報告、或いはファンサ
「もう、そうじゃないって!
こう!手でハートをきゅんってやってから、見てくれるファンの人に向けて突き出して、そのままこう!両手を前に、抱きしめてもらいたいって感じに!」
「……あーにゃん、何これ」
困惑気味のアルヴィナが、その耳を左右に伏せながら尋ねる。
「あはは……わたしにもちょっと」
「えー、アーニャちゃんなら分からない?腕輪の聖女様って形で結構説法とかでアイドルチックな事もやってたんだしさ」
言われ、銀髪の少女は困ったように小首を傾げた。
「そこは、わたしは言葉で伝わるように頑張ってましたから、その……身ぶりでのふぁんさ?っていうのは全然やっていなくて」
「うん、その小首を傾げる仕草とか良いじゃん?ステージでキラキラ輝くならもっと目立つ動きが欲しいけど、アーニャちゃん天性だよそれ。ファンサ職人」
興奮気味にブンブン手を振る桃色聖女。困った顔の銀髪聖女、そして無茶振りからの置いていかれてつまらなさげな屍の皇女。そんな三人を少し遠巻きに眺めながらおれは……
「縮退炉、か。
言われてみれば、今の姿は心臓だけを沢山持つ異形と言われればそうなのかもしれないな」
と、同じく護衛として組んだ頼勇に昨日のことを話していた。
「入手できれば良かったんだが……」
「そこは言いっこなしだろう。原因が分かったというだけでかなりの収穫だ」
「取り外して機体を縮退炉用に手直しするか?」
「いや、それは危険だ。唯でさえきな臭さは増している。メリッサまで現れた。
……これは、何を示唆しているんだろうな?」
言われ、おれは首を傾げる。
だが、何となく繋がるものはあって……。彼女はオーリリア、と名乗った。それは早坂桜理……サクラ・オーリリアと同じ苗字だ。そして、妙にシンパシーでも感じているロダ兄って、実はあれ苗字変わってるんだよな、本来の姓はルパンじゃない。
……多分、居なくなった親方の姓だとオーリリア。その全てに共通するのは桜というよりは桃色の髪。龍姫の加護のあるアナが青みがかった銀髪であるように、この桃色は晶魔の加護を多分意味している。
そして、虹を七色に切り分けた七つの天のうち晶魔が司る属性と、ぱっと見で似た属性を持つ魔神の一族といえば……
と、おれはふとファンサ練習中の少女達を見た。リリーナのあれは、対のような女神由来、似てる色で面倒臭い。
……あ、こっち見て……というところでアルヴィナが割って入ってる。言われたファンサポーズを決めてみているが、案外似合うな。
「気になる事がある。
死した魔神族を操る力。死んだ筈のルートヴィヒの権能。あれも、死人が現れるという点では同じ事。だけど……」
「《白き玲明魔を嘆き路照らさん》」
その声は、影の中から響いた。
「……シロノワール?」
「一瞬とはいえ、半ば死んでいるようなこの身に、アルヴィナへの刃を向けさせた毒龍の力だ。一度、見せ付けられた」
影から出て来ない。だが、苦々しげな声音だけで分かる。
「というか、死んでいるだろうシロノワール。それでも操る力に耐えられる」
ならばこれは、どんな死者でも従えるものではない。特定の相手を狙い撃ちにした権能。
「……皇子」
「シロノワール。前も聞いたがシュリはこの力について、何か言っていたか?」
答えは沈黙、だが、きっとそれが答えだったのだろう。シュリのヒントは分かりにくい時が多いからな。
「死した一部魔神族を操るって可笑しくはないか?」
それに、影から無言の肯定が届く。
「……私には強そうには思えるが」
「シュリと本人の意識が力に作用する。でも、だとしたら一部魔神を従えて何になるんだろうな?
疫病を撒き散らす四天王。けれど、シュリなんてその遥か上位互換みたいな心毒の龍神だ。恐れる必要性がまるで無い。従わせる相手として、これ以上無く無駄なんだ。
だからきっと、本来の用途は違うんだ。似た性質を持つ者はアルヴィナ達の血筋の他にも居る。
オーリリア、七大天の晶魔の加護の血筋。本来あれは、副次的にブランシュの名を冠した魔神を操れるだけで……本来はAGX-15アルトアイネスへのカウンターとして与えられた能力だったんだ。
円卓と対峙した時、何とかしてオーウェンを殺して操り最大の力を引き込む、その為の逆転の権能」
吐きそうになって額を抑える。
語るだけで気分が悪い。死して尚他人を都合良く扱う為の能力って何だそれは。自分でも似たような事をしているからこそ、醜悪さから眼を背けられずに肺が、胃が燃えるように痛む。
「……だから、だな」
「ああ」
二人して頷く。
「縮退炉版が早々に完成すれば良い。だが、こんな情勢で、完成するかも分からない本来の仕様の為に不完全で暴走する形とはいえリバレイターを無くす訳にはいかない。
少々勿体無いが、もう一機作る。不幸中の幸いだが、どう作って良いのか分からない最後のジェネシックの分、私達には更なる一機分の素材がある。余裕はあるさ」
「メリッサが、竪神の師が、敵として立ちはだかるというならば。それを超え、解放するために」
「私事には、半ばなってしまうが」
「おれがどれだけ私事にかまけてたと思ってるんだ竪神」
拳と拳を突き合わせて、改めて覚悟を決め直す。
そんな空気を割いたのは、明るい声であった。
「おーいゼノくーん!ちょっと意見貸してー!」