えたものに変わり、髪型も何時ものリボンが解けたかと思うとサイドテールからポニーテールに結び直された。


「はい、こんな感じですね。これはリリーナちゃんオススメのシンプルで可愛い奴なんですけど、起動させる動きが違うものがいくつもありますよ?」

 ニコニコ顔の少女に見つめられ、おれは視線を卓上に落とした。

「アルヴィナは?」

「興味ない。あーにゃんの好きな奴を選んでおいて」

「……リリーナ、これ個人個人で別のアイテム使うのか?」

 何時ものアルヴィナらしいそっけない対応に、一応桃色聖女に問う。とはいえ、正直答えは知っていた。


「え?それじゃユニットじゃなくない?オールスター作品じゃないんだし、色違いで個性を出しつつ統一したいよ?」

 ……それもそうだ、と頷く。

 となると、だ。アルヴィナの為にも下手なものは選べない。


「……アルヴィナちゃん?」

 心配そうなその友人の為にもだ。

「大丈夫だアナ。何時もの(・・・・)アルヴィナは狼だから、余り馴れ合わないだけだよ」

「皇子さまが言うなら、良いんですけど」

「大丈夫だ」

 そう告げて、目線を改める。

「ゼノ君?ま、次は私が変身再現するね?」

 案外ノリノリな少女は、それを気にさせないように明るくパフュームのような装置を手に取った。


 そして……

「というか、これは辺境伯の意見も聞いてやるべきだったのではないか?」

「アナの最高のステージで感動したいから敢えて見ない、だそうだ」

 多分血の涙を流すだろうな、と思うがまあ教えに行く必要も……無かった、と思う。

 そんなこんなで、おれが選んだのは……

「ペンとペンダントの組み合わせかぁ……語呂合わせ行ったね」

「いや、ペンダントに光を溜めて、それを使ってペンで空中に描いて変身だろう?となれば、描くものでアルヴィナの個性も生かせる気がしてな」

「あー、そうかも。いや、おどろおどろしいもの描かないかはちょっと心配だけど」

 苦笑するリリーナ。

「アルヴィナちゃんなら、儚い方向で仕上げてくれるんじゃ……って思いますから」

 フォローするアナ。アルヴィナ自身は何も言わず、ちょっとつまらなさげに椅子に座って足を前後に揺らしていた。

「竪神は?」

「いや、私に異論はない。女の子の好みは分かりにくいから、使ってみる際の本人の表情でしか判断できないが、そのペンダントの時に空に光を描く姿は楽しそうに見えた」

「お、高評価。それじゃゼノ君の意見もあるし、これにしよっか」


 と、いうところで扉が軋む。咄嗟におれは地を蹴って二人と扉の間に割り込むが……

「皇子」

 必要ないな、と余計な警戒を解くべく空中を更に蹴って制動、やや視線を遮るには不向きな位置で着地。そうだ、頼勇も居るしいざとなればバリアくらいは貼れる。もしそれで駄目ならもうそもそも先手必勝しかないんだから……全員視線通る位置の方が良い。

 いやまあ、敵じゃないし越したことはないし、流石にこの場面で明確な敵……グリームニル辺りが出てくるとも思えないが。


「っと、ロダ兄?」

「……メリッサ」

 目敏くやや大柄な青年の背後にいる影に気が付き、頼勇が溢す。絞り出されるような、珍しい声音。

「あれ、何で?」

「ま、教員だろ?それに、俺様的にはそんな悪縁には色々な意味で見えないって訳よ、じゃ、案内くらいするってもんさ」

 あっけらかんと告げる青年に、だがおれはそうだなと頷く。その背後のやや年上の少女姿は、じっとおれを見つめていた。何かを告げるように、訴えるように。


 が、それは今応えるものではなくて

「……そろそろ今日は終わりにしようか、リリーナ、アナ」

 「あっ、そうだねゼノ君、帰って形式決まったから何色にするか相談しないと」

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